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仙台地方裁判所 平成4年(ワ)497号 判決 1996年3月22日

原告

佐藤研

(原告番号一番)

井上仁市

(原告番号二番)

菅原勝吉

(原告番号三番)

渡辺新造

(原告番号四番)

佐藤聖

(原告番号五番)

吉田清

(原告番号六番)

渋谷哲三郎

(原告番号七番)

千葉哲郎

(原告番号八番)

草沢清春

(原告番号九番)

佐藤忠男

(原告番号一〇番)

佐々木松一

(原告番号一一番)

氏家卯市

(原告番号一二番)

安倍七五郎

(原告番号一三番)

佐藤守志

(原告番号一四番)

神田温悦

(原告番号一五番)

氏家三郎

(原告番号一六番)

小澤幸太郎

(原告番号一七番)

鈴木政志

(原告番号一八番)

氏家正志

(原告番号一九番)

尾崎信

(原告番号二〇番)

小野寺昭吉

(原告番号二一番)

加藤晃

(原告番号二二番)

佐藤京一

(原告番号二三番)

右原告二三名訴訟代理人弁護士

小野寺信一

小野寺利孝

小野寺義象

鹿又喜治

草場裕之

齋藤信一

齋藤拓生

斉藤睦男

杉山茂雅

高橋春男

佃俊彦

土田庄一

長澤弘

新里宏二

長谷川壽一

長谷川史美

半沢力

水口洋介

村松敦子

山下登司夫

右小野寺信一訴訟復代理人弁護士

山田忠行

高橋輝雄

小関眞

土井浩之

馬奈木昭雄

稲村晴夫

安江祐

太田賢二

被告

三菱マテリアル株式会社

右代表者代表取締役

藤村正哉

右訴訟代理人弁護士

成富安信

田中等

高見之雄

清水修

上松正明

佐藤昌利

被告

細倉鉱業株式会社

右代表者代表取締役

菅沼俊夫

被告

大手開発株式会社

右代表者代表取締役

柏木高明

右被告二名訴訟代理人弁護士

成富安信

田中等

高見之雄

清水修

上松正明

主文

一  別紙一「認容金額一覧表」の「被告」欄記載の被告らは各自、同表の「原告」欄記載の各原告に対し、同表の「認容金額合計」欄記載の各金員及び右各金員に対する同表の「遅延損害金起算日」欄記載の各日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告らの、その余を被告らの各負担とする。

四  この判決は、第一項記載の金員のうち、前同表の「仮執行認容額」欄記載の金額の限度において、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一章  原告らの請求

第一  被告三菱マテリアル株式会社(以下、「被告三菱マテリアル」という。)及び被告細倉鉱業株式会社(以下、「被告細倉鉱業」という。)は各自、別紙「当事者目録」記載の原告番号一ないし一一番及び一八ないし二一番の各原告に対し、それぞれ三三〇〇万円及びこれに対する別紙二「原告ら元従業員作業等一覧表その一」記載の各原告の最終行政決定日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  被告三菱マテリアルは、別紙「当事者目録」記載の原告番号一二ないし一七番の各原告に対し、それぞれ三三〇〇万円及びこれに対する別紙二「原告ら元従業員作業等一覧表その一」記載の各原告の最終行政決定日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第三  被告三菱マテリアル、被告細倉鉱業及び被告大手開発株式会社(以下、「被告大手開発」という。)は各自、別紙「当事者目録」記載の原告番号二二番及び二三番の各原告に対し、それぞれ三三〇〇万円及びこれに対する別紙二「原告ら元従業員作業等一覧表その一」記載の各原告の最終行政決定日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二章  当事者の主張

第一  請求の原因

一  原告らの就労した鉱山とその経営主体

1 細倉鉱山

細倉鉱山は、九世紀中葉に発見され、徳川時代には仙台藩の所有するところであった宮城県栗原郡所在の鉱山である。

三菱鉱業株式会社は、昭和九年、細倉鉱山の鉱業権を取得し、細倉鉱業所として、その経営を開始した。

三菱鉱業株式会社は、昭和二五年四月一日、存続会社三菱鉱業株式会社と第二会社太平鉱業株式会社に分割され、細倉鉱山の経営は、太平鉱業株式会社が承継した。太平鉱業株式会社は、昭和二七年、三菱金属鉱業株式会社へ、更に、昭和四八年、三菱金属株式会社へ、それぞれ商号を変更した。

三菱金属株式会社は、昭和五一年四月、子会社である被告細倉鉱業を設立し、同年七月に営業讓渡をして以後、被告細倉鉱業が細倉鉱山の経営を承継した。

三菱金属株式会社は、平成二年一二月、三菱鉱業セメント株式会社(三菱鉱業株式会社が、昭和四八年、子会社であった三菱セメント株式会社と豊国セメント株式会社を吸収合併して商号を変更したもの)と合併し、被告三菱マテリアルへ商号を変更した(三菱鉱業株式会社が、昭和九年に細倉鉱山を買収して以後、右会社は、分割・合併等の組織変更を経て、被告三菱マテリアルとなったが、それまでの各会社の権利・義務については、被告三菱マテリアルが包括承継しているから、以下、これら各会社の権利・義務が問題となる場合には、これらを一体のものとして、「被告三菱マテリアル」ということとする。)。

被告細倉鉱業は、昭和六二年三月、細倉鉱山を閉山した。

本件原告らはいずれも、別紙二「原告ら元従業員作業等一覧表その一」記載の期間、細倉鉱山で就労した者である。

2 その他の鉱山

(一) 鷲合森鉱山は、被告三菱マテリアルが鉱業権を有していた岩手県所在の鉱山である。

原告番号六番吉田清及び原告番号一一番佐々木松一は、別紙二「原告ら元従業員作業等一覧表その一」記載の期間、鷲合森鉱山で就労した者である。

(二) 尾去沢鉱山は、被告三菱マテリアルが鉱業権を有していた秋田県所在の鉱山である。

原告番号九番草沢清春は、別紙二「原告ら元従業員作業等一覧表その一」記載の期間、尾去沢鉱山で就労した者である。

(三) 佐渡鉱山は、被告三菱マテリアルが鉱業権を有していた新潟県所在の鉱山である。

原告番号二二番加藤晃は、別紙二「原告ら元従業員作業等一覧表その一」記載の期間、佐渡鉱山で就労した者である。

(四) 福舟鉱山は、被告三菱マテリアルが共同鉱業権を有していた山形県所在の鉱山である。

原告番号二二番加藤晃及び原告番号二三番佐藤京一は、別紙二「原告ら元従業員作業等一覧表その一」記載の期間、分離前相被告株式会社熊谷組(以下、「熊谷組」という。)との契約に基づき、福舟鉱山で就労した者である。

(五) 福富鉱山は、東邦亜鉛株式会社が鉱業権を有していた山形県所在の鉱山である。

原告番号二三番佐藤京一は、別紙二「原告ら元従業員作業等一覧表その」記載の期間、熊谷組との契約に基づき、福富鉱山で就労した者である。

二  当事者

1 原告ら

原告らは、別紙二「原告ら元従業員作業等一覧表その一」記載のとおり、被告らに雇用され、右各鉱山で就労してきた者である。

すなわち、

(一) 原告番号一ないし一一番の各原告は、別紙二「原告ら元従業員作業等一覧表その一」記載の各期間、被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業との間で順次締結された契約に基づき、細倉鉱山、鷲合森鉱山及び尾去沢鉱山において、同一覧表記載の各職種に従事してきた。

(二) 原告番号一二ないし一七番の各原告は、別紙二「原告ら元従業員作業等一覧表その一」記載の各期間、被告三菱マテリアルとの間で締結された契約に基づき、細倉鉱山において、同一覧表記載の各職種に従事してきた。

(三) 原告番号一八ないし二一番の各原告は、別紙二「原告ら元従業員作業等一覧表その一」記載の各期間、熊谷組、被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業との間で順次締結された契約に基づき、細倉鉱山において、同一覧表記載の各職種に従事してきた。

(四) 原告番号二二番の原告は、別紙二「原告ら元従業員作業等一覧表その一」記載の各期間、熊谷組、被告大手開発、被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業との間で順次締結された契約に基づき、細倉鉱山、福舟鉱山及び佐渡鉱山において、同一覧表記載の各職種に従事してきた。

(五) 原告番号二三番の原告は、別紙二「原告ら元従業員作業等一覧表その一」記載の各期間、熊谷組及び被告大手開発との間で順次締結された契約に基づき、細倉鉱山、福富鉱山及び福舟鉱山において、同一覧表記載の各職種に従事してきた。

(六) 本件原告らは、別紙二「原告ら元従業員作業等一覧表その一」記載の最終行政決定日に、同一覧表記載の管理区分及び合併症の認定を受けた者である。

2 被告ら

被告らは、別紙二「原告ら元従業員作業等一覧表その一」記載のとおり、本件原告らの雇用者である。

(一) 被告三菱マテリアル

明治二六年に設立された三菱合資会社は、炭礦、鉱山の経営を専門に担う会社として三菱鉱業株式会社を設立した。

三菱鉱業株式会社は、右一1記載の経緯で、被告三菱マテリアルへと組織変更されてきた。

被告三菱マテリアルは、右二1記載のとおり、原告番号一ないし二二番の各原告を雇用し、細倉鉱山、鷲合森鉱山及び尾去沢鉱山において各作業に従事させてきた。

(二) 被告細倉鉱業

被告細倉鉱業は、昭和五一年四月、三菱金属株式会社の子会社として設立され、同年七月営業讓渡を受けて細倉鉱山の経営にあたり、三菱金属株式会社が、三菱鉱業セメント株式会社と合併し、被告三菱マテリアルに商号を変更した後は、被告三菱マテリアルの子会社となった。

被告細倉鉱業は、右二1記載のとおり、原告番号一ないし一一番及び一八ないし二二番の各原告を雇用し、細倉鉱山において各作業に従事させてきた。

(三) 被告大手開発

被告大手開発は、昭和三九年一二月、三菱金属鉱業株式会社経営の鉱山の坑道掘進などを行うため設立された三菱金属鉱業株式会社の子会社であり、三菱金属鉱業株式会社が、その後被告三菱マテリアルに組織変更されるに従い、それぞれの子会社となった。

被告大手開発は、その設立以降昭和五一年六月までは被告三菱マテリアルとの間で、また、昭和五一年七月以降は被告細倉鉱業との間で、坑道掘進などの坑内作業の請負契約を締結し、右二1記載のとおり、原告番号二二番及び二三番の各原告を雇用し、細倉鉱山及び佐渡鉱山において各作業に従事させてきた。

(四) 熊谷組

熊谷組は、昭和二六年頃から昭和五一年六月までは被告三菱マテリアルとの間で、また、昭和五一年七月以降は被告細倉鉱業との間で、坑道掘進などの坑内作業の請負契約を締結し、右二1記載のとおり、原告番号一八ないし二三番の各原告らを雇用し、細倉鉱山及び福舟鉱山において各作業に従事させてきた。

三  被告らにおける労働実態と粉じん

1 金属鉱山における採鉱作業の概要

(一) 採鉱作業の工程

採鉱に当たっては、まず、立坑や通洞坑から鉱体に向けて水平に、さく岩された鉱石等を運び出すための水平坑道(立入れ坑道)を掘削する。鉱体に到達すると鉱脈に沿って鉱脈の中に水平坑道(ひ押し坑道)を掘削する。次に、水平坑道から人の通路となる人道及び鉱石等を落とすための坑井として、上方向に坑道を掘削していく(掘上がり掘進)。掘上がり掘進を行って坑道が上段の水平坑道に到達すると、採掘準備が完了する。そして、採掘準備が完了すると、採掘作業が行われる。なお、他に坑道掘進として、掘下がり掘進、斜坑掘進も行われる。また、右各作業に伴い、運搬作業や支保作業が行われる。

(二) 坑内作業の内容

(1) さく岩作業

さく岩員の担当する作業であり、さく岩機で火薬を装填するための孔を切羽面に掘削し、さく岩作業によってあけられた孔に火薬を装填し、爆発させて岩盤や鉱石を破砕する作業である。

(2) 運搬作業

運搬員の担当する作業であり、発破によって砕かれた岩石(ズリ)及び鉱石を鉱車に積み込み、選鉱場に運び出す作業である。

(3) 支保作業

支柱員の担当する作業であり、発破を行った切羽などにおいて、落盤のおそれのある場所などの岩盤に落盤が起きないように支柱を入れたり、掘削作業のための足場を築く作業である。

(4) 整備作業

整備員(昭和四六年以前は坑内工作員)の担当する作業であり、掘進作業によって切羽面が前進していくに従って、鉱車を通すためのレールを延長したり、動力源になる圧縮空気等のパイプを延長する作業である。

(5) 坑内巡視

担当職場内での配番、段取り、保安係員業務及び作業の指示をする仕事であり、この仕事をする者は、坑内巡視員ないし職長と呼ばれた。

(三) 坑内作業の体制

坑内作業は、多くの場合二方に分かれて行われ、一方の労働時間は、午前八時から午後三時三〇分(但し、昭和五七年からは午後四時までに延長された。)までであり、二方の労働時間は、午後二時三〇分から午後一〇時(但し、昭和五七年からは午後一〇時三〇分までに延長された。)までであった。また、一日二時間の残業が行われることもあった。

当初、坑内作業は、分業体制で行われており、それぞれの作業員の作業内容は作業職種毎に特定されていたが、昭和三五年頃の水平坑道掘進においては、二人一組のクルーと呼ばれる作業班が編成され、この作業班が、さく岩・発破・運搬等のすべての坑内作業を行うようになった。また、昭和四六年からは、採鉱作業は採鉱員と呼ばれる職種の職務とされ、採鉱員がすべての坑内作業を行うようになった。

2 坑道掘進現場のさく岩作業における粉じんの発生とその曝露

(一) 水平坑道掘進作業

(1) 水平坑道では、さく岩員が切羽面にドリフター等のさく岩機を使用して、火薬を装填する孔をあけていくが、タガネを岩盤に打撃し孔をあける際に、粉じんが多量に発生した。

戦後湿式さく岩機になり、それに使用する水は、湧水等をウォータータンクに溜めていたが、水の補給に手間がかかるために水が不足しがちであった。給水パイプが坑内に敷設されてからも、水圧の関係で、各作業現場で同時に湿式さく岩機に使用できないこともあった。また、タガネが岩盤にある程度打ち込まれて固定されるまで(これを口付け作業といい、約二分程度かかる作業である。)は、相方が岩盤に近づいてタガネを手で押さえておく必要があり、水を使ってさく岩作業を行うと、その者が跳ね返る水で水浸しになってしまったため、水を使っての作業はできなかった。

更に、さく岩機は、圧縮空気を動力源としているために、坑内に沈降して溜まっている粉じんが、さく岩機が排出する圧縮空気によって坑内に舞い上げられ、多量の粉じんが作業現場に充満した。

(2) さく孔作業が終了すると、さく岩員は、火薬を装填するが、きちんと装填できるように、さく岩機の動力源になっている圧縮空気を使用して、孔の中を掃除する。この際に、孔の中に残っていた粉じん等が、圧縮空気の圧力で飛び出してきて、粉じんが切羽面に充満した。

(3) その後、火薬を装填して岩盤を爆破する。この際にも多量の粉じんが発生した。ことに水平坑道の掘進においては、爆風の逃げ場がほとんどなく、発破をかけるために約五〇mから一〇〇m程度退避しているさく岩員等は、粉じんを多量に含んだ風に晒された。

(二) 掘上がり掘進作業

(1) 掘上がり掘進は、まず水平坑道の天盤に上向きに坑道をあけ、そこに鉱石を落とすための漏斗を取り付けるとともに、更に上方向に掘進していけるように人道と足場を築き、その後は、坑道を上向きに掘っていく作業である。

掘上がり掘進の場合に使用するさく岩機は、ストーパーと呼ばれる上向きさく孔用さく岩機であり、ドリフターと同様に圧縮空気を動力源としている。タガネを岩盤に打ちつけて孔をあける作業の際に、多量の粉じんが発生したこと、湿式さく岩機となってからも十分な水が供給されておらず、湿式として使用できないこともあったこと、また、口付け作業の際には、湿式として使用することができなかったことは、水平坑道掘進の場合と同様であった。

(2) 発破をかけると多量の粉じんが発生することも、水平坑道掘進の場合と同様であった。

(3) また、掘上がり掘進においては、掘り上がっていくに従って足場を上げていかなくてはならず、足場としてズリも利用する。そのため作業に伴って、底に溜まっている粉じんが、さく岩機の動力源となっている圧縮空気によって舞い上げられることになり、切羽面に粉じんが充満した。

(三) 掘下がり掘進作業

掘下がり掘進は、立坑を下向きに掘り下げていく作業である。下向きさく孔用さく岩機であるジャックハンマーで、下向きにさく孔後、発破をするが、これら作業においても、粉じんが発生した。

(四)斜坑掘進作業

斜坑掘進は、各坑区から集中ビンに集められた鉱石を、ベルトコンベアで選鉱場に運搬するための傾斜した坑道を掘り進む作業であるが、この作業においても、粉じんが発生した。

3 採掘作業における粉じんの発生とその曝露

(一) 採掘作業

採掘作業とは、鉛、亜鉛等の鉱石を採掘する作業であり、細倉鉱山においては、採掘方法として、主としてシュリンケージ採掘法と充填採掘法が採用された。

(二) シュリンケージ採掘法と粉じんの発生

シュリンケージ採掘法では、採掘準備作業として、下部坑道の天盤の鉱石をストーパーでさく孔し、発破をかけて崩落させて、採掘棚(本棚)及び漏斗を取り付けるが、その際、天盤にストーパーでさく孔を行うため、粉じんが発生し、更に、天盤を爆破する際多量の粉じんが発生した。

次に、完成した採掘棚を足場として、上向きにストーパーでさく孔して発破をかけ採掘を開始するが、さく孔及び発破を行う際に多量の粉じんが発生した。

その後は、発破による破砕鉱を採掘棚の上に拡げ、その破砕鉱を足場として、更に上部の鉱脈にさく孔をし、発破をかけて採掘を継続するため、採掘にあたっては常に多量の粉じんが作業現場に発生した。また、採掘作業に従事する者のさく孔作業に必要な空間を確保するため、常に足場鉱石と天盤との高さが約二mになるようにし、二mに満たなくなった場合には、破砕鉱を漏斗から引き抜き、作業を行える空間を確保する。そのため、採掘に従事する者は、高さ二m、幅1.3ないし3mの粉じんが充満している狭い空間で採掘作業を継続した。

(三) 充填採掘法と粉じんの発生

(1) 充填採掘法

充填採掘法とは、ズリ又はサンドスライムを採掘跡に充填しながら採掘を行う方法であり、細倉鉱山においては、上向充填採掘法、上向横押充填採掘法及び下向充填採掘法が実施された。

(2) 上向充填採掘法と粉じんの発生

上向充填採掘法は、採掘準備作業として、まず、下部坑道の天盤をストーパーでさく孔し、発破をかけて崩落させるが、さく孔、発破によって多量の粉じんが発生した。次に、採掘棚を取り付け、その採掘棚の脇に鉱石を落とすための坑井を設け、坑井の下部に漏斗を取り付ける。更に、坑井の脇には作業員が出入りするための人道を設ける。

以上の採掘準備が完了した後、完成した採掘棚を足場として、上向きにストーパーによるさく孔、発破を行い、採掘を開始するが、この際にも、同様に粉じんが発生した。その後、発破による破砕鉱をスラッシャー・スクレーパーを用いて坑井に落とし、採掘棚と天盤との間に採掘作業に従事する者がさく孔作業を行うための高さ二mの空間を残して、ズリ又はサンドスライムの充填を行う。

その後は、ズリ又はサンドスライムを足場にし、更に上部の採掘作業を行うが、その作業も、同様にストーパーによるさく孔、発破によるものであるから、採掘作業のたびに多量の粉じんが発生した。更に、その後も同様に、その破砕鉱を坑井に落とし、高さ二mの空間を残してズリ又はサンドスライムの充填を行い、さく孔、発破、破砕鉱の除去、充填を繰り返し、上部坑道に至るまで採掘を行うので、この間、粉じんは、さく孔、発破の都度発生し続け、採掘作業に従事する者は、高さ二m、幅1.3ないし3mの粉じんが充満している狭い空間で採掘作業を継続した。

(3) 上向横押充填採掘法と粉じんの発生

上向横押充填採掘法は、採掘準備作業として、まず、下部坑道の天盤をストーパーでさく孔し、発破をかけて崩落させるが、さく孔、発破によって多量の粉じんが発生した。次に、採掘棚を取り付け、その採掘棚の脇に鉱石を落とすための坑井を設け、坑井の下部に漏斗を取り付ける。更に、坑井の脇には作業員が出入りするための人道を設ける。

以上の採掘準備が完了した後、完成した採掘棚を足場として、横向きにレッグドリルによるさく孔、発破を行い、採掘を開始するが、この際にも、同様に粉じんが発生した。その後、発破による破砕鉱をカッチャと片口を用いて坑井に落とし、採掘棚と天盤との間に採掘作業に従事する者がさく孔作業を行うための高さ二mの空間を残して、ズリ又はサンドスライムの充填を行う。

その後は、ズリ又はサンドスライムを足場にし、横向きさく孔、発破、破砕鉱の除去、充填を繰り返し、上部坑道に至るまで採掘を行うので、この間、粉じんは、さく孔、発破の都度発生し続け、採掘作業に従事する者は、高さ二m、幅1.3ないし三mの粉じんが充満している狭い空間で採掘作業を継続した。

(4) 下向充填採掘法と粉じんの発生

下向充填採掘法とは、採掘準備作業として、まず、下部坑道から上部坑道に掘上がりを設置するが、この掘上がり掘進の際に、多量の粉じんが発生した。次に、右掘上がり坑道に、坑井と人道を設置し、坑井の下部に漏斗を設け採掘準備を完了する。

その後、上部坑道の下を竜頭として残し、竜頭の約2.7m下の坑井に、さく孔作業に必要な足場を設け、ドリフターを用いて横向きに鉱体にさく孔し、発破を行うが、その際に、多量の粉じんが発生した。

次に、発破による破砕鉱をスラッシャー・スクレーパーを用いて坑井に落とし、その奥の鉱体に対し、さく孔、発破を行うが、この際にも、同様に粉じんが発生した。更に、その破砕鉱を坑井に除去し、同様に二五ないし四〇mの奥行きに至るまで採掘作業を継続するが、その間、作業員は高さ約2.7m、幅1.5ないし四mの粉じんが充満している狭い空間で採掘作業を継続した。

このようにして、上部坑道の下一段目の採掘が完了した後、鉱石を取り除いた採掘跡の空間にモルタルを充填し、更に、モルタル上にズリ又はサンドスライムの充填を行って人工天盤を作り、上部坑道の下二段目の採掘作業に移行する。

下二段目の採掘作業も、下一段目の作業と同様に、坑井に足場を設けて横向きにドリフターを用いてさく孔し、発破、破砕鉱の除去を繰り返すため、粉じんが絶え間なく発生した。

以後、順次下部に移動し、下部坑道に至るまで採掘を行う。

4 運搬作業における粉じんの発生とその曝露

(一) 運搬作業における粉じんの発生

切羽で採掘されたズリ、鉛等の鉱石は、切羽運搬、坑道運搬、立坑運搬又は斜坑ベルトコンベア運搬を経て選鉱場に運搬されるが、その運搬過程においても多量の粉じんが発生した。そして、右運搬により、粉じん曝露地域は坑内全体に拡大するため、運搬作業に携わる者だけでなく坑内にいる全労働者が粉じん曝露を受けた。

(二) 切羽運搬における粉じんの発生

(1) 水平坑道の切羽におけるズリ及び破砕鉱は、まず、スラッシャー・スクレーパーによって一か所に掻き集められるが、その際に、ズリ及び破砕鉱から粉じんが坑内に舞い上がった。更に、一か所に集められたズリ及び破砕鉱は、ローダーによって鉱車に積み込まれるが、その際にも、多量の粉じんが発生した。

また、人力でカッチャによってズリ及び破砕鉱を掻き集め、片口によって鉱車に積み込む作業を行う場合にも、同様に粉じんが発生した。

(2) 採掘現場においても、シュリンケージ採掘法による場合には、スラッシャー・スクレーパーを用いて作業足場をならす際に多量の粉じんが発生し、また、充填法による場合には、スラッシャー・スクレーパーを用いて破砕鉱を掻き集め、坑井に落とす際に、多量の粉じんが発生した。

更に、採掘された鉱石は漏斗を通して鉱車に積み込まれるが、その際、自然落下による衝撃で粉じんが発生し、また、人力で漏斗から鉱石を抜き出す作業をも行うため、その際にも粉じんが発生した。

(三) 坑道運搬における粉じんの発生

坑道運搬には、中継点で自動的に鉱車の扉が開き積載しているズリ及び破砕鉱を中継点の鉱石ビンに投入するチップラーが使用されるが、鉱石ビンに落とす際に、粉じんが中継地点で新たに発生した。

(四) 立坑運搬及び斜坑ベルトコンベア運搬における粉じんの発生

一か所に集められたズリ及び破砕鉱は、ベルトコンベア運搬を行うため、クラッシャーで坑内破砕を行い粒度を整えるが、この破砕の際にも、新たな粉じんが多量に発生した。

クラッシャーで細かく破砕されたズリ及び破砕鉱は、スキップ立坑捲上げにより立坑運搬され、斜坑ベルトコンベアに送られるが、立坑運搬の際にも粉じんは立坑周辺に浮遊していた。

その後、ベルトコンベアに送られたズリ及び破砕鉱は、斜坑ベルトコンベアを経由して選鉱場に送られるが、斜坑ベルトコンベアの継目で落下する際にも多量の粉じんが発生した。

5 支保作業における粉じんの発生とその曝露

支柱は、丸太を使用しており、岩盤に約三cmの深さの孔をうがって、支柱をはめ込み固定させていく。この孔をうがつ根堀り作業に使用される道具は、金槌とタガネであり、基本的には手作業であって、その際、粉じんが飛び散り、しかも、顔の近くでタガネを岩盤に打ちつけるために、粉じんを多量に吸い込みながらの作業となった。

また、掘上がり掘進、シュリンケージ採掘法等を行う際には、漏斗を水平坑道の下部に作ったり、足場を築いたりする仕事があり、この仕事も支柱員の役割であり、これらの作業も岩盤に丸太等をはめ込んでいく作業であって、タガネを岩盤に打ち込む際に多量の粉じんが発生した。

6 整備作業における粉じんの発生とその曝露

坑道が延長されていくと、ズリや破砕鉱の運搬のために鉱車を通すレールを延長したり、さく岩機の動力源となる圧縮空気を通すためのパイプや水のパイプを延長したりする整備作業が行われる。

レールの延長作業においては、枕木を岩盤に敷いていくが、その際にツルハシやコールピックを使用して岩盤を削るため、粉じんが発生した。また、パイプを岩盤に吊るすための金具を岩盤に固定していくが、この作業はタガネやさく岩機を使用して岩盤に孔をあけて行うため、多量の粉じんが発生した。

7 坑内の作業環境と粉じんの曝露

坑内作業は、全工程において多量の粉じんを発生させる作業であり、しかも、これらの作業は、極めて閉鎖的な場所において行われているから、坑内において粉じんを除去しようとすると、十分な換気装置と集じん装置を備えておく必要があるが、細倉鉱山においては、換気装置も集じん装置も備えられていなかった。このために、坑内で発生した粉じんは、通気の十分でない切羽・坑道等に長時間漂っていることになり、また、坑内全体に自然通気によって運ばれ、飛散浮遊した。

8 製錬作業における粉じんの発生とその曝露

(一) 鉛製錬作業

鉛製錬の作業は、調合焼結工程、溶鉱工程及び電解工程に大別される。

製錬作業は、まず、選鉱場から送られてきた鉛鉱石に一度溶剤を加えて焼き固める作業(調合焼結工程)を行い、これにより作られた焼塊がパンコンベアで運ばれ、焼塊ビンに溜められる。これをショベルカーですくって溶鉱炉に入れ、鉄くずを溶剤として、コークスを燃料兼還元剤として、バッテリー等を原料として融合還元させ、溶けた鉛とそれ以外の「からみ」とに分離し、鉛をケットルに溜め、更に、機械でかき回して不純物(ドロス)を取り除いて粗鉛を作る(溶鉱工程)。この粗鉛を電気分解して純度の高い鉛を取り出す(電解工程)。

本件原告らのうち、この作業に従事したのは、原告番号四番渡辺新造のみであり、右原告は、一貫して、溶鉱工程に従事していた。

(二) 鉛製錬作業における粉じんの発生

パンコンベアで運ばれてきた焼塊は、焼塊ビンに落とされるが、焼塊が乾いていることから、その際に多量の粉じんが発生した。

焼塊ビンに溜まった焼塊は、ショベルカーですくって溶鉱炉に入れるが、その際に多量の粉じんが発生し、炉の周辺は常に粉じんが漂っている状況であり、粉じんを吸いながらの作業となった。

また、溶鉱炉の付近には、集じん装置がなく、高熱でコンプレッサーを使用しているため、鉛を含んだ粉じん(ヒューム)が多量に飛散している状況であった。

更に、溶鉱工程においては、煙道に溜まったすすを掻き出して煙道を清掃する作業が、月に二、三回の割合で行われていた。この作業は、煙道の中に入って行うものであり、煙道から出ると全身が真っ黒になるほどであって、相当量の粉じんを吸入する作業であった。

四  じん肺の病像とじん肺の歴史

1 じん肺の病像

(一) じん肺の病像の概要

(1) じん肺とは、粉じんを吸入することによって肺に生じた線維増殖性変化を主体とする疾病である。臨床病理学的には、各種の粉じんの吸入によって胸部エックス線に異常粒状影、線状影が現れ、進行に伴って肺機能低下をきたし、肺性心にまで至る、剖検すると粉じん性線維化巣、気管支炎、肺気腫を認め、血管変化を伴う疾患である。

じん肺法(昭和五二年に改正後のもの、以下、「改正じん肺法」という。)二条によれば、じん肺とは「粉じんを吸入することによって肺に生じた線維増殖性変化を主体とする疾病」であって、「肺結核その他のじん肺の進展経過に応じてじん肺と密接な関係があると認められる疾病」を合併することがあると定義されている。

(2) 改正じん肺法は、じん肺の健康管理の体系として、管理一から管理二、管理三イ、管理三ロ、管理四までのじん肺管理区分(同法四条)を定めている。

管理二から管理三ロまでについては、その段階に応じて粉じん作業から遠ざける措置が定められており、管理四になると初めて要療養とされ、休業補償の対象となる。

また、管理二、管理三であっても、改正じん肺法が定めた五つの合併症に罹患すると、同じく要療養とされ、労働災害として休業補償が支給される。

(3) じん肺の病理学的特徴は、肺線維症の像を呈することである。気管、気管支などの下気道には、吸い込まれた粉じんなどを分泌物と一緒に喉頭の方へ輸送して排出する自浄作用が備わっているが、これによって除ききれずに肺胞に到達した粉じんは、肺胞間隙から肺胞壁中に入り、更に、その部のリンパ組織中に入る。一部はその部にとどまり、一部はリンパの流れに従って肺門部のリンパ節、胸膜のリンパ組織に達する。また、肺の血管周囲のリンパ組織にも蓄積する。粉じんは、次第にマクロファージ(大食細胞)により貪食され、貪食したマクロファージは、変性し、死滅する。貪食された粉じんの毒性でマクロファージが破壊され、遊離した細胞成分が線維芽細胞に作用してコラーゲン線維の増殖を起こす。増生した線維は、時を経て線維束になり、結節状になる。こうして結節が形成される。結節は一ないし三mm程度のものが多いが、時には五ないし七mmにも達する。その分布もだんだんと密度を増し、結節同士が融合することもある。

(4) じん肺にみられる肺機能低下、不全の原因は、主として肺の線維化、肺の気腫化病変による。じん肺の進展に伴って起こった肺弾性の低下、正常肺組織の減少、気道の狭窄、閉塞などにより、呼吸量の減少、気道の通気障害を起こし、換気障害をきたすため、間質の線維化による肺血管床の減少は、肺胞壁の線維化、肥厚による拡散障害とともに血中酸素量の欠乏を惹き起こし、ひいては肺循環障害をきたすので、慢性高血圧を経て右心不全症状を呈し、肺性心に至る。また、細気管支レベルの病変に伴って肺炎などの感染が起こりやすくなり、気道の炎症性変化を呈することも少なくない。

(5) 症状としては、初期の頃は何らの症状も示さない。初発症状は体動時の息切れである。進行すると息切れの程度は強くなり、動悸、咳、痰などを訴えるようになり、また、しばしば胸痛を訴える。進行するに従い、心肺機能は悪くなる。全肺気量、肺活量は減少し、残気量は増加する。拡散機能も低下し、動脈血酸素飽和度の低下、炭酸ガス分圧の上昇を示し、チアノーゼを呈してくる。肺血管抵抗は増加し、心拍出量は減少することが多い。右心に対する負荷は次第に増大し、右心肥大、ついには肺性心の状態を惹き起こすに至る。

(6) 一旦じん肺による変化をきたした組織は回復不可能で、粉じん環境から離れた後も次第に増悪する。したがって、粉じん職場からの配置転換の時期によって予後が左右されるが、肺結核を合併したり、肺性心を惹き起こしてくると、予後は不良である。治療としては、慢性気管支炎や肺気腫に対するような対症療法を行うが、決定的な治療方法はない。

右病変の過程において、合併症を伴うことも多く、改正じん肺法施行規則では、肺結核、結核性胸膜炎、続発性気管支炎、続発性気管支拡張症、続発性気胸が合併症と規定され、その他にも肺炎、各種の癌、潰瘍等が発症する。

(二) じん肺の特徴

(1) 不可逆性

一旦肺に線維増殖性変化が起こると、その後粉じん作業を止め粉じんの吸入を避けても、病状は不可逆的に進行し、その進行を妨げる治療をすることは不可能である。

(2) 慢性進行性

一旦じん肺に罹患した場合、その病状は日々進行し、心肺機能が侵され続け、粉じん職場を離職した後も病状が悪化するのを避けることはできない。

(3) 全身性

肺は、人間の生命保持と活動に不可欠な人体のガス交換をつかさどる最も重要な臓器の一つである。したがって、肺が破壊されることは、即生命への危険を意味する。その結果、労働はもちろん、入浴や外出などの日常的な行動すら大きく制約され、更には日常の起居動作すら困難となる。

更に、肺機能の障害は、人体の諸種の機能に様々な影響や負担をもたらし、生命活動全体に様々な障害を及ぼしていく。

このため、じん肺は、肺結核等死と直結した呼吸器の合併症のみならず、心不全、消化管潰瘍、他臓器の癌等の重大疾病を伴い、合わせて他疾病の治療を極めて困難にさせる。

2 じん肺の歴史

わが国において、明治になると、鉱山での火薬の利用が急増したこと等によって、じん肺の被害が増大し、更に、大正から昭和初期にかけて、鉱山でさく岩機が普及したことにより一層被害が増大した。

このような状況の中で、労働者は、政府に対しては、じん肺を職業病として認めること、また、企業に対しては、じん肺対策を実施することを要求し、昭和四年、鉱業警察規則に、わが国最初のじん肺防止規定が設けられた。

昭和五年、政府は、ILOが、じん肺を職業病として取り上げたのを受けて、じん肺症のうち、鉱夫のけい肺を職業上の疾病に指定し、次いで昭和一一年には、製鉄所などにおけるけい肺が業務上の疾病として取り扱われるようになった。

昭和九年、日本鉱山協会が全国で鉱山衛生講習会を実施したが、右鉱山衛生講習会では、防じん装置の設置、散水等の発じん防止策、マスクによる吸じん防止策及び健康診断やじん肺教育の必要性が強調された。

戦後、日本鉱山労働組合によるじん肺の根絶と保護法の制定要求の運動が展開され、各地でけい肺根絶の要求が起こり、労働省も昭和二三年以降全国規模のけい肺一斉巡回検診を実施した。細倉鉱山においても昭和二三年の巡回検診により相当数のけい肺、肺結核合併症の患者が発見された。しかし、保護法は未だ立法化されなかった。

このような中で、日本鉱山労働組合は、昭和二六年、保護法案を作成し、炭鉱等の労働組合と共闘して、保護法立法化運動に取り組んだ。

昭和三〇年、けい肺等特別保護法が制定され、昭和三三年四月には、けい肺及び外傷性脊髄障害療養等に関する臨時措置法が制定され、続いて昭和三五年三月三一日、じん肺法(以下、「旧じん肺法」という。)が制定された。多様な職業病の中で、単独の保護立法を有するのは、じん肺のみである。

五  被告らの責任

1 万全の健康保持義務

使用者は、自己の支配下に使用する労働者に対し、労働者の生命・身体の安全と健康を保持し、その侵害を未然に防止すべく万全の措置を講ずべき義務を負う。

2 被告らの具体的義務

本件原告らの作業場は、前記三記載のとおり、さく岩・発破・支柱・運搬その他のいずれの作業の過程においても、粉じんを多量に発生させるものであった。前記四記載のとおり、粉じんの吸入によってじん肺という職業病が発生することは古くから知られ、また、被告らは、後記4(一)記載のとおり、細倉鉱山において、じん肺が発生していたことを知っていたのであるから、漫然と労働者を粉じん職場で働き続けさせたならば、じん肺が発生し続けるであろうことを、十分予見していた。

じん肺の発生が予見されながらあえて労働者に粉じん作業という危険業務をさせるのであるから、被告らは、たえず実践可能な最高の医学的・科学的・技術的水準に基づくじん肺防止措置を尽くして、じん肺の発生を防止する義務があった。

すなわち、被告らは、以下のとおりの具体的義務を負っていた。

(一) 作業環境の管理に関する義務

(1) 定期的粉じん測定とそれに基づく作業環境状態評価の義務

作業環境における有害かつ吸入性の粉じんの有無及び濃度の定期的測定を行い、右の測定結果に基づく安全性の観点からの当該作業環境の状態の評価を行うべきである。

(2) 粉じんの発生・飛散抑制等の義務

① 粉じんの発生抑制義務

まず、粉じんは発生源において抑制、防止しなければならない。その対策は、次のとおりである。

ア 有害発じん工程を廃止・包囲・隔離する。

イ 作業の湿式化(湿式さく岩機の採用、給水管の設置、十分な水の確保等)を図る。

ウ 発じん源に対して散水・噴霧する。

② 粉じんの飛散抑制・除去義務

発生源で粉じんが抑制しにくい場合、速やかにこれらの粉じんが空気中へ飛散しないような対策を採らなければならず、また、粉じんの飛散防止が十分できないときは、発生粉じん又は浮遊粉じんの除去対策を尽くさなければならない。飛散粉じんの抑制、除じん対策は、次のとおりである。

ア 通気の改善(通気系統の整備、廃坑の整備、風管・扇風機の設置等による強制通気)

イ ウォーターカーテン・スクリーンの設置

ウ 坑内集じん器の設置

エ 噴霧器による散水

(二) 作業条件の管理に関する義務

(1) 粉じん吸入曝露の機会減少義務

発生源粉じん抑制・防止対策、飛散粉じんの抑制・除じん対策を行ってもなお粉じんが発生、浮遊する作業場で、労働者を働かせる場合には、最低限度の義務として、粉じん曝露の機会を少しでも減らすため、労働時間を短縮し、休憩時間を十分確保し、粉じんから遮断された場所に休憩所を設けるべきである。

また、労働者の体力を回復し健康増進を図るため、休暇を保証し、厚生諸施設を完備することが重要である。

更に、集団的な請負給制度(刺激的賃金体系)は、ノルマ(標準作業量)をこなし、より多くの給与を求めて出来高を伸ばすべく、しばしば、じん肺防止と相容れない作業方法で過度な労働をすることにつながるので、見直されるべきである。

(2) 粉じん吸入阻止義務

発生を防止し、飛散を抑止したり、除去できなかった粉じんを吸い込まないよう、有効かつ装着に適したマスク等の保護具及びその付属品を支給すべきことを次善の策として行うべきである。また、右保護具の使用の徹底とともに、その使用が可能な諸条件を被告らの責任で整えることが、その前提条件である。

(三) 健康等の管理に関する義務

(1) じん肺教育の義務

労働者自身がじん肺発生のメカニズム、危険性、有害性について十分認識するよう、定期的・計画的な安全衛生教育を行うべきである。

(2) 粉じん測定結果の告知等の義務

粉じん測定の結果と危険の程度を知らせ、防じんマスクの使用方法、保守管理等についての説明をすることが必要である。

(3) 健康診断受診の実施徹底義務

じん肺罹患者が発生していないかを確かめ、もし発生しているならば、当該罹患者に告知することはもちろん、労働者全員に当該職場における発生状況を随時説明して、じん肺に関する注意を喚起するとともに、早期に適切な対策を立てるために、一般的な健康診断はもとより、じん肺専門医による特別な健康診断を労働者にもれなく受けさせることが必要である。

(4) 早期の罹患者対策実施義務

被告らがじん肺発生を防止できず、労働者をじん肺に罹患させてしまったならば、軽症であっても、それ以上粉じんを吸入することがないように速やかに非粉じん職場への配置転換をし、療養の機会を保証すべきである。

3 被告らの義務懈怠

(一) 作業環境管理義務違反

(1) 定期的粉じん測定とそれに基づく作業環境状態評価の義務の懈怠

被告らは、昭和二三年から二五年頃、一時、調査研究の必要性について関心を示したにとどまり、その後具体的な措置を講じなかった。

(2) 粉じんの発生・飛散抑制等の義務の懈怠

① 粉じんの発生抑制義務の懈怠

ア 散水・噴霧の懈怠

被告らは、掘進、採掘で一切散水・噴霧を行わず、また、給水(配水)設備が不十分で、一部の作業場で十分な散水を行おうとすれば、水圧の低下によって他の作業場では、さく岩等の作業に支障をきたす状態であった。

イ さく岩機の湿式使用の不徹底

細倉鉱山で湿式さく岩機が一部で導入され始めたのは、昭和二十数年頃になってからのことであり、その導入は遅く、また、湿式さく岩機が使われるようになってからも、口付け作業は、水を使用することなく、乾式で行われるのが通常であった。

② 粉じんの飛散抑制・除去義務の懈怠

ア 通気の改善の懈怠

被告らは、主として気圧差と温度差による自然通気法を採っていた。しかし、この通気法は、発生・浮遊粉じん対策としては、風量が少なく、そればかりか、かえって季節や時間帯によっては、通気の流れが悪化する。更に、入気と排気が分離されていないため、粉じん発生源や坑内に滞留し、あるいは浮遊する粉じんを洗った排気が坑内作業現場に流入していることもあり、不十分なものであった。

また、入気と排気とを別系統にし、風管を設置、延長し、扇風機を設けるなどの強制通気は行われなかった。

イ 集じん装置の設置の懈怠

被告らは、作業現場に、集じん装置をはじめとする発生・浮遊粉じんを除去する装置を設置しなかった。

(二) 作業条件管理義務違反

(1) 粉じん吸入曝露機会減少義務の懈怠

① 労働時間の短縮

被告らは、生産性の向上を図るべく、クルー員、採鉱員という職種を作り、労働密度の強化を図った。

更に、従前は七時間半の労働時間であったものを、昭和五七年から八時間に延長し、また、通洞坑から坑内事務所に赴く方法を改め、立坑入口に駐車場を設け、直接ゲージで坑内事務所に赴く体制に変更して、作業効率の向上と実労働時間の延長を図った。

この他、係員が巡回し、残業を指示することも少なくなかった。

② 刺激的賃金体系の見直し

細倉鉱山の労働者には、固定給と請負給を組み合わせた給与制度が採用された。

労働者は、より多くの給与を得るために、ノルマを達成し、更に出来高を増やすべく、作業効率を重視し、じん肺防止の観点はないがしろにされた。

(2) 粉じん吸入阻止義務の懈怠

① 坑内作業

被告らの防じんマスクの支給は遅かった。国家検定規格の防じんマスクが作られたのは、昭和二五年であったが、被告らがさく岩員にだけ防じんマスクを支給した(この時は、その他の支柱や運搬等の従事者にはマスクを支給しなかった。)のは、その後であった。更に、被告らが労働者全員に防じんマスクを支給したのは、昭和四六年になってからであった。

また、被告らが支給したマスクは、鉱山の坑内作業環境を考慮して選択されたものではなく、性能、材質、形状ともに坑内の粉じん作業には適さないものであり、粉じん捕集効率も極めて悪かった。

更に、個々の作業員にマスクを支給する際に、個々人の顔面への密着性が最も確実であるかどうかを検討して選択されたものでもなかった。したがって、装着性も悪く、マスク横等の隙間から粉じんが口や鼻に入り、粉じん吸入を十分防止できなかった。その上、濾過材は毎日洗濯して長期間使用していたものであって、濾過性能の低下などには注意は払われていなかった。

そして、マスク着用の意義、目的を労働者に理解させるような教育は全くされなかった。

② 製錬作業

前記のとおり、国家検定規格の防じんマスクが昭和二五年に作られた以降、約一年の間に、検定に合格した防じんマスクが二〇種類もあったにかかわらず、被告らは、昭和二九年当時においても、風邪をひいた際に使用する程度の三角のスポンジ製マスクを支給したにすぎなかった。

また、昭和三七年以降は、労働省通達により、製錬作業場のような鉛等の中毒を起こすおそれのある粉じん(ヒュームを含む。)を発する場所における作業では、特級のマスクを使用しなければならない旨定められたにもかかわらず、被告らは、右通達に違反し、昭和三七年から昭和四〇年までの間、二級のマスクを支給していた。

被告らは、昭和四一年以降、特級のマスクを支給したものの、昭和五三年の時点においても、作業員全員にそれが支給されていたわけではなかった。

(三) 健康等管理義務違反

(1) じん肺教育の義務の懈怠

被告らは、直接、一般作業員に対し、じん肺についての教育を行ったことはなかった。また、一般作業員の指導、教育を直接担当する現場係員に対する教育内容は保安教育が中心で、じん肺教育は全く重視されていなかった。したがって、そこで教育された係員が行う坑内での五分間教育では、生産減少、生産設備の損壊に直接結び付く坑内火災、落盤等の災害防止の保安面の教育が行われただけであり、じん肺に関する教育は行われなかった。

(2) 健康診断受診の実施徹底及び早期の罹患者対策実施の義務の懈怠

被告らは、じん肺健康診断を十分実施せず、じん肺健康診断を実施した場合においても、その結果を受診者すべてに速やかに通知することもなく、また、じん肺健康診断の結果に基づいてじん肺罹患者を粉じん職場から配置転換するような措置も十分には採らなかった。また、労働者全体に、作業に従事している鉱山でのじん肺発生状況を周知させたこともなかった。更に、離職者に対する離職時のじん肺健康診断も怠った。

4 じん肺発生の予見可能性及びその発生の認識・認容

(一) 予見可能性

被告三菱マテリアルは、昭和九年に細倉鉱山の鉱業権を取得したが、これに先立つ大正一四年発行の文献「ヨロケ=鉱夫の早死はヨロケ病=」には、既に基本的には現在においても妥当するじん肺防止対策が指摘されていた。また、昭和五年には、第一回けい肺専門家会議が開催され、同年、内務省社会局労働部長から鉱山監督局長宛に通牒「鉱夫硅肺及眼球震蘯症ノ扶助ニ関スル件」が出され、じん肺が業務上疾病として補償されることになった。そして昭和六年に商工省鉱山局が発行した「昭和五年本邦鉱業ノ趨勢」で、統計資料に初めてけい肺、炭肺が加えられた。

このように、被告三菱マテリアルが細倉鉱山の鉱業権を取得した昭和九年には、金属鉱山でじん肺が発生することは公知の事実となっており、細倉鉱山においても、前記のじん肺防止措置を尽くさなければ、じん肺が発生するであろうことは容易に予見できた。

(二) 故意(じん肺被害発生の認容)

(1) 被告三菱マテリアルは、全国各地で金属鉱山を経営してきた会社である。特に、細倉鉱山は、遊離珪酸を高度に含有しており、昭和二三年に実施されたけい肺一斉巡回検診において、被告三菱マテリアル経営の金属鉱山では、細倉鉱山を含め多数にじん肺罹患者が発見されている。そして、同年には、労働科学研究所が「珪肺対策準備会」の開催を呼びかけ、さらに、鉱山復興会議が「鉱山労働者珪肺対策に関する建議」を衆参両院議長宛に提出するなど、けい肺が社会問題化する中で、被告三菱マテリアルは、けい肺疾患の対策を調査研究し、その実行を図ることを目的として、「本店珪肺対策委員会」を設置した。

右のとおり、被告三菱マテリアルは、遅くとも昭和二三年頃までには、細倉鉱山では、じん肺被害が確実に発生しており、今後も発生し続けることを認識し、最高水準の医学的・工学的・技術的方法に基づき、粉じん測定を含むじん肺防止対策を実施しなければ、将来のじん肺被害が確実であることを認識していた。それにもかかわらず、前記のとおり、右時期以降昭和六二年の細倉鉱山閉山に至るまで、基本的には何らのじん肺防止対策を講ずることなく、漫然と本件原告らを多量の粉じんの中で作業に従事させ、その結果として、本件原告らをじん肺に罹患させたものである。しかも、粉じん測定の懈怠、ウォータースプレーの不使用、通気改善の放棄、ミクロンフィルターマスクの不使用、粉じん障害防止規則及び金属鉱山等保安規則に基づくじん肺教育の不実施等、被告三菱マテリアルは、最低限度の基準を定めた行政法令や最低限の指導である通産省の指導さえも遵守していない状態で、本件原告らを作業に従事させた。

このように、被告三菱マテリアルは、じん肺発生を認容していた。

(2) また、昭和二四年には、珪肺措置要綱が策定され、更に、粉じんについての危害防止について、鉱業権者に必要な措置を講ずる義務を定めた鉱山保安法、金属鉱山等保安規則等が制定され、昭和二五年には、粉じん測定と粉じん恕限度を規定した労働省のけい肺法案が策定され、また、被告三菱マテリアルと労働組合の間で、珪肺の暫定措置に関する協定書が締結された。昭和三〇年には、けい肺等特別保護法が制定され、翌昭和三一年には、日本鉱業協会保安部粉塵防止委員会が、「珪肺予防に関する研究の推進について」を発表し、昭和三五年には、旧じん肺法が制定された。

したがって、被告三菱マテリアルについては、昭和二三年以降、あるいは昭和二四年以降、昭和二五年以降、昭和三〇年以降、昭和三一年以降、昭和三五年以降について、故意責任がある。

5 被告らの右各義務の懈怠は、民法四一五条の健康保持義務違反としての債務不履行に当たり、かつ、同法七〇九条の不法行為(昭和二三年以降は故意責任)に当たる。

6 被告らの責任

(一) 原告番号一ないし一一番の各原告に対する被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業の連帯責任

(1) 原告番号一ないし一一番の各原告は、それぞれ別紙二「原告ら元従業員作業等一覧表その一」記載のとおり、昭和五一年六月までは被告三菱マテリアルとの間で、それ以降は、被告細倉鉱業との間で雇用契約を締結し、細倉鉱山等での坑内作業等に従事していた。

(2) 被告細倉鉱業は、法人格を有しているものの、被告三菱マテリアルの細倉鉱山経営の子会社として設立されたもので、両社の役員構成は同一であり、右原告らは、被告細倉鉱業と雇用契約を締結した後も、細倉鉱山で、被告三菱マテリアルとの雇用契約に基づくものと同一の坑内作業等の粉じん作業に従事してきた。

(3) このような場合、被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業は、原告番号一ないし一一番の各原告のじん肺罹患による全損害につき、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求については民法七一九条一項後段の類推適用により、不法行為に基づく損害賠償請求については民法七一九条一項後段の適用により、連帯して損害賠償責任を負うものというべきである。

(二) 原告番号一二ないし一七番の各原告に対する被告三菱マテリアルの責任

原告番号一二ないし一七番の各原告は、それぞれ別紙二「原告ら元従業員作業等一覧表その一」記載のとおり、被告三菱マテリアルとの間で雇用契約を締結し、細倉鉱山での坑内作業に従事していた。

したがって、被告三菱マテリアルは、右原告らのじん肺罹患による全損害につき、債務不履行ないしは不法行為に基づく損害賠償責任を負う。

(三) 原告番号一八ないし二一番の各原告に対する被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業の連帯責任

(1) 原告番号一八ないし二一番の各原告は、それぞれ別紙二「原告ら元従業員作業等一覧表その一」記載のとおり、当初は熊谷組と雇用契約を締結し、その後被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業との間で順次雇用契約を締結し、細倉鉱山での坑内作業に従事していた。

(2) 熊谷組は、被告三菱マテリアルから細倉鉱山の坑道掘進等の坑内作業を請け負い、鉱山保安の義務者である被告三菱マテリアルの指揮命令に基づいて、右原告らを細倉鉱山の坑内作業に従事させていた。

したがって、被告三菱マテリアルと右原告らとの間には雇用契約に類似する関係があり、被告三菱マテリアルは、熊谷組に雇用されていた右原告らに対しても、直接健康保持義務を負っていたものである。

また、被告三菱マテリアルと被告細倉鉱業との関係は右(一)(2)記載のとおりである。

(3) そうすると、被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業は、原告番号一八ないし二一番の各原告のじん肺罹患による全損害につき、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求については民法七一九条一項後段の類推適用により、不法行為に基づく損害賠償請求については民法七一九条一項後段の適用により、連帯して損害賠償責任を負うものというべきである。

(四) 原告番号二二番の原告に対する被告三菱マテリアル、被告細倉鉱業及び被告大手開発の連帯責任

(1) 原告番号二二番の原告は、別紙二「原告ら元従業員作業等一覧表その一」記載のとおり、当初は熊谷組と雇用契約を締結し、その後被告大手開発、被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業との間で順次雇用契約を締結し、細倉鉱山等で坑内作業に従事していた。

(2) 熊谷組は、被告三菱マテリアルから福舟鉱山及び細倉鉱山の坑道掘進等の坑内作業を請け負い、鉱山保安の義務者である被告三菱マテリアルの指揮命令に基づいて、右原告を右各鉱山の坑内作業に従事させていた。

したがって、被告三菱マテリアルと右原告との間には雇用契約に類似する関係があり、被告三菱マテリアルは、熊谷組に雇用されていた右原告に対しても、直接健康保持義務を負っていたものである。

被告大手開発は、被告三菱マテリアルから佐渡鉱山の坑道掘進等の坑内作業を請け負い、鉱山保安の義務者である被告三菱マテリアルの指揮命令に基づいて、右原告を右鉱山の坑内作業に従事させていた。

したがって、被告三菱マテリアルと右原告との間には雇用契約に類似する関係があり、被告三菱マテリアルは、被告大手開発に雇用されていた右原告に対しても、直接健康保持義務を負っていたものである。

また、被告三菱マテリアルと被告細倉鉱業との関係は右(一)(2)記載のとおりである。

(3) そうすると、被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業は、原告番号二二番の原告のじん肺罹患による全損害につき、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求については民法七一九条一項後段の類推適用により、不法行為に基づく損害賠償請求については民法七一九条一項後段の適用により、連帯して損害賠償責任を負うものというべきである。

(4) 被告大手開発は、被告三菱マテリアルの経営する鉱山において、坑道掘進等の坑内作業を行うことを目的として設立された、被告三菱マテリアルが完全に支配している関連子会社である。

被告大手開発は、右原告が熊谷組の労働者として坑内での粉じん作業に従事していたことを十分認識した上、右原告との雇用契約を承継し、また、右原告が被告三菱マテリアルの労働者として坑内での粉じん作業に従事することを十分認識し、そのことを前提に右原告との雇用契約を被告三菱マテリアルに承継させたものである。

被告三菱マテリアルと被告細倉鉱業との関係は右(一)(2)記載のとおりである。

このような場合、被告大手開発は、被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業と連帯して、原告番号二二番の原告のじん肺罹患による全損害につき、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求については民法七一九条一項後段の類推適用により、不法行為に基づく損害賠償請求については民法七一九条一項後段の適用により、損害賠償責任を負うものというべきである。

(五) 原告番号二三番の原告に対する被告三菱マテリアル、被告細倉鉱業及び被告大手開発の連帯責任

(1) 原告番号二三番の原告は、別紙二「原告ら元従業員作業等一覧表その一」記載のとおり、当初は熊谷組と雇用契約を締結し、その後被告大手開発と雇用契約を締結し、細倉鉱山等で坑内作業に従事していた。

(2) 被告大手開発は、被告細倉鉱業から細倉鉱山の坑道掘進等の坑内作業を請け負い、右原告を細倉鉱山の坑内作業に従事させていた。したがって、被告大手開発は、細倉鉱山の坑内作業に従事する右原告に対し、健康保持義務を負っていた。

また、熊谷組は、被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業から細倉鉱山及び福舟鉱山の坑道掘進等の坑内作業を請け負い、右原告を右各鉱山の坑内作業に従事させていた。したがって、熊谷組は、右各鉱山の坑内作業に従事する右原告に対し、健康保持義務を負っていた。

被告大手開発は、右原告が熊谷組の労働者として右各鉱山の坑内での粉じん作業に従事していたことを十分認識した上、右原告との雇用契約を承継したものである。

そうすると、被告大手開発は、熊谷組と連帯して、原告番号二三番の原告のじん肺罹患による全損害につき、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求については民法七一九条一項後段の類推適用により、不法行為に基づく損害賠償請求については民法七一九条一項後段の適用により、損害賠償責任を負うものというべきである。

(3) 熊谷組は、被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業から細倉鉱山及び福舟鉱山の坑道掘進等の坑内作業を請け負い、鉱山保安の義務者である被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業の指揮命令に基づいて、右原告を右各鉱山の坑内作業に従事させていた。

したがって、被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業と右原告との間には雇用契約に類似する関係があり、被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業は熊谷組に雇用されていた右原告に対しても、直接健康保持義務を負っていたものである。

被告大手開発は、被告細倉鉱業から細倉鉱山の坑道掘進等の坑内作業を請け負い、鉱山保安の義務者である被告細倉鉱業の指揮命令に基づいて、右原告を右鉱山の坑内作業に従事させていた。

したがって、被告細倉鉱業と右原告との間には雇用契約に類似する関係があり、被告細倉鉱業は被告大手開発に雇用されていた右原告に対しても、直接健康保持義務を負っていたものである。

また、被告三菱マテリアルと被告細倉鉱業との関係は右(一)(2)記載のとおりである。

(4) そうすると、被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業は、被告大手開発と連帯して、原告番号二三番の原告のじん肺罹患による全損害につき、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求については民法七一九条一項後段の類推適用により、不法行為に基づく損害賠償請求については民法七一九条一項後段の適用により、損害賠償責任を負うものというべきである。

六  原告らの損害

1 じん肺被害の特殊性

(一) じん肺患者の身体破壊

改正じん肺法は、じん肺管理区分制度を設けているが、これは、じん肺被害の程度を区別するものではないから、じん肺に罹患した患者の損害に管理区分による相違は基本的に存在しない。

(1) 管理四の患者の身体破壊

改正じん肺法は、エックス線写真像で大陰影があると認められる第四型の者のうち、大陰影の大きさが一側の肺野の三分の一を超える者を管理四とする。肺野の三分の一以上に大陰影が認められる者は、一旦、感染症に罹患すれば、正常な肺の呼吸機能が低下し、余力のない状態で呼吸困難に陥ってしまう。また、大陰影の周辺部は肺胞組織が引張られ、肺気腫、無気肺状態になり、線維化は進んでいなくともガス交換機能を失う。

次に、エックス線写真像が右の程度まで至らなくても、著しい肺機能障害があると認められる者も管理四とされる。じん肺の肺機能障害は、肺胞への空気の流通が妨げられる換気障害、肺胞と血液の間で行われる酸素と炭酸ガスの出入りが不十分となるガス拡散障害、その他に血行障害が考えられる。

そして、重篤なじん肺患者は、様々な合併症に苦しめられ、かつ、合併症の罹患は直ちに死に至る危険をはらんでいる。法定の合併症は、管理四の患者が当然高率に合併する。また、法定の合併症のみならず、じん肺に起因して職業性気管支喘息、肺腫瘍等が発症することや、肺癌、リウマチ様関節炎等が合併することもある。

(2) 管理二、管理三で要療養患者の身体破壊

改正じん肺法は、肺結核、結核性胸膜炎、続発性気管支炎、続発性気管支拡張症、続発性気胸を合併症として法定し、管理二、管理三の者でもこれらの合併症のある者は療養を要するとしている。

じん肺患者の合併症は、進展したじん肺の病変に起因して起こるものであり、そのじん肺の病変が不可逆的であるから治癒は極めて困難である。仮に一時的にその症状が治ったとしても短期間のうちに再発を繰り返す結果となる。

結核については、一般に強力な化学療法の進歩によりその死亡率は低下しているが、じん肺に合併する結核が難治であることは現在も変わらず、続発性気管支炎、続発性気管支拡張症もいずれも気道に関する感染症であるから、難治である。特に慢性気管支炎は大量の咳や痰を出してしまうと治まるが、痰が大量である上、痰を生ずる気管支の病変のため、痰を排出するための呼気が十分でなく、したがって、咳を繰り返しても痰は容易に排出されない。最悪の場合は痰が気道を閉鎖し呼吸困難に陥ることも珍しくない。痰を伴わない咳の場合には、逆に咳を繰り返しても満足感がなく、空咳を繰り返して発作状態となる場合もある。気管支の炎症、感染症による咳の苦しみ、体力の消耗は、呼吸困難と並んで、じん肺患者を苦しめる症状である。続発性気胸は、肺胞の一部が破れて胸腔内に空気が溜まるもので、この空気を抜けば症状は一応治まる。しかし、じん肺病変の進展による気腫性の嚢胞が原因となって発症するものであるから、気腫化した肺には発症しやすく、また、その再発を防ぐために胸膜の癒着術を行うと、胸膜の肥厚が起こり肺の機能を損なうことが多いので、強固な癒着術を行うことが困難となる。更に、気胸が生ずると胸腔内にもれた空気で圧迫され、健康な弾力性のある肺野が縮んでしまう。他方、気胸を起こしていない片肺も健康な部分が少ないので、ショック症状を呈したり、著しい呼吸困難を起こしたりし、時には死に至る場合もある。

このような合併症、感染症を繰り返すことにより、じん肺の線維増殖性変化を進行させ、胸膜の肥厚を亢進させ、気腫性変化も促進する。そして、身体は次第に衰弱し、合併症の増悪期間が長くなり、呼吸不全を起こして、遂には死に至ることも珍しくない。改正じん肺法が、五つの合併症を定め、管理二、管理三の患者でも合併症を有している場合には要療養としているのは、このような合併症、感染症の危険性のためである。

(二) じん肺被害の実態

(1) 身体被害

自覚症状としては、咳、痰、呼吸困難、心悸亢進等である。多くの患者は、初めに咳や痰を自覚する。そして、疲れやすく、風邪をひきやすくなり、風邪をひくと治るのに時間がかかるようになる。やがて運動時に呼吸困難を覚え、坂道や階段の昇降が困難になってくる。多くの患者は、すでにこの段階で就労が不能となり療養を必要とするようになる。やがて、平地の歩行も困難となり、短い距離でも休みながら歩行しなければならなくなる。また、痰の量も多く、咳が持続し、激しい咳から呼吸困難の発作が起こるようになり、背中や胸の痛み、熱感を訴えるようになり、寝たきりになる。

そして、度々発作を繰り返し、また、呼吸困難が続いて酸素吸入を必要とするようになり、介護がないと歩行すらできず、用便や入浴も困難か不能となる。寝るにも、普通に横になることはできず、しばしば体位を変えたり、座ったまま布団にもたれかかって寝なければ息もできなくなる。

(2) 生活破壊

第一に、じん肺患者はその日常生活についての様々な制約を受ける。日常生活において最も不便なことは、自由な歩行、外出ができないことである。そして、細菌やビールスに対する抵抗力が極度に低下しているため、風邪をひきやすく、一旦風邪をひくと治りにくく、容易に肺炎に移行してしまうため、入浴を極度に警戒する。また、同じ姿勢で横になっていることは息苦しさを覚えるため、一晩中何度も寝返りを繰り返さなければならず、安らかな眠りを奪われる。更に、排尿、排便も不自由であり、性生活も影響を受ける。

第二に、じん肺患者は労働能力を喪失し、経済的損害を受けている。徐々に労働能力は喪失し、最終的には働くことが困難になる。そして、中には、労働能力喪失後相当期間を経てから行政認定を受けている者もあり、労働能力を喪失した時から行政認定時までの経済的損害も斟酌されなければならない。

第三に、じん肺患者は、特有の精神的苦痛を被る。自分の病気がじん肺であることを知り、それが現代医学によっても治療方法がないことを知った時、言い知れぬ絶望感に襲われる。そして、働いて家族を養っていけないという社会的疎外感にさいなまれ、家族への負い目となり、いらだちからひがみっぽさも生まれ、精神的荒廃が生ずる例も少なくない。更に、生き甲斐のある老後の生活も奪われ、残されたものは、じん肺の苦しみ、絶望、極度の不安等の悲惨な生活である。

(3) 家庭破壊

第一に、家族の負担が増大する。じん肺患者を抱える家庭では、じん肺患者は真夜中に咳、痰の発作や呼吸困難を惹き起こすことが多く、そのたびに家族が背中をさすり、痰を取り、薬を与えたりして、家族がじん肺患者と苦しみを共有する。更に、じん肺が進行すると、排便の世話、入浴の世話などの身の回りの世話のすべてについて、家族の手をわずらわせることになる。たとえ入院したとしても、家族が病院に泊まり込み、付きっきりで看護をしなければならず、家族の負担は軽くならない。

第二に、温かい家庭生活が崩壊する。じん肺患者は、その苦しみやいらだちのために家族に八つ当たりをして、楽しいはずの家族生活が険悪な重苦しいものになってしまうことも少なくない。

(4) 悲惨なじん肺死

じん肺患者の行きつくところは、天寿を全うする平穏な死とは程遠い、悲惨なものである。

また、遺族にとっては、人生にとっての最良の伴侶、肉親を失うことになる。

更に、生存患者にとっては、他のじん肺患者が呼吸困難や発作に襲われて苦悶しながら死んでいくのを見る時、将来の自分の姿をそこに重ね合わせ、その不安と恐怖感が増す。同時に、じん肺患者は、自分の死後残された家族が生活していけるかどうか、自分の死により労災補償がおりるかどうかという不安を抱いている。

2 損害額

じん肺患者には、要療養となって労働能力を喪失した後も長期間の療養生活が待ち受けている。この間のじん肺患者の損害は膨大なものである。また、じん肺患者を抱えた家族にも甚大な肉体的、経済的、精神的苦痛がのしかかる。

他方、被告らは、自らの利潤追求のため、本件原告らの生命と健康という何物にも代えがたい絶対的価値を無視したのであって、重大な過失及び故意という侵害行為の態様の悪質性を考慮すれば、本件原告らをじん肺に罹患させた被告らの責任は極めて重大である。

よって、本件原告らは、そのじん肺管理区分の如何を問わず、原告一人当たり一律三〇〇〇万円の慰謝料を請求する。

3 弁護士費用

本件原告らは、それぞれ本件訴訟の遂行を原告ら代理人に委任し、弁護士報酬規定に基づき請求金額の一割に相当する金額を報酬金として原告ら代理人に支払う旨約した。

七  結語

よって、本件原告らは、被告らに対し、債務不履行ないしは不法行為による損害賠償請求権に基づき、原告一人当たり三三〇〇万円及びこれに対する別紙二「原告ら元従業員作業等一覧表その一」記載の最終行政決定日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第二  請求の原因に対する認否

一  一項は認める。

二1(一) 二項1(一)のうち、雇用者、就労鉱山及び就労期間については認める。

職種については、原告番号二、三、六、七、九、一〇、一一番の各原告については全部認め、原告番号一、四、五、八番の各原告については次の点を除き認める。

原告番号一番佐藤研の昭和二七年一〇月から昭和三二年八月までの職種は、軌道員である。

原告番号四番渡辺新造の昭和三四年四月から昭和三五年三月までの職種は、鉛製錬補助員、昭和三五年四月から昭和三六年三月までの職種は、鉛製錬調合員である。

原告番号五番佐藤聖の昭和二六年四月から昭和四一年二月までの職種は、鉄管員である。

原告番号八番千葉哲郎の昭和四五年七月から同年一〇月までの職種は、運搬員である。

(二) 二項1(二)のうち、雇用者、就労鉱山及び就労期間については認める。

職種については、原告番号一二、一三、一四、一五、一七番の各原告については全部認め、原告番号一六番の原告については次に点を除き認める。

原告番号一六番氏家三郎の昭和四六年六月から昭和四七年一一月までの職種は、採鉱補員である。

(三) 二項1(三)のうち、雇用者、就労鉱山及び就労期間については認める。但し、熊谷組が雇用者である部分は不知。

職種については、原告番号一八、二〇、二一番の各原告については全部認め、原告番号一九番の原告については次の点を除き認める。但し、熊谷組が雇用者である部分は不知。

原告番号一九番氏家正志の昭和四二年一一月から昭和四六年五月までの職種は、さく岩員である。

(四) 二項1(四)のうち、雇用者、就労鉱山及び就労期間については認める。但し、熊谷組が雇用者である部分は不知。

職種については認める。但し、昭和四三年四月から昭和四七年六月までの職種については、不知。また、熊谷組が雇用者である部分は不知。

(五) 二項1(五)は認める。但し、熊谷組が雇用者である部分は不知。

(六) 二項1(六)は認める。

2 二項2は認める。

三1  三項1は認める。

2(一)(1) 三項2(一)(1)は否認する。但し、水平坑道で、さく岩員が切羽面にさく岩機を使用して火薬を装填する孔をあけること、さく岩機が圧縮空気を動力源としていることは認める。

(2) 三項2(一)(2)は否認する。但し、さく孔作業終了後、孔の中を清掃することは認める。

(3) 三項2(一)(3)は否認する。但し、孔中を清掃後、火薬を用いて岩盤を爆破することは認める。

(二)(1) 三項2(二)(1)第一段は認める。

同第二段は否認する。但し、掘上がり掘進の場合に仕様するさく岩機が、ストーパーと呼ばれるものであり、ドリフターと同様に圧縮空気を動力源としていることは認める。

(2) 三項2(二)(2)は否認する。

(3) 三項2(二)(3)は否認する。但し、掘上がり掘進においては、掘り上がっていくに従って足場を上げていかなくてはならず、足場としてズリも利用することは認める。

(三) 三項2(三)、(四)は否認する。

3(一)  三項3(一)は認める。

(二)  三項3(二)第一段は否認する。但し、シュリンケージ採掘法では、採掘準備作業として、下部坑道の天盤の鉱石をストーパーでさく孔し、発破をかけて崩落させて、採掘棚(本棚)及び漏斗を取り付けることは認める。

同第二、三段は否認する。但し、完成した採掘棚を足場として、ストーパーを使用して採掘をしていくことは認める。

(三)(1)  三項3(三)(1)は認める。

(2) 三項3(三)(2)ないし(4)は否認する。但し、作業の手順については認める。

4(一)  三項4(一)は否認する。但し、切羽で採掘されたズリ、鉛等の鉱石が、切羽運搬、坑道運搬、立坑運搬又は斜坑ベルトコンベア運搬を経て選鉱場に運ばれることは認める。

(二)  三項4(二)ないし(四)は否認する。

5  三項5は否認する。

6  三項6第一段は認める。

同第二段は否認する。

7  三項7は否認する。

8(一)  三項8(一)は認める。但し、原告番号四番渡辺新造が一貫して溶鉱工程に従事していたことは否認する。

(二)  三項8(二)は否認する。

四1(一)(1) 四項1(一)(1)第一段は否認する。

同第二段は認める。

(2) 四項1(一)(2)は認める。但し、改正じん肺法四条がじん肺健康管理区分であること、合併症の場合に即休業療養となることは否認する。

(3) 四項1(一)(3)ないし(6)は否認する。但し、改正じん肺法施行規則で、肺結核、結核性胸膜炎、続発性気管支炎、続発性気管支拡張症、続発性気胸が合併症と規定されていることは認める。

(二)  四項1(二)は否認する。

2 四項2は否認する。但し、昭和四年鉱業警察規則以降の本件原告ら主張のじん肺に関する立法がされたこと、単独の保護立法を有する職業病は、じん肺のみであること、細倉鉱山において、労働省けい肺一斉巡回検診が行われたことは認める。

五1  五項1は認める。

2  五項2は否認する。但し、被告らが、本件原告らに対し、その生命・身体・健康が害されないようにすべき健康保持義務を負っていたことは認める。

3  五項3は否認する。

4(一)  五項4(一)は否認する。但し、被告三菱マテリアルが、昭和九年に細倉鉱山の鉱業権を取得したことは認める。

(二)  五項4(二)は否認する。但し、被告三菱マテリアルが、全国各地で鉱山を経営してきたこと、本件原告ら主張のじん肺に関する立法がされたことは認める。

5  五項5は否認する。

6(一)(1) 五項6(一)(1)の認否は、前記二1(一)のとおり。

(2) 五項6(一)(2)、(3)は否認する。

(二) 五項6(二)は否認する。但し、原告らの職種等についての認否は、前記二1(二)のとおり。

(三)(1) 五項6(三)(1)の認否は、前記二1(三)のとおり。

(2) 五項6(三)(2)は否認する。但し、熊谷組が、被告三菱マテリアルから細倉鉱山の坑道掘進等の坑内作業を請け負っていたことは認める。

(3) 五項6(三)(3)は否認する。

(四)(1) 五項6(四)(1)の認否は、前記二1(四)のとおり。

(2) 五項6(四)(2)は否認する。但し、熊谷組が、被告三菱マテリアルから細倉鉱山及び福舟鉱山の坑道掘進等の坑内作業を請け負っていたこと、被告大手開発が、被告三菱マテリアルから佐渡鉱山の坑道掘進等の坑内作業を請け負っていたことは認める。

(3) 五項6(四)(3)、(4)は否認する。

(五)(1) 五項6(五)(1)の認否は、前記二1(五)のとおり。

(2) 五項6(五)(2)ないし(4)は否認する。但し、熊谷組が、被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業から細倉鉱山及び福舟鉱山の坑道掘進等の坑内作業を請け負っていたこと、被告大手開発が、被告細倉鉱業から細倉鉱山の坑道掘進等の坑内作業を請け負っていたことは認める。

六1(一) 六項1(一)前文は否認する。

(一)(1) 六項l(一)(1)は否認する。但し、改正じん肺法が、エックス線写真像で大陰影があると認められる第四型の者のうち、大陰影の大きさが一側の肺野の三分の一を超える者を管理四としていることは認める。

(2) 六項1(一)(2)は否認する。但し、改正じん肺法が、肺結核、結核性胸膜炎、続発性気管支炎、続発性気管支拡張症、続発性気胸を合併症として法定し、管理二、管理三の者でもこれらの合併症のある者は療養を要するとしていることは認める。

(二) 六項1(二)は否認する。

2 六項2は否認する。

3 六項3は否認する。

七  七項は否認する。

第三  請求の原因に対する反論

一  坑内作業の実情

1 作業の種類、職種

(一) 昭和三五年までの作業の種類、職種

昭和三五年七月までの細倉鉱山における坑内作業は、別紙四「坑内職種名一覧」記載のとおり、職長、さく岩員、支柱員、運搬員、その他の職種に分類されていた。

ア 職長 担当職場内での配番、段取り、保安係員業務及び作業の指示指導

イ さく岩員 掘進切羽(水平・掘上がり)・採掘切羽のさく孔、発破作業等

ウ 支柱員 採掘切羽内の支柱作業、軟弱部の保坑作業等

エ 運搬員 切羽における破砕鉱及びズリの下積み作業、漏斗抜き作業、立坑プラット作業及び採掘切羽の足場作り作業

オ 電車運転員 電車による列車の運転(集拾運搬・人車)

カ 内工員 パイプ・レールの延長、撤収、修理作業

(二) 昭和三五年七月から昭和四六年五月までの作業の種類、職種

この期間の細倉鉱山における坑内作業は、基本的には昭和三五年七月以前と同じであるが、水平坑道掘進については、二名一組でさく孔、発破、運搬等の作業を行うクルー員を、昭和三二年四月から昭和三四年三月までの試験期間を経て新設した。

(三) 昭和四六年六月以降の作業の種類、職種

昭和四六年六月以降の細倉鉱山における坑内作業は、別紙四「坑内職種名一覧」記載のとおり、従前と大幅に変更された。

すなわち、従前のさく岩員、クルー員、支柱員、運搬員を統合して、採鉱員、採鉱補員の職種を新設するとともに、職務の内容についても、見直し変更を行った。

変更後の主な職種の作業内容は、次のとおりである。

ア 採鉱員 掘進・採掘切羽等での作業全般

イ 採鉱補員 採鉱員の補助作業

ウ 整備員 切羽以外のレール・パイプの修理、整備作業(切羽内のレール・パイプの延長作業は採鉱員が担当)

(四) 職種変更の理由

クルー員制度の導入は、水平坑道掘進における作業が大幅に機械化されたことに伴う職種の変更である。この機械化により、作業員の作業負担は大幅に軽減する一方、作業能率が増大し、このことが生産量の増加につながったものであって、労働強化により生産量が増加したわけではない。

また、採鉱員制度も、作業員の合理的な活用、作業員のさく孔作業の実労働時間の短縮、作業員間の賃金の平準化等のため導入されたものであり、労働強化というものではなく、むしろ、従来の労働の質・量ともに、これを低減化するものであった。

2 作業の手順、方法

(一) 入坑後の作業手順(括弧内は、所要時間である。)

ア 着到(事務所)でタイムカードを打刻し、坑内帽、キャップランプを着用後、徒歩又は人車で坑内事務所まで移動する(一〇分から二〇分)。

イ 坑内事務所へ入番札提出後、併設の坑内休憩室で、作業衣に着替える(約一五分)。

ウ 着替え後、坑内事務所で準備体操、五分間教育、作業番割りを行い、その後、さく岩員等は、その日に使用する火薬を火薬取扱所で受領する(約一五分)。

エ 切羽まで、大半の者は、立坑を経由して、徒歩又は電車で移動する(約三〇分)。

オ 切羽到着後、さく岩員等は、浮石点検除去、残火薬点検処置、散水等を行い、機械等の設置準備にかかる(約一五分)。

カ 作業開始

キ 作業終了、後片付け、発破警戒札の立てかけ(約一五分)。

ク 坑内休憩室まで、徒歩又は電車で移動する(約三〇分)。その後、全員退避する。

ケ 発破係(数人)は、この後結線し、退避場所で発破を点火、爆発を確認する。

コ 坑内休憩室で、着替え、シャワー(約三〇分)。

サ 坑内休憩室で、休憩、昼食(約六〇分)。

シ 坑内事務所で、作業結果報告、日誌記入、次方への作業申送り等を行い(残火薬があるときは、火薬取扱所へ返却)、入番札を受け取る(約一五分)。

ス 徒歩又は人車で坑外へ移動し、坑内帽、キャップランプを返却後、タイムカードを打刻する(約一五分)。

(二) さく岩作業の手順と方法

ア さく岩員は、切羽でのさく孔・発破作業を行う。

細倉鉱山の坑内作業は、通常、一日二方制で行われており、一方は、午前八時から午後三時三〇分(昭和五七年からは午後四時)、二方は、午後二時三〇分から午後一〇時(昭和五七年からは午後一〇時三〇分)であった。そして、通常、一方では、支柱・運搬・整備作業が行われ、遠隔切羽等を除き、二方で、さく岩作業が行われることが多かった。

そのため、さく岩作業を担当する者は、支柱員、運搬員等が、十分散水した後に切羽に入ることが多く、粉じんが切羽に多量に浮遊しているということはなかった。

また、一方、二方と連続してさく岩作業を行う場合でも、一方で切羽に到着するときは発破後一〇時間以上、二方の場合でも発破後二時間以上経過して切羽に入ることになるため、発破による粉じんは、沈降しているか、エアーブローや通気により消散してしまっており、さく岩作業を担当する者が、切羽に到着したときに、切羽内に粉じんが浮遊し続けているということはなかった。

イ さく岩作業を担当する者は、切羽到着後、まず目視点検を十分に行った後、テコと呼ばれる鉄の棒を用いて、切羽内の浮石点検(落下のおそれのある岩盤、岩石の有無の点検作業)を行う。

その後、さく岩機、ロッド、エアーホース、ウォーターホース等を搬入する。

次いで、給水用パイプ(ウォーターパイプ)に、ウォーターホースを接続し、周囲の岩盤に十分散水を行うとともに、孔尻の洗浄を行い、残留火薬類の点検を行う。これらの点検終了後、エアー、ウォーター各ホースを装着し、さく岩作業の準備を行う。

ウ 準備終了後、さく岩作業に入る。

その際、水平さく孔を行うときは、レッグドリルという湿式さく岩機(昭和三〇年頃までは、ドリフターという乗架式さく岩機)を、上向きさく孔を行うときは、ストーパーという湿式さく岩機(昭和二六年頃までは、乾式のストーパー)を用いて作業を行う。

まず、さく岩機にさく岩用ロッド(ビットを含む。)を装着し、手元の水バルブを開いて、ビット先から出る水の有無を点検した後、さく岩機が転倒等の危険がないようにさく孔場所に固定する。

次に、ロッド(ビットを含む)をさく孔する岩盤に当て、口付け作業を行うが(通常孔の深さは二ないし三cmで、五ないし一〇秒程度の作業である。)、その際、ビットの先から噴出される水が飛び散ることのないよう手元にある水バルブで水量を調整する。口付け作業が終わると、続いてさく孔に入るが、さく岩機は、必ず湿式の状態で使用し、また、必ずマスクを使用して操作することになっていた。

その際、さく孔前の散水の徹底により、さく岩機の排気による粉じんの舞い上がりは見られなかった。

以後も、さく岩機の位置固定、口付け、さく孔の手順でさく孔作業を行うが、途中ビットの刃先が摩耗し、さく孔時間がかかるようになったときは、適宜ビット・ロッドを交換していた。

エ さく孔作業終了後、上向きさく孔の場合、泥状の繰粉は自然に落ちるが、水平さく孔の場合は、泥状の繰粉が孔に残るので、キューレンという掻き出し棒を用いて、孔の中にある泥状の繰粉を掻き出す。その後、エアーホースにブローパイプを装着し、さく岩機の動力源である圧縮空気を使用して孔を掃除する。

この圧縮空気によるブローで、孔の中の泥水を吹き飛ばすが、飛散した水滴(霧状)は、装薬作業をするところに沈降していた。

オ 孔の掃除が終わると、さく岩機、ロッド類、ウォーターホースを発破に影響のないところへ片づける。次いで、火薬類装填作業に必要な火薬類、アンホ装填器等を切羽に搬入する。

カ 装薬作業は、まず親ダイ(カーリット等に電気雷管を挿入したもの)を作った後、アンホ装填器を掃除、点検する。そして、アンホ装填器にエアーホースを装着した後、アンホを装填器に入れ、圧縮空気を用いて、アンホを孔に装薬する。

各孔に装薬が終わると、身体の静電気を(手を)接地して取り去った後、親ダイを込棒(木製)で静かに挿入し、アンコ(主に粘土)で孔に栓をし、電気雷管の脚線を直列に結線して装薬作業は終了する。

キ 装薬作業に使った機材を片づけた後、補助線(銅の細線)で、切羽の脚線側と結線し、発破母線に結線する。

結線が終わると、採掘切羽等においては、エアーホースを発破の影響を受けず、しかも発破による粉じんを切羽から消散させるような位置に固定する(但し、水平掘進切羽においては、エアーホースは使用せず、マニホールドのみを使用する。)。

その後、エアーパイプ先端のマニホールド(エアーバルブ)を少し開き、エアーブローを行って、切羽から退避する。このエアーブローによる換気量は、通常、毎分約六m3、一時間当たり坑道延長換算九〇mである。

ク 発破係有資格者は、発破警戒札を立て、危険のないことを確認した後、パイプ等を連打して警告し、所定の発破時刻に発破を行っていた。

発破点火位置は、発破による爆風と粉じんを浴びない位置にあり、また、発破後は、次の方の作業時間になるまで、切羽に立ち入ることはなかった(上がり発破)。

(三) 運搬作業の手順と方法

ア 運搬員は、発破により粉砕された破砕鉱及びズリを切羽から運搬する作業を行う。

イ 切羽で運搬作業を行う運搬員は、切羽到着後、まず切羽周辺の目視点検を行い、テコを用いて、浮石点検を行った後、破砕鉱及びズリに十分散水する。散水に当たっては、その後の運搬作業の際、沈降している粉じんが、再度空中に舞い上がることのないよう十分に散水を行うことになっており、特に、破砕鉱及びズリについては、その表面を湿らせるだけでなく、破砕鉱及びズリ全体に水が染み渡るよう散水していた。

その後、残火薬の有無を調べ、運搬作業を行う。

ウ 水平坑道の切羽における破砕鉱及びズリは、カッチャ及び片口を使用しての下積み作業から、昭和三〇年代中頃より、次第にローダーによる鉱車に積み込む方法に変わってきたが、破砕鉱及びズリには、十分に散水が行われているため、粉じんが多量に発生することはなかった。同様に、作業前の散水が徹底されていたので、ローダー等の機械の排気によって、粉じんが舞い上がるということもなかった。

シュリンケージ採掘法は、破砕鉱を足場にして、漸次上方に採掘を行っていくが、この間、破砕鉱は、地山であったときより容積が増大する。この増積した分の破砕鉱を下部坑道の漏斗から引き抜き、鉱車に積み込む。その後、足場をさく岩作業が行えるようにならす。これら作業の間、さく岩員によるさく孔前の散水、さく孔中の散水、運搬員による破砕鉱への散水により、破砕鉱は、湿った状態になっているため、粉じんが多量に発生することはなかった。

充填採掘法は、採掘した跡をズリ及びサンドスライムによって充填しながら、漸次、上向き、水平上向き、下向きに採掘する方法で、充填材は、サンドスライムの方が多かった。昭和四九年以降は、サンドスライムのみとなった。また、細倉鉱山においては、粘土質の軟弱な鉱画及び破砕鉱の酸化発熱が予想される鉱画に対して、充填採掘法を採用した。

この充填採掘法による採掘切羽においては、圧気式又は電動式スラッシャーを用いて、スクレーパーを前方又は後方へ移動させて、破砕鉱を坑井に掻き込む(下向充填採掘法では、タイヤローダーを使用することもある。)スラッシング作業を行うが、このとき小型スラッシャーは、人道の上あるいは反対側の切羽に、大型スラッシャーを用いる場合は、通常、上部坑道に設置して、遠隔操作により運転する。

充填材のサンドスライムは、坑外のサンドスライム流送設備より、通常六五%重量濃度(容積量でスライム量対水量の比は、約一対一)で、充填切羽に流送され充填される。この充填されたサンドスライムは、上向きのときは、さく孔するときの足場に、下向きのときは、天盤となるが、充填材から余った水分は、主に坑井等を通り、一部は上・下盤等に浸透し、鉱画内の粘土質を濡らし、粉じんの発生の余地のないくらいの湿潤・泥状となっていた。また、さく孔作業の際、粘土質鉱脈に対しては、水バルブを全開して行っていた。このような切羽状態では、スラッシング作業、漏斗抜き作業において、多量の粉じんの発生はなく、しばしば、泥鉱処理に苦労する状態にあった。

エ 鉱車に積み込まれた破砕鉱は、鉱石ビンまで運搬され、鉱石ビンに設置されている横あけ式又は縦あけ式チップラー又は装置により鉱車から鉱石ビンに投入される。

細倉鉱山の破砕鉱は、坑内が、比較的粘土質で湿潤であること、十分な散水及びスライム充填採掘切羽からの出鉱比率増大で、泥鉱状態になっているため、鉱車に破砕鉱が居付き鉱石として残留してしまうことがしばしばあり、その際には、圧気・注水を利用して、鉱車から残留した鉱石を落としていた。したがって、鉱石ビンに破砕鉱を投入する際、粉じんが多量に発生するということはなかった。

下三番坑受鉱場で投入された鉱石とスキップ立坑により捲き上げられた破砕鉱は、ともに下四番坑のクラッシャーを通って、斜坑ベルトコンベアに送られ、更に、二号ベルトコンベアを経由して選鉱場に送られる。

これら鉱石を運搬するとき、スキップに鉱石を積み込むとき、鉱石ビンから鉱石を抜き出すとき、居付き鉱石対策として多量の注水を行っていた。その際、破砕鉱は、前記のように泥鉱状態になっているため、運搬中に、粉じんが多量に発生することはなかった。

(四) 支保作業の手順と方法

坑内において、発破を行い、坑道等を掘進しあるいは採掘していく際、岩盤の崩落のおそれがあるとき、あるいは通路(人道)等を作るために、支柱材(主に丸太)を用いて、坑道を保持し、通路を確保していく作業を支保作業という。

具体的には、作業は、支柱員により行われ、支柱方法は、打込み、片留め、三つ留め支柱が基本となっている。これら支柱材の岩盤への固定方法は、岩盤をうがって行う方法(「根掘り」という。)と、柱を木造りし組み立てる方法等がある。したがって、支柱材を岩盤に固定する際、常に根掘りを行うわけではない。根掘り作業は、昭和四〇年頃までは、節頭及びタガネを用い、以降は、コールピックを使用して行われ、本棚打込みの場合の作業量は、二人で三本位であった。根掘りの標準は、深さ約三cm、直径は支柱材(丸太)の径の約八割の大きさである。

根掘り作業を節頭及びタガネを用いて行うときは、打撃は断続的で、砕かれた岩盤の多くは、粉じんよりもっと粒子が大きい破片が多く、多量の粉じんの発生は見られなかった。コールピックによるときは、粉じんは、通気やエアーブローにより飛散してしまうため、直接吸入するような状態は見られなかった。

(五) 整備作業の手順と方法

主な整備作業には、鉱石等を運搬する電車・鉱車を通すレールを敷設あるいは補修する作業や、坑内の各種機械の動力源の圧縮空気を送るパイプ等を延長あるいは補修する作業等がある。

レールを敷設する作業は、坑道の踏前に、枕木を敷設し、レールを敷いていくというものである。

通常、カッチャにより踏前を掘って枕木を敷設し、状況によりツルハシ等により坑道の踏前を削って枕木を入れることもあるが、坑道の踏前は、通常湿潤化しているため、多量の粉じんに曝露することはなかった。

また、圧縮空気を送るパイプの延長作業は、採掘切羽等においては、支柱等にパイプを固定していく方法によって行い、水平坑道等については、昭和三四年以降は、クルー員により既にパイプ吊り用の孔はあけられて行っており、整備員が、節頭及びタガネにより孔をうがつことはなかった。したがって、パイプ延長作業の際にも、多量の粉じんに曝露することはなかった。

3 作業環境

細倉鉱山における坑内温度は、年間を通じて、概ね摂氏一六度から二八度の間を推移しており、坑内としては快適な環境にあった。

また、坑内の湿度は、九〇%から九八%の間を推移しており、湿潤化した状況にあった。

細倉鉱山は、感天(東部)、富士(中央部)、二貫目及び鹿の子(西部)の三つの地区に大きく分けられるが、温度、湿度ともに坑道が深い東部地区が高く、比較的坑道が浅い西部地区が低い傾向を示していた。

4 作業管理体制

被告らは、鉱山保安法等関係法規に基づく保安責任者を置き、坑内の人的、設備的安全確保に努力していた。

鉱山保安法及びそれを受けた金属鉱山等保安規則では、保安統括者、保安技術管理者、副保安技術管理者及び保安係員を選任することが義務付けられているが、細倉鉱山の保安系統は、被告細倉鉱業の社長が所長で保安統括者、坑内関係は、鉱山部長が保安技術管理者、各採鉱課長が副保安技術管理者となっており、更に、副保安技術管理者の下に、数名の採鉱技師(保安係員)及び数名の職長(保安係員)がおり、各々担当範囲の坑内の各切羽の作業現場を毎日巡回し、安全の確保のため、管理・監督していた。そして、さく岩機の乾式使用、防じんマスクの不着用等という不安全行為があれば、その都度、その場で注意していた。

5 労働条件

(一) 労働時間

(1) 坑内労働は、坑口時間制(拘束時間制)が採られており、被告らでは、この拘束時間を、昭和五七年まで七時間半とし、労基法より三〇分短縮していた。

(2) 坑内作業での拘束時間は、七時間半といっても、前記のとおり、切羽は坑口からかなり遠く離れた場所にあり、そこまでの往復に長時間を要するほか、坑内休憩室での作業衣への更衣時間、坑内事務所での申送り、火薬受取り等の時間を差し引くと、粉じん作業下での実働時間は、大幅に短縮されていた。

すなわち、入坑時刻は、一方で、午前八時(二方で午後二時三〇分)であったが、実際に作業を開始するのは、午前九時三〇分頃(二方で午後四時頃)であり、遅くとも午後二時(二方で午後七時三〇分)までには作業を終了して休憩に入っていたので、実働時間は、三時間から三時間半程度にすぎなかった。

また、昭和五七年以降、拘束時間を、七時間半から八時間に変更したが、これも、切羽が深部へ移動したことに伴い、坑口から切羽までの移動時間がかかるようになったことから、実働時間を従前より減少しないよう保つための変更にすぎず、実際、拘束時間を八時間に変更したことにより、坑内作業の実働時間が長くなったということはなかった。

(二) 給与制度

細倉鉱山における坑内作業員(支柱員、工作員等を除く。)の給与制度は、本人給の六〇%が固定給、四〇%が出来高に応じて支払われる請負給となっていた(後に固定給七〇%、請負給三〇%に変更された。)。請負給の標準作業量である目当の決め方は、労使の協議によっていた。そして、平均的技術の持主が、普通に作業をすれば、何割かの伸びが得られるように、労使間で目当が協議決定されていたし、何らかの理由で請負目当に達しない場合であっても、請負給分を補償していた。そのため、一部請負給になっていたとしても、純然たる請負給とは異なり、ノルマ達成のために長時間労働を強いるということはなかった。

6 以上のとおりであり、細倉鉱山は、坑内湧水量が多く、多湿であり、典型的な粉じん職場というものではなかった。

しかしながら、粉じんを多量・長年月にわたって吸入すれば、じん肺に罹患することは知られた事実であったから、被告らは、その鉱山稼働期間中を通じて、作業環境の管理、作業条件の管理、健康等の管理等において、実践可能なじん肺防止措置を講じてきた。

二  製練作業(溶鉱工程)の実情

1 溶鉱工程の作業員の作業内容

溶鉱工程の作業員の職種は、装入工と炉前工に分かれる。

(一) 装入工

装入工は、主に、溶鉱炉二階部分で、溶鉱炉に焼塊、コークス等を装入する作業を行う。

装入工は、一方(八時間)のうち、装入作業等に約三時間を費やし、残りの時間は、溶鉱炉二階装入場監視室において、監視作業を行っている。装入場監視室は、外部から清浄空気が送り込まれ、かつ、密閉されているため、粉じんやガスを吸入することはなかった。

(二) 炉前工

炉前工は、主に、溶鉱炉一階部分で、羽口点検の手入れ作業、ドロス上げ作業、からみ口の手入れ作業を行う。

右作業に要する時間は僅かであり、大部分の時間は、溶鉱炉一階炉前監視室において、監視作業を行っている。炉前監視室も、外部から清浄空気が送り込まれ、かつ、密閉されているため、粉じんやガスを吸入することはない。

2 溶鉱工程における作業実態

(一) 焼塊ビン

(1) 焼塊ビンは、四方を鉄筋コンクリートで囲まれた縦横各約5.4m、高さ7.27mの築造物であって、そのうち一面は、ショベルローダー用の入口として、2.8mの高さまで開かれており、上部には、屋根がかけられている。焼結工程で焼き固められた焼塊は、パンコンベアでこの焼塊ビンに落とされる。

パンコンベアは、5.5mの高さの部分に設置されており、焼塊は、5.5mの高さから落とされるが、焼塊ビンには、焼塊が直接床に落下しないように、傾斜した鉄板が設置されている。

また、焼塊ビンのショベルローダー用の入口部分には、傾斜部下部の高さ2.8mの部分から、レールを切った長さ1.5mのチェーンが一面全部に吊るされており、焼塊がショベルローダーに当たったり、運転席に落ちたりするのを防ぐと同時に、焼塊ビンのショベルローダー用の入口部分から焼塊が外部に落ちることを防いでいる。

(2) 焼塊は、相当固いため、パンコンベアから傾斜板に落ちたり、焼塊と焼塊が衝突することにより、粉じんが発生することはない。また、焼塊が、傾斜板とレールチェーンを通って焼塊ビンの床部分に至る際にも、粉じんは発生しない。

調合・焼結工程の振動スクリーンによって、三〇mmに満たない焼塊は、戻粉としてクーリングドラムを通ってマルチマルに送られるため、焼塊ビンに送られる焼塊は、三〇mm以上の大きさとなっており、粉状の焼塊はそもそも焼塊ビンまで送られないが、仮に焼塊ビン内で粉じんが発生したとしても、焼塊ビン上部には、防じんバッグが設置されているため、それに吸収される。

仮に粉じんが発生したとしても、作業員は、ヘルメット、防じんマスク、作業衣、保安靴、革手袋の保護具を完全装着しているため、粉じんを吸入することはなかった。

(二) 溶鉱炉への装入

(1) ショベルローダーにより、焼塊ビンから焼塊をすくって、溶鉱炉の装入口へ運ぶ作業をするが、前記のとおり、焼塊は相当に固く、大きさも三〇mm以上であること、また、焼塊を焼塊ビンに保管している時間は二方(一六時間)前後であってその間に粉になることもないから、ショベルで焼塊をすくう際に粉じんは発生しない。

(2) 溶鉱炉一階部分の送風管からは、一分間に八〇m3の風を送り込んでいるが、それが、溶鉱炉内の溶融体、半溶融体、乾燥ゾーンを通って上昇することにより、風圧が減少する。他方、溶鉱炉二階部分の左右には、排ガスを吸引するガス引口があり、一分間に四五〇m3の吸引をしているため、ガス引口から吸引される空気は、送風管から送り込まれる空気の四、五倍の強さとなっている。そのため、溶鉱炉二階装入口においては、マイナス圧となっており、装入口から粉じんないしは煙が上昇することはない。

(3) 溶鉱炉の荷(焼塊、コークス等)が、宙吊りになって溶鉱炉内の燃焼が悪いときには、稀に、溶鉱炉二階装入口から、長さ約三mの針で宙吊りの荷を下げる作業をすることがあり、その際に、煤煙混じりのガスが上がってくることもあるが、作業員は、ヘルメット、防じんマスク、作業衣、保安靴、革手袋の保護具を完全装着しているため、ガスを体に浴びることや吸入することはなかった。

(三) 除滓ケットル

(1) 溶鉱炉の中で、焼塊は、鉛とからみに分離され、鉛は、溶鉱炉の鉛口から鉛樋を通って除滓ケットルに送られる。

除滓ケットルでは、鉛に含まれている銅分を分離するため、亜炭くずを入れて攪拌し、ドロスを分離して取り除き、残った鉛を鋳型に入れて鋳造する。

(2) 除滓ケットルに亜炭くずを入れると、亜炭の持っている水分が蒸発すること及び亜炭が燃えながら反応することにより、ガスが発生するが、除滓ケットルには蓋が付いており、亜炭くずの反応中はその蓋が閉まって密閉状態になり、蓋が防じんフードの代わりになって、蓋から防じんバッグに吸引しているため、内部の反応によるガスは外部に出ない。また、仮にガスが外部に出ても、除滓ケットルの上には、防じんフードが設置されているため、それに吸引される。

除滓ケットルで発生したドロスは、穴のあいたスコップでドロス鍋に上げられるが、ドロスは半溶融状態でベトベトしているため、粉じんないしヒュームは発生しない。

仮に粉じん等が発生したとしても、作業員は、ヘルメット、防じんマスク、作業衣、保安靴、革手袋の保護具を完全装着しているため、それを吸入することはなかった。

(四) 電気炉

(1) 溶鉱炉から出たからみは、溶鉱炉からみ口からからみ樋を通って電気炉に入る。

その際、若干ヒュームが発生するが、溶鉱炉と電気炉の上に、防じんフードが設置されているため、それに吸引される。

(2) 電気炉では、からみと銅鈹が分離され、銅鈹は、砂床の上に置かれた鈹鍋に抜かれるが、その際、若干ヒュームが発生する。また、電気炉のからみ樋からからみが出る際にも、ガスが発生する。

しかし、電気炉のからみ抜きの上やからみ樋の上に防じんフードが設置されているため、ヒュームやガスは、それに吸引される。

(3) 溶鉱炉のからみ口が詰まったときには、長さ約二mの針で、からみ口を研くが、作業員は、防じんフードを付けたまま脇から作業をするため、ガスを吸うことはなかった。

(4) 仮に粉じん等が発生したとしても、作業員は、ヘルメット、防じんマスク、作業衣、保安靴、革手袋の保護具を完全装着しているため、それを吸入することはなかった。

(五) 溶鉱炉の羽口点検

(1) 溶鉱炉一階部分に送風管から送られた空気は、羽口を通って溶鉱炉の中に送られるが、羽口の部分が詰まって風通しが悪いときには、風通しを良くするため、針で羽口をつつくことがある。

しかし、送風管から送られた空気は、炉の内部に入らないで、直ちに羽口から出るため、炉内の粉じん等が、一緒に外に出るということはない。

(2) 羽口の機能を生かすため、羽口から、長さ二ないし2.5mの針を、溶鉱炉内深く打ち込む作業をすることがあり、その際、針にからみが付いて、針を抜くときにからみが僅かに飛ぶことがあるが、作業員は、ヘルメット、防じんマスク、作業衣、保安靴、革手袋の保護具のほか、防災上の前掛けを装着しているため、からみが作業員に付着することはなかった。

(六) 側煙道掃除

(1) 溶鉱炉から出たガスは、側煙道、角煙道、大ダストチャンバー、クーラーブースターブロワー、小ダストチャンバー、バックフィルターを通って、最終的に、排煙脱硫装置に至る。

側煙道掃除は、ホッパーの下にあるダンパーを抜いて、煙灰をショベルカーのバスケットに受ける方法により行われる。煙灰が落ちない部分については、ホッパーの脇の手入口を開いて、そこから針でつついて落とす。この作業は、昭和五四年以降は、二か月に一回の割合で行われていたが、それ以前は、年に二、三回の割合で行われていた。

側煙道の中に入って掃除をすることもあったが、それは、盆や正月、炉の修理等溶鉱炉を止めた場合にのみ行われる作業であった。

(2) 掃除の際には、作業員は、頭巾、つなぎ服、防じんマスク、防じん眼鏡、保安靴、革手袋の保護具を装着して作業をするため、体に粉じんが付着したり、粉じんを吸入することはなかった。

(七) 大ダストチャンバー掃除

(1) 大ダストチャンバーは、溶鉱炉から出たガスを大きな室に入れて、水を吹きつけてガスを冷却する場所である。水を吹きつけられたガスは、三〇%の水を含んだ煙灰となり、ベトベトした状態で下に残るため、大ダストチャンバー掃除は、ショベルローダーを大ダストチャンバー内に入れて、そのバケット部分ですくう方法により行われる。また、ショベルローダーの回りきれない部分については、スコップですくってバケットに入れられた。

この作業は、二か月に一回の割合で行われた。

(2) 掃除の際には、室の扉を開いて空気を入れ換えてから、作業員は、頭巾、つなぎ服、防じんマスク、防じん眼鏡、保安靴、革手袋の保護具を装着して作業をするため、体に粉じんを浴びたり、粉じんを吸入することはなかった。

(八) バルーン煙道掃除

(1) 小ダストチャンバーからバックフィルターに通じる煙道をバルーン煙道という。

バルーン煙道は、屋外にあり、その掃除は、ホッパトの下にショベルローダーを配置して、ダンパーを開いて煙灰を抜き取る方法により行われる。また、ホッパーとホッパーの中間に残っている煙灰は、掃除口を開けて、ホッパーに掻き出す方法によっている。他に、バルーン煙道の中に人が入って掃除をすることはほとんどなかった。

この作業は、昭和五四年以降は、二か月に一回の割合で行われていたが、それ以前は、年に二、三回の割合で行われていた。

(2) 掃除の際には、作業員は、頭巾、つなぎ服、防じんマスク、防じん眼鏡、保安靴、革手袋の保護具を装着して作業をするため、体に粉じんを浴びたり、粉じんを吸入することはなかった。

(九) バックフィルター掃除

(1) バックフィルター室は、煙灰を含んだガスをバックフィルターを通すことにより、煙灰を取り除き、きれいなガスにして、排煙脱硫装置に送る機能を有するものである。

バックフィルター室は、No.1ないしNo.3バックフィルターに分かれ、No.1バックフィルターは五室、No.2バックフィルターは四室、No.3バックフィルターは六室で構成されており、それぞれ、一室に、濾布が九六本設置され、濾布の下から入ってきた煙灰を含んだガスは、煙灰のみが下のホッパーに落ちてスクリューコンベアで室の外に運ばれる。そして、濾布を通ったガスのみが、バックフィルター室の上部の煙道を通って排煙脱硫装置に送られる。

(2) バックフィルター掃除の際には、ボペットダンパーを閉め気味にして、室内の空気を引いて、また、室の出入口の扉をすべて開いて、室内のガスを入れ換えてから行うため、室内に、粉じんないしはガスはない。

この作業は、定期修理の際に行われた。

(3) 掃除の際には、作業員は、頭巾、つなぎ服、防じんマスク、防じん眼鏡、保安靴、革手袋の保護具を装着して作業をするため、粉じんないしはガスを吸入することはなかった。

3 給与制度

製錬作業員は、固定給である。

また、坑外作業をしている作業員と比較し、賃金は平均的に高く、坑外作業員の賃金を一〇〇とすると製錬作業員の賃金は一一〇と決められていた。

4 以上のとおりであり、細倉鉱山の製錬作業場においては、粉じんが機械設備から出ないよう密閉したり、防じんフードを設置する等防じん対策を採っていたため、粉じんが発生することはほとんどなかった。

三  被告らのじん肺防止対策の実情

被告三菱マテリアルのじん肺防止対策の実情は、次のとおりであるが、このことは、被告細倉鉱業及び被告大手開発においても同様であった。

1 被告三菱マテリアルのじん肺防止対策への取組み姿勢

(一) 昭和二三年四月、金属鉱山労使によって作られた金属鉱山復興会議は、政府に対し、けい肺対策につき建議した。これを契機に、政府、労働者、使用者及び専門学者をもって、けい肺対策協議会(後のじん肺審議会)が組織され、政・労・使及び専門学者が一体となって、けい肺(じん肺)問題に取り組んできた。

被告三菱マテリアルは、右の動きの中で、立法や行政措置の進展を待つことなく、独自の熱意と努力により、他社に先駆けて組織的にけい肺(じん肺)対策に取り組んできた。

すなわち、昭和二二年には、研究所の中に「産業医学研究室」を設置し、けい肺の病理研究に着手したのを皮切りに、巨額の特別予算を計上し、「けい肺対策委員会」を設けてけい肺対策の方向付けを行い、教育啓蒙活動や定期健康診断の励行等の衛生医学的対策、さく岩機の湿式化等の衛生工学的対策を実施する等、全社的、組織的に、けい肺(じん肺)対策に取り組んできた。

三菱マテリアル労働組合連合会は、全日本金属鉱山労働組合連合会(略称全鉱)傘下の主力組合の一つであったが、全鉱は、使用者と同等の姿勢でけい肺(じん肺)対策に取り組んできており、使用者が決定する施策について、予めその意思を反映させるとともに、その具体的実施の末に至るまで関与し続けてきた。

右のような状況下で、被告三菱マテリアルが、防じん対策を怠ったまま操業を強行するなどということはあり得べくもなかった。

(二) 一般に、じん肺以外の問題では、行政取締上の法規は、最低水準であって、その遵守があっても、それが当然に民事上、行為の違法性阻却とまではならないものと解されているが、じん肺に関しては、関係法規は、常時最高水準に到達していると評価されており、その遵守は、当然に違法性を阻却するものと解すべきである。

2 坑内作業における防じん対策

(一) 発じんの予防・抑制

(1) 散水

散水・噴霧は、古くから被告三菱マテリアルにおいて実施されている。

すなわち、細倉鉱山においては、既に昭和二六年に、末端までの体系的な給水路(ウォーターパイプライン)の設置が大部分終わっており、また、給水路体系の完成前も、ウォータータンク等の使用による散水・給水は実施されていた。さく岩作業における散水については、切羽に着いたら直ちに、切羽の周囲に十分散水するよう教育し、現に実施されていた。

(2) さく岩機の湿式化

さく岩機の湿式化は、昭和二九年、金属鉱山に義務付けられたが、それに対し、被告三菱マテリアルでは、ドリフターについては、戦前から既に湿式化していた。また、ストーパーは、上向きのため、その湿式化に技術上の困難を極めたが、被告三菱マテリアルは、昭和二三年後半から昭和二四年初めにかけて、日本で初めてその湿式化に成功した。

このように、被告三菱マテリアルでは、さく岩機の湿式化については、どこよりも早く研究開発し、かつ、それを実用することによって、粉じんの抑制に対する努力をしてきた。

(3) ビット・ロッドの改良

被告三菱マテリアルは、昭和二三年、超硬合金であるタングステンカーバイトを刃先に用いるビットを開発し、浮遊粉じんを大幅に減少させた。また、ロッド及びビットの口径の小径化を図り、これによるさく孔の小型化によって、粉じん発生が抑制された。

(4) 発破の改良とさく孔数の減少

被告三菱マテリアルは、昭和二五年、日本の金属鉱山として初めて、電気雷管による発破を開発した。電気雷管による瞬間的発破は、導火線発破に比し、起爆間隔を短縮できるので、発破による粉じん時間が短くなるが、それと同時に、ミリセコンド雷管では、瞬間的に爆破し、相乗的な効果が大きいため、さく孔数を少なく、さく孔間隔を拡大でき、両様の面で粉じん発生の抑制に効果があった。

(二) 粉じんの希釈・拡散と移出

(1) 自然通気(系統的通気)

細倉鉱山は、高低差の大きい山間にあり、多数坑口がつけられ、かつ、一日の温度差も大きく、しかも、坑道は広いため、自然通気の良い鉱山である。

(2) 強制通気(機械通気)

細倉鉱山には、マニホールド、風管、局所扇風機など強制通気を生じさせる機器が十分設置されていた。

(三) 粉じんの遮断

(1) マスクの着用

被告三菱マテリアルは、戦前からマスクの無償貸与をしており、昭和二四年頃から、川崎式C型及び重松式TS一〇号を、さく岩員全員に着用させている。これは、JIS規格のできる一年以上前のことであり、その時代に存する最高のマスクを従業員に着用させていた。

昭和三六年頃からは、他社に先駆けて静電濾層(ミクロンフィルター)マスクであるサカイ式一〇〇三型を使用している。

防じんマスクは、専用の殺菌灯の付いた乾燥箱に保管され、マスクが破損したり故障した場合には、作業員は担当者に申し出ることにより、それの交換等をすることができた。

(2) 発破作業の管理(上がり発破)

細倉鉱山においては、多くの場合、発破をかける時期を終業前に取り、発破後は、当日の作業を終わって出坑し、その後は、坑内に人は入らないという形態(上がり発破)で、発破作業を行っていた。

(四) 粉じん濃度の測定

坑内作業における切羽は、坑外における一般の工場事業場のように、建屋や設備・機械等が固定的に設置されている場所と違い、作業の進行に伴い、時々刻々に移動・変化し、また、手持ちの機器を用いた作業が多いため、発じん源や発じんの方向・量等も時々刻々に変化する。そして、その間に、多様な作業が相次いで行われる。作業の中には、発破やさく岩という、短時間に特定された箇所で、集中的に粉じんが発生することもある。こうした多様な発じん状況の変化の中では、粉じん測定の標準となる測定場所は定め難く、見かけ上は同一あるいは類似の場所と見られても、質的に同一性が保証されない等、連続性、基準性をもった、他と比較するに足りる測定値を得ることは著しく困難である。このような場合、測定値は、当該時・所における数値としての意味しか持たないことになる。

右のような事情から、坑内作業に関しては、平成年度に至るまで、粉じん測定を義務付ける法令はなく、また、測定数値が信頼に値するだけの測定機器の開発もされていなかった。更に、現在まで、多くの種類の粉じん測定器が開発されてきたものの、機種によっては、重量濃度、個数濃度、瞬間濃度等と表示方法が異なり、相互間の測定値の比較評価が困難で、一貫した管理に用い難く、測定器の機器差、測定者による差など、不安定要素が多く、同じ測定器を用いて、同じ場所の同じような状況の粉じんを測定しても、必ずしも同一の結果が出るとは限らないなど、信頼のできる測定値を得ることは困難な実情にある。

しかし、被告三菱マテリアルは、右のような粉じん管理の実情の中でも、粉じん測定に積極的に取り組み、その時代時代に入手し得る最高の粉じん測定器を備え、定期的及び必要に応じ、粉じん測定を行い、その結果を、衛生工学的・衛生医学的対策実施の際の参考資料として活用し、じん肺対策に努力してきた。

3 製錬作業における防じん対策

(一) 前記のとおり、じん肺に関しては、関係法規は、常時最高水準に到達していると評価されており、その遵守は、当然に違法性を阻却するものと解すべきである。

そして、鉛製錬作業においては、鉛中毒予防規則において規定されている鉛中毒予防のための設備の設置義務を遵守している場合には、防じん対策としても十分である。

(二) 鉛中毒予防規則における防じん対策の基本は、設備等については、できるだけ密閉し、密閉できない部分については、防じん設備を設け、保護具を着用させるというものである。

被告三菱マテリアルは、鉛中毒予防規則が制定された前年の昭和四一年に、次のとおり、鉛中毒防止工事を実施した。

ア 粉じん濃度の高いところでは、防じんフード、ダクト、バックフィルター、ファンを取り付け、粉じんの回収を図った。

イ 粉じん濃度の希薄なところでは、フード、軸流ファン付ダクトを取り付け、大気中に放散した。

ウ フードの効果を上げるため、必要箇所に、気流移動防止の隔壁を設置し、かつ、隔壁内の停滞ガスは、軸流ファン付ダクトで外に逃がした。

エ 休憩室(運転監視室)に、清浄空気を吹き込んだ。

オ スプレー式散水を、作業場随所で随時行えるようにした。

カ 作業者が、作業時に、ミクロンフィルターマスクを着用するよう奨励徹底した。

(三) 掃除

(1) 鉛中毒予防規則四八条は、事業者に対し、鉛業務を行う屋内作業場等の床等の鉛等による汚染を除去するため、毎月一回以上、床等を、真空掃除機又は水洗いにより掃除することを義務付けている。

被告三菱マテリアルは、昭和四一年に、製錬作業の焼結・溶鉱工程に、水を送る高圧ポンプを設置し、そこから各職場に給水できるよう配管して、高圧水で水洗いできるようにした。掃除は、一方に最低一回の割合で、作業終了前の最後の巡回の際に水洗いにより行い、散水は、作業員が作業をする場所に重点的に行った。また、散水により流れない大きなものは、箒により掃除をした。

(2) 粉じん障害防止規則二四条は、鉛中毒予防規則四八条と同様の規定をするほか、堆積した粉じんを除去するため、一か月以内毎に一回、真空掃除機又は水洗い等粉じんの飛散しない方法による清掃を義務付けているが、但書においては、粉じんが飛散しない方法により清掃を行うことが困難な場合で、清掃に従事する労働者に有効な呼吸用保護具を使用させたときには、その他の方法により清掃を行うことができる旨規定している。

被告三菱マテリアルは、梁、窓枠、機械設備等については、月二回の定期修理の際に、できる範囲内で清掃を行っており、製錬作業における作業員はすべて、ヘルメット、防じんマスク、作業衣、保安靴、革手袋の保護具を常時着用しているから、被告三菱マテリアルは、右但書にいうその他の方法による清掃を履行していた。

(四) 粉じん濃度の測定

被告三菱マテリアルは、鉛中毒予防規則五二条に基づき、昭和四七年以降、六か月以内毎に一回、定期に製錬作業場における空気中の鉛の濃度を測定している。そして、同規則五二条に基づき、右測定に基づく作業環境の評価も行っている。

また、粉じん障害防止規則が制定された昭和五四年以降、六か月以内毎に一回、定期に製錬作業場における空気中の粉じん濃度を測定している。そして、右測定に基づく作業環境の評価も行っている。

(五) マスクの着用

被告三菱マテリアルは、昭和二〇年代から、鉛製錬の作業員に対し、防じんマスクを支給している。

支給したマスクは、昭和四〇年以前は、サカイ式一一七型であるが、昭和四一年からは、サカイ式一〇〇七型ミクロンフィルターマスクである。また、昭和五九年以降は、更に高性能のサカイ式一〇二一R型ミクロンフィルターマスクを支給している。

防じんマスクは、昭和四一年以降、専用の殺菌灯の付いた乾燥箱に保管され、マスクが破損したり故障した場合には、作業員は担当者に申し出ることにより、それの交換等をすることができた。

4 じん肺に関する教育・啓蒙

(一) 特別に機会を設けての教育、啓蒙

医師等による講演会、講習会等を、一般作業員あるいは衛生担当者を対象として、随時開催した。そして、これらの講演の内容を、鉱山所報に登載して、全従業員の家庭に配布し、家庭ぐるみのじん肺教育を行った。また、年に数回行われる従業員家族の坑内見学会等の機会を捉え、じん肺予防に対する家族の協力を求める訓話を行う等、家族ぐるみの啓蒙を図った。

(二) 現場における教育、啓蒙

マスク着用の徹底や散水の励行等、じん肺対策に関する教育、啓蒙が、毎朝行われる番割り(作業指示)の前に、繰り返し行われていた。また、保安テーマや衛生月間目標としても、じん肺予防を啓蒙していた。

更に、保安係員は、義務付けられている坑内巡視の際、マスクの不着用者や空繰りする者、あるいは散水を十分に行わない者がいれば、厳しく注意し実行を促した。

(三) 労働組合によるじん肺に対する教育、啓蒙

労働組合も、組合報等で、じん肺予防対策の周知徹底を、直接組合員に呼びかける等の方法で、独自に組合員である従業員に対し、教育、啓蒙を行っていた。

5 以上のとおり、被告三菱マテリアルは、細倉鉱山において、当該行為時に要求される安全配慮義務を尽くしてきた。

それは、細倉鉱山就労者の内、じん肺有所見者は一割に満たず、じん肺患者(管理四の者)に至っては、更にその一割以下であることからも明らかである。細倉鉱山に就労した者の大部分は、長期間同鉱山を無事に勤め上げている。そのことは、細倉鉱山という職場がいかに安全・健康的な職場であったかを事実で裏付けているものである。

そうした職場の就労で、たとえ少数でもじん肺罹患者が出ることは誠に遺憾であるが、それは、その者が鉱山労働について定められた法令その他の取決めを守らず、自己保健義務を尽くさなかったからと解するほかない。

四  じん肺の病像

1 じん肺の病像の概要

(一) じん肺は、改正じん肺法二条一項によると、単に「粉じん」を吸入することによって生じる疾病とあるが、発症のための粉じんは、それが吸入され気道壁に沈着し、体液と接触した場合に、極めて難溶ないし不溶の粉じんであることが必要とされている。このことから、じん肺は、通常、鉱物性粉じんを吸入することによって肺に生じる線維増殖性変化を主体とする疾病である。

粉じんの吸入・沈着による肺組織との接触から、線維増殖性変化に至る生物学的反応機序には諸説あって、現在、未だ完全に定説化しているとはいい難いが、粉じんが肺の奥深くまで到達し、沈着すると、生体組織は、こうした曝露に対する防禦反応を起こし、肺細胞間で線維性組織の増加、結節性変化を生じる。また、時には、これに伴って肺の気泡性変化を生じることもあり、また気管支にも免疫反応としての慢性炎症性変化を伴いやすいものとされている。

こうした、粉じんの肺内への沈着とそれに対する線維化等は、個体差が大きいが、それは、気管支の生理的機能としての粉じん除去(自浄)作用の良否や体質的な生体反応の強弱が影響するとされており、とりわけ喫煙は、粉じん除去作用を阻害する因子と解されている。

(二) 一口に鉱物性粉じんといっても、多種多様の鉱物が存する。それら粉じんの質の差によって、生体反応も差異があり、生ずるじん肺の形態にも差異がある。エックス線写真像の上では、けい肺(珪酸じんによるもの)、石綿肺(石綿じんによるもの)、その他じん肺(その他の粉じんによるもの)と、標準写真も三大別されているが、そのような大きな差異を生じ得る。

このように、じん肺にも種々の型の分類が成立するということは、吸入された当該粉じんの種類(質)に応じて、出現する症状・所見にも明瞭な差異が見られるということであって、どの粉じん(どのじん肺)でも、およそじん肺全般についていわれるような症状・所見のすべてが出現し得るということではないし、また、症状の経過、変化にしても、各種じん肺毎に、それに固有のものがある。したがって、そうした差異を無視した病像論は、出発点から誤っている。

(三) じん肺(けい肺)の症状は、合併症を伴わない場合、管理四の進展したもの以外は、それ自体ではほとんど症状を現さない。症状として自覚されるのは、動作時の呼吸困難が最初であることが多く、他は、風邪をひきやすいといった程度である。

2 じん肺の特質

(一) 肺の線維増殖性、結節形成変化は、火傷の跡の痣痕や手術痕と同様に、時が経っても消失しないという意味で不可逆的であり、また、肺胞にできた気腫性変化や胸膜肥厚も不可逆的であるが、じん肺の症状・所見において不可逆性であるというのは、そうした限りでのことであって、およそじん肺において現れる症状・所見が悉く不可逆性であるということはない。

(二) 本件原告らは、更に進んで、じん肺の症状は、全身性であるとも主張するが、じん肺は、あくまで肺の疾患であって、それ以外の疾患ではなく、肺以外の臓器の疾患とすることはできない。また、いかなる病気でも、それが重症化して遂に死に至る直前には、皆、等しく全身状態が悪化するが、それをもって、全身性疾患であるということもできない。

(三) 本件原告らは、じん肺について、進行性であるとも主張するが、じん肺も、前記のとおり、体内に入った粉じんに対する生体の防禦反応として起こるものであるから、吸入・沈着した粉じん量に対応した病変を現すという、量・反応(量・影響)関係が成立するのであって、そうした関係を無視した進展はあり得ない。

もちろん、じん肺の場合、粉じんの沈着があってから、それによる線維増殖性変化が起こり、しかもそれがエックス線写真像の上に粒状影となって現れるには、数年を要するといわれており、粉じん作業職場を離れれば、即時その時点の状態で固定するとは限らないが、その時点で沈着した粉じんの影響以上の進行はあり得ず、そのような意味での進行性もあり得ないことである。この事実は、経験的にも知られているところであるが、そればかりでなく、改正じん肺法が、じん肺の所見が現れた者について、粉じん曝露軽減措置を定めていること(二〇条、二一条)も、それが爾後の症状進展の阻止に有効であることを前提とするものと認められること、また、近年、じん肺患者の軽症化が、マクロ的に見た傾向としていわれているが、これも積年の衛生工学的技術改善の効果として、粉じん曝露量の減少が一因となっているとされていること等も、これを裏付けるものである。

3 じん肺の合併症

(一) 一般に、医学的には、ある基礎疾患の患者に、随伴して発症した他の疾患は、すべて合併症と扱うが、改正じん肺法が、特に五つの疾患に限っている所以は、それらがじん肺の基本的な病変を素地として、特に密接な関連性の下に発症するものであることが、医学・疫学分野での調査研究によって認められたものであるからである。管理二又は管理三の者が、じん肺法上の合併症で要療養となれば、その診断のみで、それ以上因果関係の究明等なしで直ちに、労災補償給付が供せられ、医療を受けられる扱いとなっているから、法も右のような確認のないものを、合併症とはしない。

原告らは、右五つの他に種々の疾患を、じん肺に合併する疾病と主張するが、それらは、右に述べた一時的な意味での合併症としてなら格別、法のいう合併症ではない。

(二) 管理二又は管理三の者は、それだけでは、労基法ないし労災補償法上の業務上災害(職業病)と認められていないし、日常生活に支障が現れるものでもないから、その者がたまたま他疾患に罹患しても、本来当然には医療給付等を受けないが、法定の五疾患は、じん肺を素地として、高頻度に発症しやすく、もし放置するときは、じん肺の症状・所見上、悪影響を及ぼすおそれがある反面、それら合併症の急性増悪期に(定期的)適切な治療を加えれば、症状の改善・治癒を望み得る疾患であるから、合併症を伴った場合は、特にその間、労災補償給付を行い、早期に治癒を期待する制度となっている。

たとえば、本件原告らに最も多いと主張のある続発性気管支炎における治癒とは、咳、痰などが完全に出ない状態になることを必ずしも意味するのではなく、急性増悪期の状態が改善、復元して、元の慢性状態に戻る症状固定、すなわち、それ以上医療の対象とならないところまでを意味する。

4 改正じん肺法による管理区分の決定

(一) 改正じん肺法に基づくじん肺管理区分の決定は、じん肺の予防と健康管理の目的で、都道府県労働基準局長が行う行政処分であり、現に就業していない者や定年を超えるような高齢者が対象となることは、もともと法が予定していなかった。

管理四の者は、要療養の状態であるから、労災請求があると、原則として、業務上疾病と認定され、法定の諸給付が労災補償保険から支給される。

それに対して、管理一は、じん肺無所見者であって、就業上の特段の制約措置もないので問題はない。

管理二及び管理三の者も、合併症がない限り、労基法ないし労災補償法上の業務上災害(職業病)とはされない。ただ、管理二及び管理三の者が、法定の合併症を併発すると、当然に要療養となるため、労災補償給付がされることとなる。この場合、右合併症の性質上、急性増悪期とみられる一定期間のみ労災補償給付がされ、合併症が治癒すなわち症状固定となれば、労災補償給付は打切りとなるのが制度の趣旨である。

管理区分の決定と異なり、合併症の認定は、所轄労働基準監督署長が行う。

(二) 本件原告らは、じん肺法による管理区分の決定ないし合併症の認定をもって、即じん肺罹患とその症度の公認であって、民事訴訟上もそれ以上の立証を要しないものであるかのごとく主張するが、これは、右行政認定等の制度の趣旨を歪曲するものである。

右管理区分決定、合併症認定は、これに伴う労災補償給付のため、労災規則の障害等級給付を行うが、それは、そうした行政救済目的からする便宜的なものであって、一種のみなし行為であり、必ずしも、実質上の障害度を保証する性質のものではない。

また、管理区分が、管理二及び管理三の者は、じん肺有所見者とはいっても、合併症がなければ要療養でないのはもちろん、労災補償給付もなく、就労についても、管理二及び管理三イでは、粉じん曝露の低減措置が、管理三イ・ロでは、作業転換措置が要請されるが、いずれも就労継続が認められるものであるから、労働能力の喪失は考え難い。合併症がある者についても、合併症は、前記のとおり、一過性の状態であるのが制度の本旨で、治癒が予期されるものであるから、そうした一時的な状態を基礎に考えるのは誤りである。

(三) じん肺の認定(管理区分の決定)に当たっては、第一に、エックス線写真の撮影・読影があり、これは、公定の標準写真との並列対比の下で行われるのであるが、専門医が行っても容易でなく、特に、主治医に重く読み過ぎる傾向がある。第二に、肺機能検査が行われ、著しい肺機能障害の有無が確かめられるのであるが、前記のとおり法体系は、現在のようなじん肺罹患者の高齢化を予想していなかったため、肺機能検査の基準値において、高齢化による生理的な肺機能低下が十分加味されていないため、同年齢の健常人ですらも著しい肺機能障害があるとされてしまうような大きな問題を含んでいる。したがって、こうした検査手法の面からしても、行政認定の結果を無批判に受け入れてはならない。

5 じん肺に対する労災補償給付

(一) 管理四になると、要療養とされるため、これは、労基法・労災補償法上の業務上疾病と扱われて、労災補償給付が与えられる。補償給付の内容は、療養給付、休業補償給付(一年六か月経過後は、傷病補償年金)である。このうち、休業補償給付(後に傷病補償年金)は、最終粉じん職歴における平均賃金を基に算出されることになるが、粉じん作業従事者(とりわけ鉱山坑内労働従事者)は、一般の労働者に比して、賃金が著しく高水準であることが多いため、こうした給付も、一般の労働者に比して、概して高いものとなる。しかも、給付額は、物価水準にスライドして年々引き上げられる仕組みとなっており、じん肺の基本的病像は、前記の趣旨において不可逆的とされているので、給付は、終身受けられる。

健常な労働者であれば、定年退職により、以後は、所得が半減ないしそれ以下となるのが通例であるのに対し、同年齢のじん肺罹患者は、前記労災補償給付が、こうした健常労働者の給与水準を逐次上回っていくという制度的厚遇を与えられている。

(二) 管理二又は管理三の場合は、労災補償給付はないが、それらの者も、合併症と認定されれば、制度上当然に要療養と扱われることになり、前記管理四と同様の処遇を享受する。

6 じん肺と損害

(一) 本件原告らは、じん肺罹患者が、生活の全場面にわたって、大きなかつ多種多様の損害を被っているように主張する。しかし、管理二又は管理三の者は、通常労働能力喪失が存しないから、損害は考えられない。また、これらに合併症が伴うと、急性増悪した症状を現すが、それは、適切な医療により治癒・消退し得るものであるから、そうした一般的状態を損害と捉えるのも正しくない。

本件原告らが主張する各種の損害は、最重症患者に現れることがある状態を、あたかも軽症者にでも、そのまま生じ得るかのように飛躍したものである。また、重症者のじん肺死に至る悲惨さを強調するが、およそ死に瀕する重症者においては、何病であっても同様の症状を呈し得るし、とりわけ、肺、呼吸器の重症者においては、それが何病であっても、本件原告ら主張のような状態を生じ得るものであって、そうしたものを、じん肺特有の状態であるかのようにいうのは正しくない。

(二) また、個々の原告らの健康被害の程度は、次のとおり、いずれも、健康被害がないか、あったとしても軽度であるから、原告らに損害はない。

(1) 原告番号一番佐藤研のエックス線写真像の粒状影は、昭和六二年と平成六年とで変わっておらず、いずれも1/1である。

したがって、右原告については、昭和五八年に管理二と認定されて以来、少なくとも平成六年までの約一一年間、結節像の進展はほとんどなく、じん肺が進行性であるという本件原告らの主張にもかかわらず、最軽症の管理二にとどまったままである。

この他、別紙五「原告ら健康被害一覧表」略記のとおり、原告番号二番井上仁市、原告番号五番佐藤聖、原告番号六番吉田清、原告番号八番千葉哲郎、原告番号九番草沢清春、原告番号一〇番佐藤忠男、原告番号一四番佐藤守志、原告番号一六番氏家三郎、原告番号一七番小澤幸太郎、原告番号一九番氏家正志、原告番号二〇番尾崎信及び原告番号二三番佐藤京一は、原告番号一番佐藤研と同様、結節像の進展がほとんどない。

(2) 原告番号一番佐藤研の肺機能は、昭和六二年及び平成六年の両時点において、標準値を上回る良好なものであり、じん肺管理区分決定に当たり実施される肺機能検査の中の、二一歳の者の「二次検査を要すると判定される限界値」を大幅に上回っている。

したがって、右原告には、肺機能障害があるとはいい難く、むしろ健常人と変わらないものである。

この他、別紙五「原告ら健康被害一覧表」略記のとおり、原告番号一一番佐々木松一、原告番号一二番氏家卯市及び原告番号一五番神田温悦を除く本件原告らには、原告番号一番佐藤研と同様、肺機能障害がない。

(3) じん肺の合併症である続発性気管支炎は、抗生物質を投与する等適切な治療を行えば、一か月以内で治癒するのが通常である。それにもかかわらず、原告番号一番佐藤研については、続発性気管支炎に罹患した後、七年以上を経過しても、それが治癒していない。また、平成六年時点においては、抗生物質を投与する等の治療はされていない。更に、続発性気管支炎は感染症であるから、炎症の最盛期には、医師により、入浴や外出を禁止するよう指導されるものであるが、右原告について、医師によるそのような指導はされていない。

したがって、右原告が、続発性気管支炎の合併症に罹患しているとは到底いい難い。

この他、別紙五「原告ら健康被害一覧表」略記のとおり、原告番号三番菅原勝吉及び原告番号一二番氏家卯市を除く本件原告らは、原告番号一番佐藤研と同様、じん肺の合併症に罹患していない。

(4) 原告番号一番佐藤研は、本件訴訟の原告団長の地位にあり、本件訴訟はもとより、本件に続く二次訴訟の口頭弁論期日に必ず出席し、約二、三時間、法廷を傍聴している。また、本件訴訟の操業関係の原告側証拠調べにおいて、一開廷三時間の尋問を三回、損害立証としての自らの損害についての尋問を一開廷一時間こなしているが、その間に、咳や痰を発している様子はなく、病気による衰えは一切なかった。更に、右原告は、法廷活動以外にも、繁華街でのビラ蒔き、弁護団との定例会議への参加、全国各地で行われているじん肺撲滅に関する集会への参加、狩猟等、頻繁に外出し、療養とは程遠い生活をしている。

右原告のこのような生活に照らせば、じん肺管理区分決定の中で用いられる呼吸困難度Ⅲ、すなわち、「平地でも健康者なみに歩くことができないが、自己のペースでなら一Km以上歩ける者」には該当せず、それよりも軽度である。

この他、別紙五「原告ら健康被害一覧表」略記のとおり、原告番号一一番佐々木松一及び原告番号一二番氏家卯市を除く本件原告らは、原告番号一番佐藤研と同様、自己が申告する呼吸困難度よりも軽度の者である。

第四  抗弁

一  過失相殺

1 鉱山における労働は、就労時間の大部分が自己管理労働の形を採り、労働者が定められたとおりの業務遂行をしなければ、使用者は、安全配慮義務の履行を完了できない関係にあるから、じん肺罹患予防のため、労働者は、使用者の提供する設備・機械器具等を適正に使用して、自らも安全に作業を行うべき自己保健義務を負う。

また、喫煙は、直接には気道の粉じん除去機能を低下させる点で粉じんの肺内沈着を助長するものであり、同時に気道を荒らすことで肺機能障害を助長するものであるから、じん肺罹患予防及びじん肺増悪防止のため、労働者は、喫煙を控えるようにすべき自己保健義務を負う。

2 本件原告らの中には、別紙六「抗弁一覧表」の「過失相殺」欄略記のとおり、右自己保健義務を怠った者がおり、右原告らについては、その損害と過失相殺されるべきである。

二  損益相殺

本件原告らは、いずれも要療養で労災補償給付の対象となっており、別紙六「抗弁一覧表」の「損益相殺」欄記載のとおりの労災補償給付を受けている。また、本件原告らの中には、同欄記載のとおりのじん肺見舞金を受けた者がいる。

これらの金員は、本件原告らが、じん肺に罹患したという、本訴での請求原因と同一の原因・理由により給付を受けたものであるから、その金額を、本件原告らの損害から控除すべきである。

三  消滅時効

1 起算点を退職日としたとき(以下、「退職日説」という。)。

(一) 本件請求は、本件原告らが被告らとの間で締結した雇用契約上の安全配慮義務不履行を理由とする損害賠償請求であるが、債務不履行を理由とする損害賠償請求権は、本来の債務と同一性を有するから、その消滅時効は、本来の債務の履行を請求し得るときから進行する。したがって、本件損害賠償請求権の消滅時効は、遅くとも本来の債務の履行を請求し得る最終時点である本件原告らの退職時から進行するというべきである。

そして、被告らが本件原告らと雇用契約を締結することは商行為であるから、右損害賠償請求権の消滅時効期間は、商法五二二条により五年である。

そうすると、本件原告らは、別紙六「抗弁一覧表」の「消滅時効」欄記載のとおり、遅い者でも昭和六二年三月三日の細倉鉱山閉山時には全員退職しており、他方、本件訴訟の提起日は平成四年五月一九日で、いずれも被告ら退職後五年以上を経過しての提訴であるから、本件原告ら全員について、消滅時効が完成している。

(二) また、消滅時効期間が、民法一六七条一項により一〇年であるとしても、別紙六「抗弁一覧表」の「消滅時効」欄記載のとおり、原告番号七番渋谷哲三郎、原告番号一二番氏家卯市、原告番号一三番安倍七五郎、原告番号一四番佐藤守志、原告番号一五番神田温悦、原告番号一六番氏家三郎及び原告番号一七番小澤幸太郎については、退職日から一〇年以上を経過しての提訴であるから、消滅時効が完成している。

2 起算点を最初のじん肺有所見の診断を受けた日の翌日又は最初の行政上の決定を受けた日の翌日としたとき(以下、「最初の行政上の決定日説」という。)。

(一) 仮に、消滅時効の起算日が退職日でないとしても、安全配慮義務違反による損害賠償請求権の消滅時効は、不法行為による損害賠償請求権の消滅時効の起算点における民法七二四条のように、「損害を知ったとき」から消滅時効が進行するという特則がない以上、継続的な加害行為が終了した後一定期間を経て損害が発生し、その損害が進行拡大していく場合であっても、最初の損害が発生したときから権利行使は可能であったのであるから、その時より消滅時効が進行するというべきである。そうすると、管理区分の軽重にかかわらず、本件原告らが最初にじん肺有所見の診断を受けた日の翌日、又はじん肺法等に基づく最初の行政上の決定を受けた日の翌日から、本件原告らの被告らに対する権利行使は可能であったから、右のいずれか早い日が、右損害賠償請求権の消滅時効の起算日となる。

そして、右損害賠償請求権の消滅時効期間は、商法五二二条により五年間である。

そうすると、別紙六「抗弁一覧表」の「消滅時効」欄記載のとおり、原告番号一番佐藤研は、昭和五八年三月二八日、最初の管理二の行政上の決定を受けており、その日の翌日から五年以上を経過しての提訴であるから、消滅時効が完成している。

同様に、別紙六「抗弁一覧表」の「消滅時効」欄記載のとおり、原告番号三番菅原勝吉、原告番号四番渡辺新造、原告番号六番吉田清、原告番号七番渋谷哲三郎、原告番号九番草沢清春、原告番号一〇番佐藤忠男、原告番号一一番佐々木松一、原告番号一二番氏家卯市、原告番号一四番佐藤守志、原告番号一五番神田温悦、原告番号一八番鈴木政志、原告番号一九番氏家正志、原告番号二〇番尾崎信、原告番号二二番加藤晃及び原告番号二三番佐藤京一については、最初にじん肺有所見の診断を受けた日の翌日、又はじん肺法等に基づく最初の行政上の決定を受けた日の翌日から五年以上を経過しての提訴であるから、消滅時効が完成している。

(二) また、消滅時効期間が、一〇年であるとしても、別紙六「抗弁一覧表」の「消滅時効」欄記載のとおり、原告番号七番渋谷哲三郎、原告番号九番草沢清春、原告番号一〇番佐藤忠男、原告番号一二番氏家卯市、原告番号一四番佐藤守志、原告番号一五番神田温悦、原告番号一八番鈴木政志、原告番号一九番氏家正志及び原告番号二三番佐藤京一については、最初にじん肺有所見の診断を受けた日の翌日、又はじん肺法等に基づく最初の行政上の決定を受けた日の翌日から一〇年以上を経過しての提訴であるから、消滅時効が完成している。

3 起算点を最も重症度のじん肺有所見の診断を受けた日の翌日又は最も重症度の行政上の決定を受けた日の翌日としたとき(以下、「最重症度の行政上の決定日説」という。)。

(一) 仮に、消滅時効の起算日が退職日、ないしは、管理区分の軽重にかかわらず、本件原告らが最初にじん肺有所見の診断を受けた日の翌日、又はじん肺法等に基づく最初の行政上の決定を受けた日の翌日でないとしても、各管理区分の最も重症度のじん肺有所見の診断を受けた日、又は各管理区分の最も重症度のじん肺法等に基づく行政上の決定を受けた日のうちのいずれか早い日の翌日から消滅時効は進行するというべきである。

そして、各管理区分の最も重症度とは、各管理区分のうちの最も重症度という意味であり、合併症により要療養になった場合は含まないというべきである。合併症はじん肺そのものでなく、あくまで別個の病気であって、しかも、じん肺そのものと異なり治癒性があり、管理区分とは質的に異なるからである。

(二) 消滅時効期間は五年であるところ、別紙六「抗弁一覧表」の「消滅時効」欄記載のとおり、原告番号一番佐藤研は、昭和五八年三月二八日、管理二の最も重症度の行政上の決定を受けており、その日の翌日から五年以上を経過しての提訴であるから、消滅時効が完成している。

同様に、別紙六「抗弁一覧表」の「消滅時効」欄記載のとおり、原告番号三番菅原勝吉、原告番号四番渡辺新造、原告番号六番吉田清、原告番号九番草沢清春、原告番号一〇番佐藤忠男、原告番号一一番佐々木松一、原告番号一二番氏家卯市、原告番号一四番佐藤守志、原告番号一五番神田温悦、原告番号一八番鈴木政志、原告番号一九番氏家正志、原告番号二〇番尾崎信、原告番号二二番加藤晃及び原告番号二三番佐藤京一については、各管理区分の最も重症度のじん肺有所見の診断を受けた日の翌日、又は各管理区分の最も重症度のじん肺法等に基づく行政上の決定を受けた日の翌日から五年以上を経過しての提訴であるから、消滅時効が完成している。

(三) また、消滅時効期間が、一〇年であるとしても、別紙六「抗弁一覧表」の「消滅時効」欄記載のとおり、原告番号九番草沢清春、原告番号一〇番佐藤忠男、原告番号一四番佐藤守志、原告番号一五番神田温悦、原告番号一九番氏家正志及び原告番号二三番佐藤京一については、各管理区分の最も重症度のじん肺有所見の診断を受けた日の翌日、又は各管理区分の最も重症度のじん肺法等に基づく行政上の決定を受けた日の翌日から一〇年以上を経過しての提訴であるから、消滅時効が完成している。

4 起算点を各行政上の決定を受けた日の翌日又は各じん肺有所見の診断を受けた日の翌日としたとき(以下、「行政決定別時効進行説」という。)。

(一) じん肺罹患者が、管理区分によって損害額に差が設けられ、かつ、じん肺の病変の特質から管理二、管理三及び管理四の各行政決定に相当する病状に基づく各損害が質的に異なるのであれば、時効の進行についても、各行政上の決定を受けた日の翌日、又はそれに相当する各じん肺有所見の診断を受けた日の翌日からそれぞれの管理区分に相当する損害の消滅時効が進行するというべきである。

(二) そうすると、消滅時効期間が五年ないし一〇年として、別紙六「抗弁一覧表」の「消滅時効」欄記載のとおり、原告番号七番渋谷哲三郎の管理二、原告番号一二番氏家卯市の管理三及び原告番号一八番鈴木政志の管理二に相当する病状に基づく損害については、その管理区分のじん肺法等に基づく行政上の決定を受けた日の翌日から五年ないし一〇年以上を経過しての提訴であり、消滅時効が完成しているから、その分を損害額から控除すべきである。

5 被告らは、本件原告らに対し、平成七年七月二七日の本件口頭弁論期日において、右各時効を援用する旨の意思表示をした。

第五  抗弁に対する認否

いずれも否認する。

第六  抗弁に対する反論

一  過失相殺

1 労働災害・職業病を原因とする損害賠償請求への過失相殺の不適用

過失相殺は、実質的に対等な市民相互間の損害の填補を目的とする過失責任主義に基づく損害賠償制度において、社会における損失の公平妥当な分担を図るという見地から、加害市民と実質的に対等な被害市民に社会的に非難されるべき過失があった場合、それを具体的に考慮して、全面的な損害の填補を制限・修正し、実質的に公平な解決を図る制度である。したがって、実質的に対等な市民相互間の過失責任主義に基づく損害賠償請求でない場合には、外形的に被害者にある程度の不注意(過失)があるように見えても、過失相殺をすべきではない。

使用者の労働者に対する健康保持義務は、個々の労働者の不注意をも予測して、不可抗力以外の労災死傷病事故を防止するための万全の措置を講ずべき義務であり、使用者と労働者は、対等な市民という関係にはない。

したがって、過失相殺が予定する前提条件の存しない労働関係において発生する労働災害の場合には、労働者の不注意を社会的に非難すべき過失と捉えることはできない。

2 故意責任の場合における過失相殺の不適用

過失相殺制度の趣旨は、損害賠償請求訴訟において、損害額の算定に関し、被害者自身に損害の発生ないし拡大に対する落ち度があった場合、損失の公平妥当な分担を図る見地から、全損害額から被害者の過失相当分を減額するというものであるが、加害者に故意責任が認められる場合には、加害行為はより悪質であるから、被害者の過失を問題とすべきではない。

被告らの責任は、故意責任であるから、原告らの個々の不注意を問題として過失相殺を適用する余地はない。

3 原告らの過失の不存在

原告らが、湿式さく岩機を乾式として使用し、散水を実施せず、マスクを着用しなかったこと、また、喫煙をしていたことは事実であるが、それらは、いずれも被告らの教育の不十分さ等に起因するものであるから、原告らの過失ということは出来ない。

二  損益相殺

1 本件原告らの請求は、純粋な精神的損害に対する慰謝料請求である。

労災補償給付は、労災事故により労働者が被った財産上の損害(消極損害)の填補を目的とするものであって、精神上の損害填補の目的を含むものではないから、本件原告ら元従業員が今後受領する給付についてはもちろんのこと、すでに受領した給付についても、これを本件原告らが受けるべき慰謝料額から控除することは許されない。

2 また、被告らの主張するじん肺見舞金は、被告三菱マテリアルと三菱マテリアル労働組合連合会との間で締結された「労災死亡弔慰金・業務上災害特別餞別金・じん肺患者に対する特別餞別金」等の支給に関する労使協定(労働協約)に基づき、原告らが退職の際に支給を受けたじん肺特別餞別金又はじん肺患者に対する特別餞別金のうちの退職時における単純じん肺の管理二あるいは管理三イの者に対する支給金である。そして、右特別餞別金は、労災補償給付の上積みとしての性格、退職する被災労働者の離職後の生活保障としての性格、労災予防機能としての性格という複合的性格を持つものであり、民事上の損害賠償の対象となる損害(慰謝料)とは性格が異なり、右給付と損害(慰謝料)とが、相互補完性を有する関係にはない。したがって、右給付についても、これを原告らが受けるべき慰謝料額から控除することは許されない。

三  消滅時効

1 消滅時効の起算点

健康保持義務違反に基づく、じん肺被害による損害賠償請求権の消滅時効の起算点は、第一次的には死亡時、第二次的には管理区分四の決定時、第三次的には最終の(最重症の)行政上の決定を受けた時である。そして、右のうち、最終の(最重症の)行政上の決定を受けた時とは、最も重い管理区分決定を受けた時を指すのはもちろんのこと、更に、管理二、管理三イ、管理三ロのじん肺管理区分の決定を受けている者が、同じ管理区分のままで新たに合併症による要療養の決定を受けた時も含むと解すべきである。

2 被告ら主張の誤り

(一) 退職日説

健康保持義務は、その違反がある場合には、損害が発生する前でも、危険性を除去するようその履行を請求することができるものであり、また、労働者の生命、身体、健康等の法益に対する侵害の危険が存する限り常に履行されなければならない反面、その危険性がなくなればその履行も不要となるものである。

他方、本件原告らが求める健康保持義務違反に基づく損害賠償請求権は、右義務の違反(債務不履行)と、その結果として(因果関係)、じん肺による非財産的損害の全損害の発生を要件とするものである。

このように、健康保持義務の存続期間と、損害賠償請求権の成立時期は、全く別個のものであり、したがって、損害発生の予防措置の実施を内容とする健康保持義務と、右債務の不履行によって生じた損害の賠償義務との間には、本来的給付義務と填補賠償義務あるいは遅延賠償義務との間にみられるような債務の同一性はない。

(二) 最初の行政上の決定日説

右説は、累積性・進行性被害を特質とするじん肺症について、最初の被害が顕在化した時点で、その後に発生する可能性のある一切の損害の賠償請求権の消滅時効を、いわば先取り的に進行させるものであり、このような起算点の解釈は、時効制度の趣旨に反し、不合理である。

(三) 最重症度の行政上の決定日説

右説は、最重症度の認定に当たって、合併症を含まない点において、不当である。

(四) 行政決定別時効進行説

じん肺被害は、じん肺発症から最終的に進行が止む死亡時に至るまで、多様な進行の程度・速度等をたどる進行性・蓄積性の被害であり、身体破壊・精神破壊・家庭破壊等の被害が関連し合い、複合して日々進行する。したがって、管理四まで進展した者の損害について、ある部分は管理二相当の損害、また、ある部分は管理三相当の損害と単純に区別はできない。

第七  再抗弁――時効援用権の濫用

本件原告らの権利行使を困難にさせたのは、被告らがじん肺教育を実施しない等被告らの責に帰すべき義務懈怠によるものであること、本件原告らの被った被害が悲惨かつ深刻であり、その救済の必要性が極めて高いこと、被告らの義務違反は故意責任であり、じん肺対策費のコスト計算の上での予期された被害についての責任であって、極めて悪質で、他方、被告らは、本件原告らのじん肺罹患の上に莫大な利益を上げていることなどを総合考慮するならば、本件原告らの損害賠償請求に対し、被告らが消滅時効を援用することは、著しく信義に反し、社会通念上是認し得るものではなく、権利濫用に当たる。

第八  再抗弁に対する認否

否認する。

第三章  当裁判所の判断

第一  請求の原因一項は、当事者間に争いがない。

第二  当事者

一  原告ら

1 請求の原因二項1(一)のうち、雇用者、就労鉱山および就労期間については、当事者間に争いがない。

同二項1(一)のうち、職種については、次に認定する事実を除き、当事者間に争いがない。

乙第一一四号証及び弁論の全趣旨によれば、原告番号一番佐藤研の職種は、昭和二七年一〇月から昭和三二年八月までは軌道員であったことが認められる。

乙第八七号証及び弁論の全趣旨によれば、原告番号四番渡辺新造の職種は、昭和三四年四月から昭和三五年三月までは鉛製錬補助員、昭和三五年四月から昭和三六年三月までは鉛製錬調合員であったことが認められる。

弁論の全趣旨によれば、原告番号五番佐藤聖の職種は、昭和二六年四月から昭和四一年二月までは鉄管員であったことが認められる。

弁論の全趣旨によれば、原告番号八番千葉哲郎の職種は、昭和四五年七月から同年一〇月までは運搬員であったことが認められる。

2 請求の原因二項1(二)のうち、雇用者、就労鉱山及び就労期間については、当事者間に争いがない。

同二項1(二)のうち、職種については、次に認定する事実を除き、当事者間に争いがない。

弁論の全趣旨によれば、原告番号一六番氏家三郎の職種は、昭和四六年六月から昭和四七年一一月までは採鉱補員であったことが認められる。

3 請求の原因二項1(三)のうち、雇用者、就労鉱山及び就労期間については、当事者間に争いがない(但し、熊谷組が雇用者である部分を除く。)。

同二項1(三)のうち、職種については、次に認定する事実を除き、当事者間に争いがない(但し、熊谷組が雇用者である部分を除く。)。

弁論の全趣旨によれば、原告番号一九番氏家正志の職種は、昭和四二年一一月から昭和四六年五月まではさく岩員であったことが認められる。

甲B第一八ないし第二一号証の各二及び弁論の全趣旨によれば、原告番号一八ないし二一番の各原告の熊谷組との契約に基づく就労鉱山、就労期間及び職種は、別紙二「原告ら元従業員作業等一覧表その一」記載のとおり認められる。

4 請求の原因二項1(四)のうち、雇用者、就労鉱山及び就労期間については、当事者間に争いがない(但し、熊谷組が雇用者である部分を除く。)。

同二項1(四)のうち、職種については、次に認定する事実を除き、当事者間に争いがない(但し、熊谷組が雇用者である部分を除く。)。

甲B第六三号証、第七七号証及び弁論の全趣旨によれば、原告番号二二番加藤晃の職種は、昭和四三年四月から昭和四七年六月まではさく岩員であったことが認められる。

また、右各証拠によれば、右原告の熊谷組との契約に基づく就労鉱山、就労期間及び職種は、別紙二「原告ら元従業員作業等一覧表その一」記載のとおり認められる。

5 請求の原因二項1(五)は、当事者間に争いがない(但し、熊谷組が雇用者である部分を除く。)。

甲B第六四号証及び弁論の全趣旨によれば、原告番号二三番佐藤京一の熊谷組との契約に基づく就労鉱山、就労期間及び職種は、別紙二「原告ら元従業員作業等一覧表その一」記載のとおり認められる。

6 請求の原因二項1(六)は、当事者間に争いがない。

7 以上をまとめれば、本件原告らの細倉鉱山等における雇用就労状況並びに認定を受けたじん肺管理区分及び合併症は、別紙三「原告ら元従業員作業等一覧表その二」記載のとおりである。

二  被告ら

請求の原因二項2は、当事者間に争いがない。

第三  細倉鉱山の概要等

一  細倉鉱山の自然的特徴

甲A第三一号証、第五四号証、第五八号証及び証人鈴木三八郎の供述によれば、次の事実を認めることができる。

細倉鉱山は、仙台市の北方約八四Km、宮城県栗原郡鴬沢町細倉一級河川迫川の支流の二迫川の上流、奥羽山脈の山麓に位置し、その発見が九世紀中葉にかかる約一一〇〇年の歴史を持つ古くから発達した鉱山であり、日本有数の鉛と亜鉛の生産額を誇っていた。

細倉鉱床付近の地質は、第三期中新世に属する細倉層、葛峰層、鮮新世に属する瀬峰層、北川層からなっており、鉱山の中心部では、細倉層が分布し、北東、南西の外周にかけて葛峰層、更に外周へ行くと瀬峰層、北川層が分布し、丁度鉱山の範囲がドーム状構造をなしている。

鉱床は、断層又は断層運動に関連して生成された裂力を充填した浅熱水性ないし中熱性の鉱脈型鉱床であり、既知鉱脈数は約一六〇を数えている。

金属鉱物は、主として方鉛鉱、閃亜鉛鉱、繊維亜鉛鉱、黄鉄鉱であり、その他小量の白鉛鉱、異極鉱、黄銅鉱、斑銅鉱、四面銅鉱、濃紅銀鉱、磁硫鉄鉱、輝安鉱等が含まれている。

鉱床の稼行域は、東西約六Km、南北約四Kmの範囲であり、鉱脈の走向延長は、平均四〇〇m(最長二二〇〇m)、深度は、平均二〇〇m(最長四五〇m)、傾斜は、一部五〇度程度の鉱脈もあるが、大半が六〇ないし八〇度、脈幅は、0.5ないし一二mである。

細倉鉱山において、昭和二九年頃に、坑道において二〇m間隔で採取された試料に基づき行われた遊離珪酸含有率の調査結果は次のとおりであった。

すなわち、遊離珪酸含有率が三〇%以上であれば、含有率としては高いといえるところ、第一の地点における上磐、鉱脈、下磐の遊離珪酸含有率は、それぞれ、24.16%、37.57%、50.04%、そこから二〇m離れた第二の地点における上磐、鉱脈、下磐の遊離珪酸含有率は、それぞれ、41.09%、58.26%、40.20%、更に、そこから二〇m離れた第三の地点における上磐、鉱脈、下磐の遊離珪酸含有率は、それぞれ、29.72%、45.24%、12.85%であり、総じて、細倉鉱山における遊離珪酸含有率は低くはなかった。

二  細倉鉱山の各坑の概要

甲A第五九号証及び原告佐藤研の供述(第一回)によれば、次の事実を認めることができる。

細倉鉱山の坑区は、大きく、感天、富士、二貫目の各坑区に分かれていた。

通洞坑から下部へは、三〇mごとに水平坑道が設けられ、通洞坑から下を順に、下一番坑、下二番坑、下三番坑等と呼び、最深部は下一四番坑で、坑道は、地下四二〇mの深部まで及んでいた。

他方、通洞坑から上は順に、上一番坑、上二番坑等と呼ばれ、上四番坑まで設けられていた。

これら水平坑道は、感天立坑、昭光立坑、元小屋立坑、富士立坑、追分立坑、二貫目立坑、千貫目立坑、鹿の子立坑の八本の立坑で連結されていた。

右坑道の延長は、六〇〇Kmに達していた。

三  細倉鉱山における坑内作業の態様

1 当事者間に争いのない事実、甲A第一〇九、一一〇号証、乙第四四号証、第五七号証及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

細倉鉱山における坑内作業は、昭和三五年七月までは、さく岩員、支柱員、運搬員、坑内工作員(採鉱課内工員)、職長等の職種毎に分かれて行われていた。

さく岩員は、坑道掘進切羽、採掘切羽で、さく孔及び発破作業を、支柱員は、切羽の支柱作業及び坑道等軟弱部の保坑作業を、運搬員は、切羽における鉱石又はズリの積込み作業、漏斗抜き作業、立坑プラット作業及び採掘切羽の足場作り作業を、坑内工作員は、坑内のパイプ及びレールの延長、撤収、修理作業を、また、職長は、坑内の担当区域における作業の番割りと段取り、巡回時等の作業指示及び指導を行った。

2 昭和三五年七月から昭和四六年五月までの坑内作業も、基本的には、昭和三五年七月までと同様の職種毎に分かれて行われていたが、水平坑道掘進においては、二名一組で、さく孔、発破、運搬等の作業を行うクルー員という職種が設置された。

3 昭和四六年六月以降の坑内作業の態様は、それ以前とは大幅に変更され、新職種が設置されるとともに、従前の職種の統合が図られた。

まず、従前、さく岩員、支柱員、運搬員が別々に行っていた、さく孔、発破、支柱、運搬作業及びこれらに付随する作業という切羽におけるすべての作業を共同で行う採鉱員が新設され、それに伴い、採鉱員の作業を補助する採鉱補員が新設された。

そして、従前の坑内工作員とタガネ運搬員が統合されて、整備員となり、切羽以外のパイプ及びレールの修理、整備の作業を行った。

第四  細倉鉱山における採鉱作業及び製錬作業の概要と粉じんの発生

一  採鉱作業及び製錬作業の概要

当事者間に争いのない事実、甲A第五三号証の一、二、第五八号証、第一五三、一五四号証、第一六九号証及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

細倉鉱山のような金属鉱山における作業工程は、大きく、採鉱作業、製錬作業に分けられる。採鉱作業は、鉛等の鉱石を採掘する作業であり、製錬作業は、採掘された鉛等の鉱石を製錬して、純度の高い鉛等を取り出す作業である。右採鉱作業と製錬作業の間に、有価鉱物を、無価値の脈石・母石等から選別し、品位を向上するため、また、鉱石中に二種あるいは二種以上の有価鉱物が含まれる場合には、それらを別々に、できるだけ純粋な状態に分離する選鉱が行われる。

採鉱作業は、まず、立坑や通洞坑から鉱体に向けて水平に、さく岩された鉱石等を運び出すための水平坑道(立入れ坑道)を掘進し、鉱床に到達すると、鉱体の状態を確かめるための水平坑道(ひ押し坑道)を掘進する。次に、ある程度鉱床が開発されてから、更に、鉱況を確かめ、鉱石やズリの通路、坑井を造り、通気の改善や採掘準備をするために、下方より上方に向けて掘進する掘上がりを行う。掘上がりを行って、坑道が、上段のひ押し坑道に到達すると、採掘準備が完了する。

採掘準備が完了すると、次に、採掘を行うが、採掘法は、大きく、露天採掘と坑内採掘に分かれ、細倉鉱山では、坑内採掘が行われていた。

以上の採鉱作業を通じて、それぞれ、さく岩、運搬、支保、整備、坑内巡視の各作業が行われた。

さく岩とは、さく岩機で、切羽面に火薬を装填するための孔を掘削し、その孔に火薬を装填し、爆発させて岩盤や鉱石を破砕する作業である。

運搬とは、発破によって砕かれたズリ及び鉱石を、片口やローダーを利用して鉱車に積み込み、選鉱場に運び出す作業である。

支保とは、発破を行った切羽等において、落盤の恐れのある場所の岩盤に、落盤が起きないように支柱を入れたり、掘削作業のための足場を築く作業である。

整備とは、掘進作業によって、切羽面が前進していくに従って、鉱車を通すためのレールを延長したり、動力源になる圧縮空気等のパイプを延長する作業である。

坑内巡視とは、作業員の配番をし、また、坑内の各作業現場を巡視して、作業員に対し、作業面、保安面の指示、指導を行う作業である。

他方、製錬作業は、調合焼結工程、溶鉱工程、電解工程に分かれて、各作業が行われていた。

これら各作業のうち、本件原告らの従事していた各作業の概要及びその際の粉じんの発生状況は次のとおりであった。

二  坑道掘進のさく岩作業における粉じんの発生状況

1 水平坑道掘進

水平坑道掘進には、前認定のとおり、立入れ坑道掘進とひ押し坑道掘進があるが、各坑道掘進の作業内容はほぼ同様であった。

(一) さく孔作業

当事者間に争いのない事実、甲A第二九、三〇号証、第四一号証、第四二号証の一、二、第五六号証、第五九号証、第六七号証、第一〇八号証、甲D第一七号証、乙第五一、五二号証、証人鈴木三八郎、同加藤昭夫、原告佐藤研(第一回)、同佐藤京一(第一回)の各供述及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

水平坑道掘進におけるさく岩作業では、まず、切羽面に火薬を装填するための孔をあけるさく孔作業が行われる。

さく孔には、圧縮空気を動力源として、タガネを岩盤に打撃して孔をあけていくさく岩機が用いられたが、昭和三〇年代初め頃までは、ドリフターという機種が使用され、それ以後は、レッグドリルという機種が使用された。

ドリフターとレッグドリルは、いずれも湿式である。湿式とは、さく岩ロッドの中空孔を通して水をビットに送り、孔底の繰粉を水によって排除するものである。

切羽面は、高さ約二m、幅約二mあり、ここに、さく岩機によって、深さ約1.5mの孔を約二〇本程度あけていく。

ドリフターとレッグドリルは、いずれも湿式さく岩機であり、乾式さく岩機と比較して、さく孔時の粉じん発生量が減少することが認められるものの、なお相当数の粉じんが発生していた。

しかも、ドリフターとレッグドリルは、圧縮空気を動力源とし、その排気が右上方を向いていたため、その排気によって、天盤あるいは側壁に付着していた粉じんが舞い上がった。

(二) 発破作業及び浮石点検作業

甲A第二九、三〇号証、第四〇、四一号証、第四二号証の二、三、第七四号証、乙第四一号証、原告佐藤研(第一回)、同佐藤京一(第一回)の各供述及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

(1) 発破作業

さく孔作業が終了すると、さく岩された孔に火薬を装填して岩盤を爆破する発破作業が行われる。

発破作業は、それ自体が岩石の破砕を行うものであるから、瞬間的に莫大な量の粉じんが発生した。

発破作業において、作業終了間際に発破を行い、その後は作業を終了して退坑することを、上がり発破というが、原告らの作業現場においては、常にこの上がり発破が行われていたものではなく、作業の途中で発破をかけ、その後も引き続き坑内で作業を行うことがあった。また、昼食時に発破をかけ、昼食をとってから作業を始める場合にも、その作業開始は、発破後約一時間程度であった。

また、発破をかける際には、退避するが、その距離は、約九〇m程度であった。

右のように、発破の際は、多量の粉じんが発生し、発破の現場から余り距離を置かない場所にいた作業員は、多量の粉じんを吸入するおそれがあり、また、発破後時間を置かず、再び十分粉じんが沈降していない切羽で作業をすることにより、多量の粉じんを吸入するおそれがあった。

(2) 浮石点検作業

発破後に、落下しそうな石を前もってつついて点検する浮石点検という作業が行われるが、それは、割れ目にタガネを突っ込んで、浮石をつついて落とす作業であったことから、その際にも粉じんが発生した。

2 掘上がり掘進

前期1認定の事実、当事者間に争いのない事実、甲A第六七号証、第一〇八号証、乙第四九号証、原告佐藤京一(第一回)の供述及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

掘上がり掘進は、まず、水平坑道の天盤に、上向きに横約4.5m、縦約1.5mの坑道をあけ、そこに、鉱石を落とすための棚、漏斗を取り付けるとともに、更に上方向に掘進していけるように、人道と足場を築き、その後は、横約3.5m、縦約1.5mの坑道を、上向きに掘っていく作業である。

(一) さく孔作業

掘上がり掘進におけるさく岩作業でも、水平坑道掘進の場合と同様に、まず、切羽面に火薬を装填するための孔をあけるさく孔作業が行われる。

掘上がり掘進の場合に使用されるさく岩機は、ストーパーという機種であり、ドリフターやレッグドリルと同様に、圧縮空気を動力源としている湿式のものである。

このストーパーを使用して、切羽面に、深さ約1.2mの孔を、約二〇本程度あけていく。

ストーパーは、湿式さく岩機であったが、前記レッグドリル等について認定したと同様、なお相当数の粉じんが発生していた。

掘上がり掘進においては、掘り上がっていくに従って、足場を上げていかなくてはならず、足場としてズリを利用するが、ストーパーは、圧縮空気を動力源とし、その排気が下方を向いているため、その排気によって、底に溜まっていた粉じんが舞い上がった。

また、足場になる棚は、丸太で支えられるが、その丸太を埋め込むための溝をつける作業を根掘りといい、その根掘りのために、コールピックが使用された。このコールピックは乾式であったため、根掘りの際に、粉じんが発生した。

(二) 発破作業及び浮石点検作業

掘上がり掘進における発破作業及び浮石点検作業での粉じんの発生状況は、水平坑道掘進における場合と同様であった。

3 掘下がり掘進

甲A第五六号証、第一〇八号証、証人加藤昭夫、原告佐藤京一(第一回)の各供述及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

掘下がり掘進は、縦約五m、横約二mの立坑を、下向きに掘り下げていく作業である。

掘下がり掘進作業には、手持ちで小型のジャックハンマーというさく岩機が使用され、それを用いて一ないし1.1m程度下向きにさく孔し、発破を行った。

掘下がり掘進作業の場合には、立坑の水が全部下に降りてきて、下に水が溜まっているため、さく孔の際に、粉じんの発生は極く僅かであった。また、発破終了後には、上から水が滴れていたり、下に水が溜まっているため、粉じんの発生は極く僅かであった。

4 斜坑掘進

弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

斜坑掘進は、各坑区から集中ビンに集められた鉱石を、ベルトコンベアで選鉱場に運搬するために、加背約三m、横2.5mの傾斜した坑道を掘り進む作業である。

この作業の際にも、粉じんが発生していた。

三  採掘のさく岩作業における粉じんの発生状況

1 シュリンケージ採掘法

当事者間に争いのない事実、甲A第二九号証、第四四号証、第五四、五五号証、第五九号証、第一三六号証の一四、乙第四六号証の一、証人鈴木三八郎、同嵯峨洋介、原告佐藤研(第一回)、同佐藤京一(第一回)の各供述及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

(一) シュリンケージ採掘法とは、天盤を補強し、等間隔に多数の鉱石搬出口(鉱石漏斗)を配した下部坑道と、約三〇m上方の上部坑道間で、水平方向に三〇m前後を一ブロックとして下部坑道側から採掘を始め、天盤部分を崩しながら、採掘した鉱石を足場にして掘り進み、足場を作るため狭くなった空間分だけ漏斗から鉱石を搬出する採掘方法である。

(二) 採掘準備作業における粉じんの発生状況

採掘準備作業として、まず、三号欠作業を行う。これは、下部坑道から上部坑道に向けて、天盤をストーパーでさく孔、発破することを三回繰り返す作業である。次に、採掘棚を取り付け、その脇に、鉱石を落とすための坑井と人道を設け、坑井の下部に漏斗を取り付け、採掘準備作業が終了する。

さく孔の際には、前認定のとおり、ストーパーは湿式であったものの、なお相当数の粉じんが発生していた。

また、発破の際にも、多量の粉じんが発生した。

なお、原告らは、特に、口付け(口切り)作業の際は、ストーパーを湿式で使用すると、キャップランプが汚れて、光が暗くなったり、作業員の目に岩粉が入るという状態であったから、ストーパーは湿式として使用できず乾式として使用していたため、多量の粉じんが発生したと主張し、これに沿う原告佐藤研(第一回)及び同佐藤京一(第一回)の各供述があるが、その部分は、証人嵯峨洋介の反対趣旨の供述に照らし、採用することができない。

(三) 採掘作業における粉じんの発生状況

採掘準備作業が終了すると、次に、本棚を足場として、上向きにストーパーでさく孔し、発破をかけて採掘を開始する。

このさく孔及び発破の際に、前記同様多量の粉じんが発生していた。

その後は、発破による破砕鉱を足場として、逐次上部の鉱脈に、さく孔、発破をして、採掘を継続した。

このさく孔及び発破の際にも、継続して多量の粉じんが発生していた。

また、ストーパーは、圧縮空気を動力源とし、その排気が下方を向いているため、その排気によって、底に溜まっていた粉じんが舞い上がった。

そして、シュリンケージ採掘法では、採掘作業に従事する者のさく孔作業に必要な空間を確保するため、常に、天盤と足場鉱石との垂直距離が二mになるように膨張した破砕鉱を鉱石漏斗から引き抜く。そのため作業員は、高さ二m、幅一ないし三m、奥行き三五ないし四五mの空間で作業をしなければならず、粉じんを吸入するおそれが大きかった。

2 充填採掘法

当事者間に争いのない事実、甲A第二九号証、第四四号証、第五三号証の一、第五四号証、第五九号証、第六四、六五号証、第六八号証、第七二号証、第七五号証、乙第四六号証の二ないし四、原告佐藤研(第一回)、同佐藤京一(第一回)の各供述及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

(一) 充填採掘法とは、採掘、充填、採掘、充填という一連の作業を繰り返しつつ、全鉱画を採掘する方法である。充填物には、選鉱の廃滓であるサンドスライム及びセメントモルタルを充填する。

充填採掘法には、上向充填採掘法、上向横押充填採掘法、下向充填採掘法がある。

細倉鉱山においては、藩政時代には、高品位で鉛に富み、しかも母岩、鉱脈ともに堅硬な部分を抜掘式上向階段法によって採掘していたが、その後、対象脈が周辺部に広がるにつれて、低品位ではあるが、母岩及び鉱脈が比較的堅硬な鉱脈を、シュリンケージ採掘法によって採掘を行ってきた。しかし、その後、採掘区域が深部に移行するに従って岩盤条件が悪くなったこと、広幅の切羽が増加したこと、採掘実収率及び品位向上等を目的に、充填採掘法を採用した。充填採掘法としては、昭和三三年からは、感天地区、富士地区において、上向充填採掘法を実施し、岩盤条件が悪化したため、昭和四六年からは、上向横押充填採掘法を実施し、更に岩盤条件が悪化したため、昭和五〇年からは、下向充填採掘法を実施した。すなわち、上向充填採掘法は、シュリンケージ採掘法では採掘できないが、母岩及び鉱脈が比較的硬い鉱画に採用し、上向横押充填採掘法は、母岩、鉱脈ともに軟弱で、上向きにさく孔できない鉱画に採用し、下向充填採掘法は、両盤、鉱脈ともに軟弱な鉱画又は近くに旧坑がある鉱画に採用した。

(二) 上向充填採掘法

(1) 採掘準備作業における粉じんの発生状況

上向充填採掘法における採掘準備作業は、シュリンケージ採掘法と同様であった。

さく孔の際には、ストーパーは湿式であったものの、なお相当数の粉じんが発生した。

また、発破の際には、多量の粉じんが発生した。

三号欠をする場合には、二号欠、三号欠の際に、それぞれ一号欠、二号欠の発破による破砕鉱を足場にして、更にさく孔をすることになる。ストーパーは、圧縮空気を動力源とし、その排気が下方を向いているため、その排気によって、一号欠、二号欠の発破により底に溜まっていた粉じんが舞い上がった。

(2) 採掘作業における粉じんの発生状況

採掘準備作業が終了すると、サンドスライムを、天盤より二mの位置まで初充填する。その後は、一回目のさく孔は、サンドスライムを足場にし、二回目以降のさく孔は、破砕鉱を足場にして、ストーパーにより行われた。すなわち、一回の発破毎にスラッシャー・スクレーパーを用いたスラッシングを行うものではなく、発破は、二回、三回と続けて行われ、その後に、スラッシングにより、破砕鉱が坑井に落とされた。

一回目のさく孔の際は、底の部分が、サンドスライムで濡れた状態のため、底の部分からの粉じんの飛散は見られなかったものの、さく孔自体によって、相当数の粉じんが発生していた。また、二回目以降のさく孔の場合には、さく孔自体による粉じんの発生に加えて、ストーパーの下方排気によって、底に溜まっていた粉じんが舞い上がった。また、発破の際には、多量の粉じんが発生した。

そして、上向充填採掘法では、天盤と足場との垂直距離が二mになるようにサンドスライムを充填しており、幅1.3ないし4m、奥行き二〇ないし二五mの空間で作業をしなければならず、粉じんを吸入するおそれが大きかった。

(三) 上向横押充填採掘法

(1) 採掘準備作業における粉じんの発生状況

上向横押充填採掘法の採掘準備作業は、上向充填採掘法とほぼ同様であったから、粉じんの発生状況も、また同様であった。

(2) 採掘作業における粉じんの発生状況

採掘準備作業が終了すると、下部竜頭を三m残し、中段押を実施する。そして、初充填のときに、セメントモルタルを五〇cm入れて、その上にサンドスライムを天盤まで密充填する。

その後、レッグドリルを使用して、人道より、横向きに採掘を開始する。レッグドリルでさく孔する際には、その上方向の排気が、岩盤に当たり、岩盤に付着していた粉じんが舞い上げられた。また、発破の際には、多量の粉じんが発生した。

そして、上向横押充填採掘法では、天盤と足場との垂直距離が2.5mになるようにサンドスライムを充填しており、幅1.5ないし4m、奥行き二〇ないし四〇mの空間で作業をしなければならず、粉じんを吸入するおそれが大きかった。

(四) 下向充填採掘法

(1) 採掘準備作業における粉じんの発生状況

下向充填採掘法では、採掘準備作業として、まず、下部坑道から上部坑道に掘上がりを実施する。次に、右掘上がり坑道に、坑井と人道を設置し、坑井の下部に漏斗を取り付け、採掘準備作業が終了する。

右掘上がり作業の際には、前記掘上がり掘進の場合と同様に、粉じんの発生が見られた。

(2) 採掘作業における粉じんの発生状況

① 採掘準備作業が終了すると、上部坑道の下を2.5m竜頭として残し、竜頭の約2.7m下の坑井に、さく孔に必要な足場を設け、レッグドリルを用いて横向きに鉱体にさく孔し、孔に火薬を装填して、発破を行う。次に、発破による破砕鉱をスラッシャー・スクレーパーを用いて坑井に落とし、更に、その奥の鉱体に対し、さく孔、発破を繰り返し、二五ないし四〇mの奥行きまで採掘作業を続ける。そして、右作業場所は、高さ約2.7m、幅1.5ないし4mの空間であった。右さく孔、発破の際、また、破砕鉱を坑井に落とす際には、粉じんの発生が見られ、右のような狭い空間での作業であったから、それは、粉じんを吸入するおそれの大きい作業であった。

② 右のようにして上部坑道の下一段目の採掘が完了すると、次に、鉱石を取り除いた採掘跡の空間に、セメントモルタルを五〇cmの厚さに入れて人工天盤を作り、セメントモルタルの上には、サンドスライムを天盤まで密充填する。そして、上部坑道の下二段目の採掘に移行する。

下二段目の採掘作業も、下一段目の採掘作業と同様に、坑井に足場を設けて、横向きにレッグドリルを用いてさく孔し、孔に火薬を装填して、発破を行い、発破によって生じた破砕鉱を除去するという作業である。そして、以後、順次、下部に移行し、下部坑道に至るまで採掘を続ける。

下二段目以降の採掘作業も、下一段目の採掘作業と同様であるから、その粉じんの発生状況もまた同様であった。

四  運搬作業における粉じんの発生状況

当事者間に争いのない事実、甲A第四一号証、第四二号証の四、第四四号証、第五三号証の二、第五九号証、第七〇、七一号証、第七五号証、第一〇八号証、原告佐藤研(第一回)、同佐藤京一(第一回)の各供述及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

1 切羽で採掘された鉱石は、切羽運搬、坑道運搬、立坑運搬、斜坑ベルトコンベア運搬を経て、選鉱場に運ばれる。各運搬の一般的な概要は、次のとおりである。

(一) 切羽運搬

破砕された鉱石は、手積み、ローダーによる積込み、スラッシャー・スクレーパーによる掻込み、鉱石の自然降下(シュリンケージ採掘法の場合)により、鉱車に入れられた。鉱車には、約一tの鉱石が入る規格鉱車、種々の手押し鉱車、一m3グランビー鉱車等が使われた。鉱石は、何回かの中継点を経て、一か所に集められるが、中継には、横あけ、縦あけチップラーや、グランビー鉱車のように走行中自動的に扉の開くものが使用された。

(二) 坑道運搬

主要箇所に集められた鉱石は、機関車で列車編成にして、立坑又は斜坑の拠点に運搬された。機関車は、トロリー、バッテリーなど電気機関車が普通であるが、内燃機関、圧縮空気、ケーブルリール等を使うこともあった。

(三) 立坑運搬

捲上げ設備により、鉱石を捲き上げるものであり、捲上げ方式には、ケージ捲きとスキップ捲きとがあった。ケージ捲きは、ケージに鉱車のまま積み込んで捲き上げるものであり、スキップ捲きは、スキップ中に直接鉱石のみを入れて捲き上げるものである。スキップ捲きの場合は、あらかじめ坑内で、クラッシャーにより、一次破砕を行い、鉱塊を揃え、自動操作で、鉱石の積込み、搬出が行えるようになっていた。

(四) 斜坑ベルトコンベア運搬

ベルトコンベアを設置して、連続的に鉱石を運搬するものである。ベルトコンベア運搬の場合も、ベルトに乗せる前の場所で、鉱石の坑内破砕を行い、粒度を揃える操作が行われた。

2 切羽運搬における粉じんの発生状況

(一) 水平坑道掘進切羽運搬

水平坑道の切羽における破砕鉱は、ローダーによって鉱車に積み込まれた。右ローダーは、圧縮空気を動力源とするものであった。

ローダーによる破砕鉱の積込みの際には、まず、ローダーのスコップの部分での掻込みの時に、右スコップを破砕鉱の中に入れて何度も上下させるため、粉じんが発生した。また、ローダーは、圧縮空気を動力源としているが、その排気は下向きで、それが床面に強く当たるため、ローダーが前後進する時に、それによって、粉じんが舞い上げられた。更に、ローダーに掻き込んだ破砕鉱を、鉱車に積み込む時にも、粉じんが発生した。

ローダーの入らないような場所では、人力で、カッチャによって破砕鉱を掻き集め、片口により鉱車に積み込む作業を行うこともあったが、その際にも、粉じんが発生した。

(二) 採掘切羽運搬

シュリンケージ採掘法による場合には、カッチャを用いて作業足場をならすが、その際に粉じんが発生した。

充填採掘法による場合には、スラッシャーでスクレーパーを動かして破砕鉱を掻き集める。これは、スクレーパーの前後にワイヤーロープを取り付け、スラッシャーを用いてスクレーパーを前方又は後方へ移動して、破砕鉱を掻き集めるものであるが、スクレーパーを前方又は後方へ移動させることにより、スクレーパーと岩石との接触のため、粉じんが発生した。

(三) 漏斗抜き

採掘された鉱石は、漏斗から抜いて鉱車に積み込まれるが、漏斗口から流れ出た鉱石の自然落下による衝撃により、粉じんが舞い上がった。

また、漏斗から自然落下しない場合には、人力により、カッチャを用いて、鉱石を掻き出す作業を行うが、この際にも粉じんが発生した。

更に、漏斗内で、鉱石が詰まって自然落下しない場合には、破砕鉱に発破をかけて落下させるが(これを、小割発破又は張付発破という。)、この発破の後は、時間をあけずに、すぐまた作業を続けるため、発破により発生した粉じんを吸入しながらの作業であった。

(四) 集中ビンへの運搬

鉱車に積み込まれた破砕鉱は、途中何回かの中継点を経て、下四番坑より下部の鉱石は、富士立坑下一〇番坑の集中ビンに、また、下三番坑より上部の鉱石は、富士立坑下三番坑の集中ビンに集められた。

前認定のとおり、この作業には、中継点で、自動的に鉱車の扉が開き、積載している鉱石を中継点の鉱石ビンに投入する横あけ式又は縦あけ式チップラーや自動的に横扉が開くグランビー鉱車が用いられたが、鉱車から鉱石を鉱石ビンに投入する際に、粉じんが発生した。

3 立坑運搬における粉じんの発生状況

富士立坑下一〇番坑の集中ビンに集められた鉱石は、下一一番坑のクラッシャーで細かく破砕されてスキップ立坑捲上げにより下三番坑まで、立坑運搬される。

クラッシャーで細かく破砕するのは、運搬のために鉱塊を揃えるものであるが、鉱石を小さく砕くものであるため、この際、粉じんが発生した。

4 斜坑ベルトコンベア運搬における粉じんの発生状況

斜坑に送られた鉱石は、第一斜坑ベルトコンベア、第二斜坑ベルトコンベアを経由して、選鉱場に送られるが、ベルトコンベアに積み込む際に、粉じんが発生した。

五  支保作業における粉じんの発生状況

当事者間に争いのない事実、甲A第四一号証、第四四号証、第五三号証の二、第五九号証、第六六、六七号証、第七五号証、甲D第一七号証、乙第一五五号証、証人鈴木三八郎、同嵯峨洋介、原告佐藤研(第一回)、同佐藤京一(第一回)の各供述及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

1 発破をかけながら、坑道を掘進し、採掘をしていき、岩盤中に人工的な空洞を造ると、盤圧により、坑道の支柱を圧迫破損させたり、崩落を生じさせたりすることがある。このような、岩盤の崩落等を防止するため、支柱材を用いて、岩盤を補強し、通路を確保する作業が、支保作業である。

支柱の方法には、打込み(岩盤に打ち込んで支える。)、片留め(二本の坑木を組み合わせて支える。)、三つ留め(三本の坑木を組み合わせて支える。)、荷担留め(場所に合わせて支保を担ぐ。)、合掌枠(両手を合わせたように組んで支える。)等の方法がある。

また、掘上がり掘進、シュリンケージ採掘等を行う場合には、漏斗を水平坑道の下部に取り付けたり、足場を築くが、この作業も、支保作業の中に含まれていた。

2 支柱は、主に丸太を使用し、右支柱材の岩盤への固定方法としては、岩盤に孔をうがって行うものと、柱を木造りし組み立てるものがあった。そのうち、孔をうがつ作業を根掘りというが、根掘りに使用される道具は、昭和四〇年頃までは、節頭(金槌の一種)及びタガネであり、それ以降は、コールピックに変わった。その他に、根掘り発破を行うこともあった。また、ブルホーンという牛の角を真似た金具を上盤に差し込んで、それに杭木を載せて根掘りの代わりにすることも行われた。

根掘りの孔は、岩盤の状態によって異なるが、標準的なもので、深さが約三cm、直径が一五ないし二五cmであった。

コールピックは、常に、乾式で使用された。

節頭及びタガネを使用して、孔をうがつ場合には、粉じんが発生し、また、コールピックを使用する場合には、更に多量の粉じんが発生した。

六  整備作業における粉じんの発生状況

当事者間に争いのない事実、甲A第七五号証、乙第一五四号証、第一五六号証、証人嵯峨洋介、原告佐藤研(第一回)の各供述及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

1 坑道の延長に伴い、鉱石等の運搬のために、鉱車を通すレールを延長したり、さく岩機の動力源である圧縮空気を送るためのパイプや水を通すためのパイプを延長、補修する作業が、整備作業である。

2 レールの延長作業は、枕木を岩盤に敷いていく作業であるが、その際に、破砕鉱をカッチャで掻き分けて溝を掘る作業を行い、また、時には、ツルハシやコールピックを使用して、でこぼこの状態の岩盤(踏前)を削る作業を行うこともあった。レールの延長作業は、水平坑道の先端部分、すなわち、切羽面のすぐ近くでの作業であったため、切羽運搬の際に発生する粉じんを吸入しながらの作業であった。

また、パイプの延長作業は、支柱のある場合は、その支柱等にパイプを固定していく方法により、支柱がない場合は、パイプ吊り用の孔をあけて掛金(パイプアンカー)に吊るす方法により行われる。そのうち、パイプ吊り用の孔は、さく岩作業の際に、側盤に一緒にあけておくため、そのほかに改めて、孔をうがつ作業を行うことはなかったが、レッグドリルが導入される以前においては、右作業をさく岩作業とは別に、タガネを使用して行うこともあり、この時にも、粉じんが発生した。

七  職長(坑内巡視員)の作業における粉じんの発生状況

当事者間に争いのない事実、原告佐藤研(第一回)、同佐藤京一(第一回)の各供述及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

1 職長の作業は、坑内の担当区域内における作業の番割りをしたり、各切羽を巡回して、作業や保安面の指示・指導をするものであった。

2 前認定のとおり、坑内各作業場では、粉じんが発生しており、職長(坑内巡視員)の作業が、右のとおり、各切羽を巡回して、作業や保安面の指示・指導をするものであることから、その作業もまた、粉じんを吸入しながらのものであった。

八  製錬作業における粉じんの発生状況

当事者間に争いのない事実、甲A第一二四号証、第一二五号証の一ないし八、第三〇四、三〇五号証、第三一八、三一九号証、甲C第六号証、甲D第二九号証、乙第七七号証の一ないし八、原告渡辺新造(第一回)の供述及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

1 製錬作業の概要

細倉鉱山で行われていた鉛製錬の作業は、大きく、調合焼結工程、溶鉱工程、電解工程の各作業に分けられる。

その概要は、次のとおりである。

(一) 調合焼結工程は、選鉱場から送られてきた鉛精鉱に溶剤を加えてそれを焼き固め、焼塊を作る作業である。この焼塊は、パンコンベアで運ばれ、焼塊ビンに溜められて、溶鉱炉に入れられる。

(二) 溶鉱工程は、右の焼塊を、焼塊ビンからショベルカーですくって、溶鉱炉に入れ、鉄くず、コークス、バッテリー等と調合して燃焼させ、鉛とからみに分離して、更に、不純物を取り除いて粗鉛を作る溶鉱炉における作業である。

(三) 電解工程は、右溶鉱炉作業で作られた粗鉛を、電気分解して、純度の高い鉛を作り出す作業である。

2 溶鉱炉作業場の概要

本件原告らのうち、製錬作業に従事していたのは、原告番号四番渡辺新造のみであるが、右原告は、細倉鉱山閉山まで、約一年間、鉛製錬調合員として、調合焼結作業に従事した期間を除いて、一貫して、溶鉱炉作業に従事していたものである。

右細倉鉱山における溶鉱炉作業の作業場の概要は、次のとおりである。

作業場は、山の斜面を利用して建てられており、上の方が焼結作業場、下の方が溶鉱炉作業場となっており、道を隔てて電解作業場が建っていた。

溶鉱炉作業場は、二階建ての構造になっており、一階部分は、溶鉱炉になっており、二階部分は、高さ約五m、横約八m、縦約二〇mの建屋と、建屋外のスラブという平場になっていた。このスラブは、溶剤、コークス、バッテリー等を置く場所であった。一階は、中央に炉が設置され、その左右に、除滓ケットルと電気炉が設置されており、二階建屋内は、中央に溶鉱炉の入口(装入口)が設置され、その左右に、焼塊ビンと計器室が設置されていた。

3 溶鉱炉作業の概要

調合焼結作業場から、パンコンベアで運ばれてきた焼塊は、焼塊ビンに落とされる。

装入口から、焼塊と溶剤、コークス、バッテリー等を入れ、溶解し、焼塊は、鉛とからみに分離される。

溶鉱炉の下部に、鉛を出す穴と、からみを出す穴があいており、溶解され分離された鉛は、鉛口を通じて除滓ケットルに入り、からみは、樋を通じて電気炉に入る。

除滓ケットルは、直径二m位の鍋状の鋳物製の容器であるが、その中に、亜炭くずを入れて撹拌すると、ドロスが上がってきて、それを、作業員が、穴あきスコップで取り除く。除滓ケットルの脇には、レールが敷いてあり、電気で鋳型を動かし、一枚一tの粗鉛を作る。粗鉛は、フォークリフトで電解工場へ運ばれる。

また、溶鉱炉から出る煙灰は、煙道、ダストチャンバー、ダストコレクターを通って、徐々に希釈されていくが、それら煙道、ダストチャンバー、ダストコレクターの掃除も、溶鉱炉作業の一環として行われた。

4 溶鉱炉作業における粉じんの発生状況

(一) 焼塊ビン部分における粉じんの発生状況

焼塊ビンは、縦約五m、横約四m、奥行き約三mのコンクリート製の入れ物であり、上部は、焼塊が落ちる部分を除いて、鉄板で覆われており、焼塊ビンの前面には、焼塊を入れる際、焼塊が前方に飛び出さないようにするために、約二ないし三mの長さに切った鉄製のレールチェーンが、約一〇本吊るされていた。焼塊は、焼塊ビンが空になってから次のものを投入するというのではなく、ある程度溜まっている上に、少しずつ足し入れていくものであり、常に、焼塊が五mの高さを落下するわけではないが、それでもある程度の高さを落下した。そして、その落下の際に、焼塊と焼塊が衝突することにより、粉じんが発生した。

(二) スラブ部分における粉じんの発生状況

スラブには、溶剤としての石灰石、鉄くず、また、コークスやバッテリーが、仕分けをされて山積みされているほか、ストックの焼塊が山積みされている。

このストックの焼塊は、上の部分が砕けて粉の状態になっており、風で粉じんが舞うことがあった。

(三) 装入口部分における粉じんの発生状況

装入口の大きさは、横約四m、縦約一mであり、そこから、ショベルカーですくった焼塊と溶剤、コークス等を調合して、溶鉱炉に投入する。装入口には、下からの風圧があるため、焼塊を投入する際に、粉じんが発生した。また、ブロアーで送風管に空気を送り込むが、その空気が吹き抜けると、作業効率が落ちるため、装入口から、長いタガネで溶鉱炉の中の焼塊等をつついて動かし、穴を塞いで荷の下がりをよくすることにより、空気の吹抜けをなくすようにしていたが、その際、真っ黒い煙灰まじりのガスが、吹き上がってきた。

(四) 炉前部分における粉じんの発生状況

前認定のとおり、除滓ケットルに亜炭くずを入れて撹拌することにより上がってきたドロスを、作業員が、穴あきスコップで取り除く作業をするが、その際、真っ黒なドロスの粉じんが発生した。

(五) 電気炉部分における粉じんの発生状況

溶鉱炉の除滓ケットルの反対側にからみ樋がついており、そのからみ樋への出口では、ヒュームと呼ばれる白い粉じんが立っていた。

また、右からみ樋部分には、昭和四〇年頃から、移動式の防じんフードが設置されていたが、右からみ樋は、しばしば詰まって、スムーズに流れなくなる場合があったため、その際は、からみ口の中を、鉄の棒でつついて穴を大きくする作業が必要であった。その作業は、防じんフードを移動してしなければならず、粉じんを吸入しながらのものであった。

電気炉は、流れてきたからみに、更に温度を加えて軟らかくするものであり、電気炉で分解されたからみは、銅鈹と呼ばれるものになって出てくるが、その銅鈹は、一方で、多いときに、二、三回砂床に抜かれており、その際にも、ヒュームが発生した。

(六) 煙道等の掃除作業における粉じんの発生状況

(1) 煙道等の掃除作業

溶鉱炉の左右各三か所、縦一か所の計七か所に、煙の出口が設置されており、左右の煙の出口は、それぞれ側煙道に通じており、角煙道に接続されていて、縦の煙の出口は、直接後部角煙道に接続されていた。

煙灰は、これらの煙道を通って、次のダストチャンバーに入る仕組みになっていた。

側煙道及び角煙道は、固まった煙灰を出すために、年に二、三回、その中に入って掃除をしていたが、その際は、多量の粉じんが発生していた。

また、側煙道については、その下についているホッパーに、ショベルカーをあてがって、下から長いはりでつついて煙灰を落とす作業もあり、これは、月に二、三回の頻度で行われたが、その際にも、多量の粉じんが発生した。

(2) ダストチャンバーの掃除作業

ダストチャンバーとは、煙道を通ってきた煙灰に火がつくのを防止するために散水するとともに、そこに吊るされたチェーンに煙灰をぶつけて煙灰を落とすことを目的とした、約五m四方の四角い部屋である。

このダストチャンバーの掃除は、月に二、三回、ショベルカーを使って行われたが、ショベルカーで行けない、奥の部分は、人が中に入って行わなければならず、その際粉じんが発生し、それを吸入しながらの作業であった。

また、ダストチャンバーからダストコレクターに続く煙道内に入って、そこの掃除をする作業も、右同様、月に二、三回行われたが、それは、中に入って下の漏斗から煙灰を抜くという作業であり、やはり、粉じんが発生し、それを吸入しながらの作業であった。

(3) ダストコレクターの掃除作業

ダストコレクターは、約三mの布製の円筒状のバックフィルターを吊るした約五m四方の部屋であり、この部屋に煙灰を通すことによって、ダストチャンバーで落とされた煙灰を更に落とし、残ったガスを硫酸工場へ送るという目的で、設置されているものである。バックフィルターは、一部屋に、七〇ないし九〇本吊るされており、そのような部屋が五部屋あった。

ダストチャンバーで煙灰に散水するため、煙灰は湿気を帯び、ダストコレクター内のバックフィルターが、しばしば目詰まりを起こしたため、その掃除が、月に二、三回行われた。

具体的な掃除作業は、バックフィルターを手で払ったり、足で蹴飛ばしたりして、目詰まりを落とすものであり、また、目詰まりのひどいものについては、バックフィルターを交換することも行われた。更に、バックフィルターが、焼き切れた際には、それを交換するが、一見しただけでは、どこが焼き切れているか分からないため、粉じんをほろって、該当箇所を探すということも行われた。右作業においては、多量の粉じんが発生していた。

5 以上に対し、被告らは、焼塊が固いため、焼塊と焼塊が衝突することにより粉じんが発生することはない、溶鉱炉二階装入口はマイナス圧になっているため、右装入口から粉じん等が上昇することはない、除滓ケットルには蓋が付いており、また、除滓ケットルの上には、粉じんフードが設置されているため、除滓ケットルで発生したガスが、作業場に出ることはない、ドロスは半溶融状態でベトベトしているため、粉じん等が発生することはない等、溶鉱炉作業において、粉じん等が発生していなかったと主張し、これに沿う証人桑原正男の供述があるが、右供述は、現場における作業の従事者ではない、工場長という管理者としての立場からの見解という意味合いが強く、客観的裏付けが十分ではなく、右認定を覆すには足りない。

九  坑内の湧水と粉じんの発生

被告らは、細倉鉱山の作業切羽が、多量の湧水により、湿度九〇ないし九八%の湿潤状態であり、粉じんが発生しにくい坑内環境にあったと主張するので、この点について検討する。

1(一) 甲A第四一号証、第四四号証及び第五四号証によれば、次の事実を認めることができる。

一般に、鉱山の坑内においては、地下水の湧出があり、また、多くの場合、地表水の浸透あるいは流入があって、それをそのまま放置すると、作業の支障となることがある。これを防止するためには、まず、右のような坑内水の源泉を明らかにして、それが坑内に現れることを防ぐことが必要である(防水)。そして、既に坑内に現れた水については、坑外に排出すべきであって、坑口水準以上からの水は、適当な水路によって坑外に流出させ、同水準以下からの水は、適当な場所にバッグ(水溜)を設けてこれに導き(集水)、そこからポンプによって、必要な高さまで押し上げて坑外に排出する(揚水)ことになる。

昭和二一年から昭和三〇年にわたり、六八鉱山においてされたポンプの揚水量調査の結果によれば、ポンプ一台当たりの平均揚水量は、毎分0.66m3であった。なお、ポンプ一台当たりの揚水量は、ポンプの大型化に伴い、逐年増加している。

ところで、細倉鉱山の坑内に設置されたポンプの平均揚水量は、昭和五九年当時、次のとおりであった。すなわち、

昭光立坑下一二番坑ポンプ 毎分0.1m3

昭光立坑下一四番坑ポンプ 毎分0.3m3

富士立坑下三番坑ポンプ 毎分1.2m3

富士立坑下五番坑ポンプ 毎分1.1m3

富士立坑下一〇番坑ポンプ 毎分3.5m3

富士立坑下一二番坑ポンプ 毎分0.1m3

二貫目立坑下三番坑ポンプ 毎分0.5m3

右ポンプ七台の合計揚水量は、毎分6.8m3であり、それを一台当たりに換算すると、平均揚水量は、毎分0.97m3となる。

右のとおり認められる。

(二) 右認定の事実によれば、細倉鉱山の坑内に設置された揚水ポンプ一台当たりの平均揚水量は、他の多数の鉱山と比較しても、特別に多量であるということはできない。

確かに、右認定の事実及び証人加藤昭夫、同嵯峨洋介の各供述によれば、細倉鉱山の坑内は、ある程度湿潤な環境にあったものと認めることができるものの、それは鉱山の坑内が自然的に有している環境の範囲内のものというべきであって、細倉鉱山が、他の鉱山と比較して、特別に多量の坑内水のある鉱山であったということはできない。

また、細倉鉱山の坑内水が、粉じんの発生をすべて抑制してしまうほどのものでなかったことは、前認定のとおりの粉じん発生状況に照らせば、明らかといわなければならない。

2 甲D第三号証の二及び第五号証の三によれば、細倉鉱山の坑内の湿度は、ほぼ被告ら主張のとおり、調査地点により、八五ないし九八%であったことが認められる。

しかしながら、甲A第四二号証の一によれば、湿度九九%のさく岩作業場においても、相当数の粉じんの発生があると認められるから、細倉鉱山の坑内の湿度が右のとおりの高さを示しているとしても、そのことのみにより、粉じんが発生しなくなるということはできない。

第五  じん肺の病像

甲A第一ないし第三号証、第七号証、第二二ないし第二七号証、第一一五ないし第一一八号証、第二二一ないし第二二四号証、第二二七ないし第二三一号証、第二三四ないし第二四一号証、第三一二号証、第三三七ないし第三三九号証、第三六六号証、甲B第一ないし第二三号証(以上、枝番を含む。)、乙第三五号証、証人広瀬俊雄、同馬場快彦の各供述及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

一  じん肺の定義

改正じん肺法二条一項一号は、じん肺を、「粉じんを吸入することによって肺に生じた線維増殖性変化を主体とする疾病をいう。」と定義している。

臨床病理学的には、「じん肺とは各種の粉じんの吸入によって胸部エックス線に異常粒状影、線状影があらわれ、進行に伴って肺機能低下をきたし、肺性心にまで至る、剖検すると粉じん性線維化巣、気管支炎、肺気腫を認め血管変化を伴う肺疾患である。」と定義することができる。

二  じん肺の病理機序

じん肺のうち、本件のような金属鉱山等の採鉱業においてその発生が見られるけい肺の病理は、次のとおりである。

大気中の粉じん粒子は、鼻腔での粗濾過、咽頭反射、咳反射、気道粘膜の粘稠な分泌液による捕捉、同上皮細胞の繊毛運動による口側運搬などのいわゆる気道防衛機構によって肺胞深くへは侵入し難い。

しかし、粒子の大きさが、0.5ないし2.0μm、ことに1.0μm大のものは、肺胞まで侵入しやすいといわれ、肺胞に達した粒子は、肺胞表面を薄く覆った肺胞表面活性物質の液膜に捕らえられ、口側に運ばれるか、リンパ細胞の単核食細胞に捕らえられて肺胞より除去されていく。

また、ガス体の吸入は、肺胞に侵入しても沈着することなく、再び呼出されるはずであるが、反応性ガスの種類や濃度によっては、単独に又は粉じん粒子に吸着されて肺の防衛機構を減弱させ、肺機能や感染症への抵抗の低下、肺組織の破壊や発癌を惹起することも推測させる。

肺胞に吸入された粉じん粒子は、速やかに食細胞に捕らえられ、血管床周辺のリンパ網の中を遊走し、そのあるものは小さな末梢性リンパ濾胞で濾過され、他のものはより大きな肺内リンパ節に達し、そこで濾過される。更にまた、一部の粒子は、肺内リンパ節を通過して、より大きな気管支や気管及び縦隔リンパ節に取り込まれ、ときには鎖骨上窩リンパ節や逆流して腹腔内リンパ節にもけい肺病変を起こしていることがある。粉じん粒子の一部は、あらかじめ貪食されずに肺間質に侵入することも考えられる。

これら粉じん粒子の取り込まれた部位では、異物反応として、リンパ組織の細網細胞は線維芽細胞となり増殖して線維組織化していく。このため、正常のリンパの流れは阻害されて、リンパ管は部分的に拡張し、貪食細胞はそのリンパ管壁を貫いて血管周囲の間隙部へ遊出し、そこでまた毒性異物として反応し、線維芽細胞が形成され、かつ、増殖してリンパ管周囲組織に大量の線維化を惹起する。このような反応が気管支梢周辺に起こると、その部位の流気量は障害され、肺胞の変性、破壊が見られ、巣状気腫や閉塞性気腫近似の変化が起こってくる。

塊状影を形成するほどに進行したものでは、瘢痕化部位の肺容量の減少と他部位での代償性気腫形成が見られ、更に進行すると、換気機能ばかりではなく、肺毛細血管床の破壊を伴うに至り、更に、リンパ組織の線維化病変はリンパの流れの阻害と相まって、肺の血流抵抗の亢進、肺高血圧、肺性心、右心不全へと進行する。

また、リンパの流れの阻害は、その後に侵入する肺の異物の処理機能を阻害することにつながり、感染、特に結核に対する感受性を高めることになる。

患者によっては、肺気腫や肺嚢胞形成の強いもの、線維症の著しいもの、部分的気管支拡張症や慢性気管支炎像すなわち気管支粘膜の部分的肥厚像や萎縮像の混在所見などが共存している像が見られ、肺機能の明らかな障害を惹起し、二次的赤血球増多やチアノーゼ及びばち状指などが見られてくる。

三  じん肺の特徴

1 不可逆性の疾患

肺内に起こっているじん肺病変は、その主体である線維増殖性変化にしても、同時に存在する気道病変や気腫性病変にしても、いずれも可逆性をもたない変化であり、じん肺そのものについては、本質的な治療の方法がなく、したがって専ら予防に依存するほか対策がない疾患である。

2 進行性の疾患

じん肺の病像を構成する主要な病理変化である線維増殖性変化、気道の慢性炎症性変化、気腫性変化は、粉じん作業を継続している限り進行することはもちろん、粉じん作業を離職し、粉じんの吸入を止めた後も、進行を続けるものであり、そういう意味で、じん肺は進行性の疾患である。そして、その進行は、吸入した粉じんの質や量及び吸入期間により影響を受ける。

3 全身性の疾患

じん肺に罹患している場合、肺病変の進展と並行して、粉じんが、血管病変やリンパ節病変を介して血行性(一部リンパ行性)に全身に散布され、その結果、持続する炎症反応が全身に広がるため、じん肺の合併症としては、改正じん肺法施行規則で規定されている五つのほか、肺気腫、肺癌等の悪性腫瘍、肋膜腫瘍(中皮腫)、心不全、膠原病(リウマチを含む。)、腎疾患等が認められ、全身の臓器に害を及ぼすことから、そういう意味で、じん肺は全身性の疾患である。

四  じん肺管理区分

1 じん肺管理区分決定手続

(一) 改正じん肺法によれば、粉じん作業を行う事業者は、その使用する労働者に対し、一定の要件のもとに、就業時、定期、定期外、離職時に、じん肺健康診断を実施することが義務付けられ、更に、じん肺健康診断を実施し、医師によりじん肺の所見があると診断された労働者については、じん肺管理区分の決定の基礎とするため、都道府県労働基準局長に対し、エックス線写真等の提出書、エックス線写真、じん肺健康診断結果証明書を提出することが義務付けられている。

そして、都道府県労働基準局長は、右提出書類を基礎として、地方じん肺診査医の診断又は審査により、じん肺管理区分の決定をする。

都道府県労働基準局長がじん肺管理区分の決定を行ったときは、じん肺管理区分決定通知書により、その旨を事業者に通知し、通知を受けた事業者は、労働者に対し、じん肺管理区分等決定通知書により、その者のじん肺管理区分及び留意すべき事項を通知することが義務付けられている。

(二) 右とは別に、労働者又は労働者であった者は、随時、都道府県労働基準局長に対し、じん肺管理区分決定をすべきことを申請することもできる。

その際には、エックス線写真、じん肺管理区分決定申請書、じん肺健康診断結果証明書を提出しなければならないものとされている。

そして、右同様、都道府県労働基準局長は、右提出書類を基礎として、地方じん肺診査医の診断又は審査により、じん肺管理区分の決定をし、じん肺管理区分の決定を行ったときは、その旨を申請者に通知することとされている。

(三) 本件原告らに対する宮城労働基準局長又は岩手労働基準局長による、別紙二「原告ら元従業員作業等一覧表その一」記載の最終のじん肺管理区分決定は、いずれも本件原告らの随時申請に基づくものである。

2 じん肺管理区分

(一) 改正じん肺法においては、じん肺のエックス線写真像を第一型から第四型までに区分し(同法四条一項)、粉じん作業に従事する労働者及び粉じん作業に従事する労働者であった者を、じん肺健康診断の結果に基づき、管理一から管理二、管理三イ、管理三ロ、管理四までに区分して、同法の規定により、健康管理を行うものとしている(同法四条二項)。

まず、エックス線写真像については、両肺野にじん肺による粒状影又は不整形陰影が少数あり、かつ、大陰影がないと認められるものを第一型、両肺野にじん肺による粒状影又は不整形陰影が多数あり、かつ、大陰影がないと認められるものを第二型、両肺野にじん肺による粒状影又は不整形陰影が極めて多数あり、かつ、大陰影がないと認められるものを第三型、大陰影があると認められるものを第四型とし、じん肺管理区分については、じん肺の所見がないと認められるものを管理一、エックス線写真像が第一型で、じん肺による著しい肺機能の障害がないと認められるものを管理二、エックス線写真像が第二型で、じん肺による著しい肺機能の障害がないと認められるものを管理三イ、エックス線写真像が第三型又は第四型(大陰影の大きさが一側の肺野の三分の一以下のものに限る。)で、じん肺による著しい肺機能の障害がないと認められるものを管理三ロ、エックス線写真像が第四型(大陰影の大きさが一側の肺野の三分の一を超えるものに限る。)と認められるもの、又はエックス線写真像が第一型、第二型、第三型又は第四型(大陰影の大きさが一側の肺野の三分の一以下のものに限る。)で、じん肺による著しい肺機能の障害があると認められるものを管理四としている。

(二) 右のとおり、じん肺の所見があると認められた者(エックス線写真像で、一側肺野の三分の一を超える大陰影があると認められた者を除く。)のじん肺管理区分の決定に当たっては、じん肺による肺機能障害が著しいか否かを判断する必要があり、改正じん肺法三条、同法施行規則五条等により、肺機能検査を行うこととされている。

肺機能検査は、一次検査と二次検査に分けて行われる。一次検査では、スパイロメトリーによる検査とフロー・ボリューム曲線の検査を行い、スパイロメトリーによる検査よりパーセント肺活量(各人の肺活量の肺活量基準値に対する割合)及び一秒率(各人の一秒間における肺活量の努力肺活量に対する割合)を求め、フロー・ボリューム曲線の検査より最大呼出位から努力肺活量の二五%の肺気量における最大呼出速度(V25)を求める。二次検査では、動脈血ガスを測定する検査を行い、動脈血酸素分圧及び動脈血炭酸ガス分圧を測定し、これらの結果から、肺胞気・動脈血酸素分圧較差を求める。二次検査は、①自覚症状、他覚所見等から一次検査の実施が困難と判定された者、②一次検査の結果等から著しい肺機能障害があると判定された者以外の者で、一次検査の結果が、要二次検査の基準に至っており、かつ、胸部臨床検査の呼吸困難の程度が第Ⅲ度以上の者、③右①、②に該当しない者で、一次検査の結果が、要二次検査の基準に至っていないが、胸部臨床検査の呼吸困難の程度が第Ⅲ度以上の者、④右①から③までに該当しないが、エックス線写真像が第三型又は第四型と診断された者について行われる。なお、呼吸困難度は、第Ⅰ度から第Ⅴ度までに分類され、同年齢の健康者と同様に仕事ができ、歩行、登山あるいは階段の昇降も健康者と同様に可能である者が第Ⅰ度、同年齢の健康者と同様に歩くことに支障はないが、坂や階段は同様に昇れない者が第Ⅱ度、平地でも健康者なみに歩くことができないが、自己のペースでなら一Km以上歩ける者が第Ⅲ度、五〇m以上歩くのに一休みしなければ歩けない者が第Ⅳ度、話したり、着物を脱ぐのにも息切れがして、そのため屋外に出られない者が第Ⅴ度とされている。

右の検査の結果、一次検査においては、①パーセン添肺活量が六〇%未満の場合、②一秒率が性別、年齢別に定められた一定の限界値未満の場合、③V25を身長で除した値が性別、年齢別に定められた一定の限界値未満であり、かつ、呼吸困難の程度が第Ⅲ度ないし第Ⅴ度の場合に、著しい肺機能障害があるとされ、二次検査においては、肺胞気・動脈血酸素分圧較差の値が、年齢別に定められた一定の限界値を超える場合には、諸検査の結果と合わせて著しい肺機能障害があるとされる。また、二次検査を要するのは、一次検査の結果等から、著しい肺機能障害があると判定されないもので、①パーセント肺活量が六〇%以上で八〇%未満の場合、②一秒率が性別、年齢別に定められた一定の限界値未満の場合、③V25を身長で除した値が性別、年齢別に定められた一定の限界値未満である場合のいずれかに該当し、かつ、呼吸困難の程度が第Ⅲ度ないし第Ⅴ度で、じん肺による著しい肺機能の障害がある疑いがあると認められる場合とされている。

そして、肺機能検査の結果の判定に当たっては、肺機能検査によって得られた数値を判定のための基準値に機械的に当てはめて判定することなく、エックス線写真像、既往歴及び過去の健康診断の結果、自覚症状及び臨床所見等を含めて総合的に判断する必要があるとされている。

前記じん肺の病理機序で認定したとおり、じん肺が進行するに従い、肺機能障害は、肺胞への空気の流通が妨げられる(換気障害)、肺胞と血液の間で行われる酸素、炭酸ガスの出入りが不十分になる(ガス拡散障害)、血行の障害が生ずる(肺循環障害)という形で次第に出現してくる。

そして、右諸検査の結果として判定される肺機能障害の程度は、じん肺による肺機能の障害がない場合、じん肺による肺機能の障害がある場合及びじん肺による著しい肺機能の障害がある場合の三段階に区分されることになっている。

五  じん肺の症状

1 自覚症状

じん肺の自覚症状は、他の呼吸器病と同様に、咳、痰、息切れなどが主なものであり、感染が加われば、発熱、盗汗、倦怠感、胸痛などの症状も出現する。重症例では、一般に食欲が減退して体重が減少するものが多い。

2 他覚症状

軽症じん肺は、エックス線所見以外に何ら異常が認められないことが多く、重症例では、一見して呼吸困難の状態が分かる。じん肺健康診断結果証明書には、他覚所見として、チアノーゼの有無、ばち状指の有無等を記載することになっているが、チアノーゼとは、動脈血酸素飽和度が低下し、末梢血流中に、還元ヘモグロビンが増加した時に、口唇、爪あるいは皮膚が青色に見えることをいい、ばち状指とは、手指末端の太鼓ばち状肥大であり、心臓疾患や肺疾患に見られ、手指末端の肥大に伴って、爪はスプーン状になってくる。

六  改正じん肺法上の合併症

改正じん肺法施行規則では、じん肺の病変を素地としてそれに外因が加わること等により高頻度に発症する疾病等じん肺と密接な関連を持つ疾病を合併症と規定し、肺結核、結核性胸膜炎、続発性気管支炎、続発性気管支拡張症、続発性気胸の五つの疾病を、じん肺の合併症として定めている。

ここにいう合併症は、管理二又は管理三と決定された者が罹患したものをいう。

管理二又は管理三の者は、それだけでは労基法・労災補償法上、労働災害(職業病)とはされないが、これに法定の合併症が加われば、労基法上、要療養とされ、労災補償給付がされることになる。

本件原告ら(原告番号一二番氏家卯市を除く。)は、合併症として、続発性気管支炎あるいは続発性気管支拡張症を認定されている。

持続性の咳、痰の症状を呈する気道の慢性炎症性変化は、じん肺の基本的病変であり、これは不可逆性の変化であるが、このような病変に、細菌感染等が加わった状態を、改正じん肺法では、続発性気管支炎と呼称している。この状態は一般に可逆性であり、積極的な治療を加える必要がある。

また、じん肺のある者では、じん肺の病変に伴って気管支拡張が起こり、これは不可逆性の変化であるが、このような病変に、細菌感染等が加わった状態を、改正じん肺法では、続発性気管支拡張症と呼称している。この状態は一般に可逆性であり、積極的な治療を加える必要がある。

第六  じん肺及びその防止措置についての知見と法制度

一  じん肺及びその防止措置についての知見

甲A第三〇、三一号証及び第三五ないし第四〇号証によれば、じん肺及びその防止措置についての知見として、次の事実を認めることができる。

1 戦前

(一) 大正一四年、全日本鉱夫総連合会と産業労働調査所が共著で発行した文献「ヨロケ=鉱夫の早死はヨロケ病=」では、ヨロケ(じん肺)の原因が、肺の組織中に入った塵埃であるとし、更に、ヨロケを職業病であると明確に位置付けて、企業と政府に対し、その予防、保護に関する要求をしている。

まず、企業に対する予防対策としては、次の事項を要求している。

ア 栄養不良を防止するための賃金値上げ

イ 通気、温度等の坑内衛生状態の改善

ウ 坑内滞留時間の短縮

エ さく岩機の湿式化

オ 良好なマスクの使用、支給

カ 防じん器具の使用、支給

キ 鉱夫の健康診断の実施及び軽症ヨロケ患者の完全な療養の実施

ク 坑内作業者を一定年限毎に坑外作業に従事させること

また、企業に対する保護に関しては、次の事項を要求している。

ア ヨロケ患者の療養手当、療養日当の完全な支給

イ ヨロケ肺疾者の生活の安定の完全な保護、年金の支給

ウ ヨロケ病死亡者遺族への扶助料の十分な支給

更に、国に対しては、次の事項を要求している。

ア 業務上の疾病(職業病)としての認定及びこれに対する療養、保護の鉱業権者への強制

イ 最高労働時間の決定

ウ 最低賃金の決定

エ 衛生監督官の設置

(二) 日本鉱山協会は、昭和九年度事業として、商工省鉱山局及び内務省社会局の後援を得て、札幌、仙台、東京、大阪、福岡で、鉱山衛生講習会を開催したが、その講演内容が、昭和一〇年、文献「鉱山衛生講習会講演集」として発行された。その中の講演者の一人であった原田彦輔は、次の点を指摘していた。

ア 粉じんの吸入がじん肺の原因であることは周知の事実であり、その予防対策が十分実施されていないこと。

イ 一〇ないし0.1μmの粉じんが、最も肺胞に沈積しやすく、また、作業場に長時間浮遊するため、じん肺罹患の危険が高く、入気坑道以外は、粉じんが著しいものとして防じん具の使用をすること。

ウ 鉱業警察規則は、鉱山事業の経営に随伴して生ずる危険性に対して、従業員の被ることのある災害の発生及び衛生上の欠陥を防止するために必要な施設の最小限度を規定したものであること。

(三) また、右昭和九年の鉱山衛生講習会の講演者の一人であった西島龍は、鉱山の粉じん発生状況に関する調査の結果として、金属鉱山で空気一m3中に二億粒以上の粉じんが発生浮遊している場所が全坑道に及んでいること、また、湿式さく岩機を使用しても、浮遊塵数に著しい減少を見ないと述べた上、粉じん防止、じん肺予防のための対策として、次の点を指摘している。

まず、粉じん防止対策としては、次の点を指摘している。

ア 粉じんの発生防止として、ⅰ水洗式のさく岩機の使用、集じん装置の使用等、ⅱ発破作業前の十分な清掃、散水、上がり発破等

イ 粉じん飛散防止として、ⅰ散水、ⅱ換気等

ウ 粉じん吸入防止として、ⅰマスクの着用、ⅱ最も塵埃度の低い場所への休息所、交替所の設置、ⅲ労働時間の短縮

また、じん肺防止対策としては、次の点を指摘している。

ア 坑内の一般衛生施設の改善

イ 定期の健康診断によるじん肺の早期発見

ウ 職務の転換

エ 健康増進法

(四) 昭和一三年発行の日本鉱山協会「坑内浮遊粉塵調査報告(其の一)」は、その報告において、じん肺防止対策として、次の点を指摘している。

ア 坑内の通気を良好にすること。但し、乾燥している坑道においては、風速を余り大きくすると、かえって岩粉を飛揚させる結果となること。

イ 坑道掘進切羽、採掘切羽において、作業の前後に周壁に散水して岩粉の飛散を防ぐこと。

ウ ストーパー及びジャックハンマーについても、湿式として用いることができるよう改良すること。

エ 発破後はもちろん、運搬作業時等は岩粉の飛揚が著しいから、このような乾燥している坑道では散水すること。

オ 鉱石及び岩石の運搬の際にも散水をすること。

カ さく岩夫はもちろん、運搬夫にもマスクを使用させること。

キ 防じんマスクの濾過体としては、ガーゼ一二枚又は海綿にガーゼ八枚を添付しているもの、あるいはより以上のものが望ましいこと。

ク 根本的に岩粉の発生を防ぐべく、適当な散水設備又は集じん装置を施すとともに、改良に努めること。

ケ 労働者に対し、じん肺及び岩粉に対する知識を有せしめ、岩粉の発生及び吸入防止を徹底させること。

(五) 昭和一三年発行の日本鉱山協会「坑内浮遊粉塵調査報告(其の二)」は、被告三菱マテリアルの前身である三菱鉱業株式会社経営の尾去沢鉱山における坑内浮遊粉じん調査の結果をまとめたものであるが、その報告において、次の点を指摘している。

ア マスク材料として、普通に用いられる手拭等はほとんど効果がないから、脱脂綿、ガーゼ等を十分に使用し、かつ、これを十分濡らして使用すること。

イ 坑内作業者は、職種を問わず、莫大な量の粉じんを吸入し、じん肺の危険に直面していること。

ウ 坑内通気を良好にすることが、根本的粉じん予防対策であるが、通気の完璧は至難であるので、実際問題としては散水によるべく、坑道掘進切羽、採掘切羽、乾燥している主要通行坑道、その他すべてに散水すること。

エ 湿式ストーパー、湿式ジャックハンマーを使用すること。

オ 粉じん問題に関して、作業者の注意を喚起すること。

カ ウォーターラインを完成すること。

2 戦後

(一) 昭和二五年発行の労働省労働基準局労働衛生課「昭和二十三年度珪肺検診報告」は、次のとおり報告している。

ア 坑内の全職種で多くのけい肺罹患者が出ていること、また、職種別のけい肺発生率は、破砕場の選鉱夫(81.0%)、坑内支柱夫(70.8%)、坑内職員(70.0%)、毎日一回以上坑内に入る職員(68.0%)、坑内さく岩夫(65.9%)の順で高く、一番発生率の低い坑内運搬夫でも45.4%の発生率を示していること。

イ 宮城県内の検診対象鉱山である細倉鉱山でエックス線直接撮影を行った一七六名のうち、64.8%がけい肺に罹患していること(但し、検診対象者は、検診時現在、細倉鉱山で働いていた労働者であって、細倉鉱山のみの粉じん作業によってけい肺が発生したというものではない。)。

(二) 昭和三〇年発行の鉱山保安局「けい肺対策の現状および今後の展望」は、けい肺防止対策として、次の点を指摘している。

ア けい肺の予防方法は、けい肺の原因となる有害粉じんを吸入しないことであり、そのためには、ⅰ粉じん発生防止、ⅱ発生粉じんの捕捉抑制、ⅲ労働者の粉じん吸入防止、の三段階の対策を立てる必要があること。

イ 金属鉱山においては、昭和二九年に労働省珪肺対策審議会粉塵恕限度部会が発表した「粉塵の恕限度」を満たす箇所がほとんどないから、どれだけ粉じん防止対策を行っても行いすぎることがないこと。

ウ けい肺防止には、散水が重要であるが、その際には、十分多量の水を使用するか、作業中数次にわたって散水するか、スプレー施設をつけて連続的に散水するかして、散水の効果が十分上がるようにすること。

エ 通気に関しては、全山の機械化は行わないにしても、局部扇風機等による局部通気の改善を早急に行う必要があること。

(三) 昭和三〇年発表の古谷敏夫外三名による論文「鉱山の坑内作業における発生粉じんについて」は、古谷敏夫らが、昭和二九年、数鉱山の坑内作業の発じん状態を調査した結果をまとめたものであるが、古谷敏夫らは、その中で、次のとおり報告している。

ア 細倉鉱山の遊離珪酸分の含有率は、鉱脈で37.57ないし58.26%、上磐で24.16ないし41.09%、下磐で12.85ないし50.04%であること。

イ 湿式さく岩機の効果について、ジャックハンマーによる水平さく孔、ジャックストーパーによる上向さく孔における抑制率は、それぞれ86.2%、84.0%であること。

ウ 防じんマスクの着用については、短時間のさく孔においては、マスクの使用は容易であるが、長時間にわたってマスクを使用することは疲労増大となって着用が困難であること。

エ 発破作業時における発じんは著しく、何らかの処置を採らない限り、そこでの労働者は過度の粉じんを吸引することになること。

オ さく岩及び発破作業以外の作業においても、いずれも湿式さく岩作業に準ずる高濃度の発じんが見られること。

カ 発じんの多い作業は、発破、さく孔、ローダー等による積込みの順で、また、鉱石の積換え場所等においても相当の発じんが見られ、しかも多くの鉱山ではこれらの作業はそれぞれの組合せによって休むことなく操業されているため、そのいずれにおいても、注意を要する浮遊粉じん量が検出されたこと。

キ 一度浮遊した有害な粉じんは、通気系統に従って流れ、排気口に至るまで、抑制されない限りほとんど累加されつつ浮遊しているにもかかわらず、可視限界以上の微細なものであるために注意されないこと、また、この事によって発じん箇所で働く者のみならず、他の箇所にいる者にも影響を及ぼしていること。

(四) 昭和三三年発行の山田穣編「鉱山保安ハンドブック」は、坑内の発じんについて、次のとおり指摘している。

ア さく岩機の湿式化により、発じん数は約二〇ないし一〇%に落ちているが、それによってもなお多くの粉じんが発生していること。

イ 発破作業においては、瞬間的に莫大な量の微細粉じんが生じ、先に行われた作業による発生粉じんが作業場に堆積していると、発破による爆風と振動によって、空気中に再び舞い上がることになり、その危険性が増大すること。

ウ 発破により破砕された鉱石などを坑外へ搬出するための積込み、運搬作業の際には、相当の発じんが見られ、作業の能率化を図る機械化が進められているため、採掘鉱物の移動が激しく、次第に浮遊粉じん量が空気中に増大していること。

また、運搬作業は粉じん発生を助長し、運搬に従事している多数の労働者がじん肺に罹っていること。

エ 空気中に浮遊した微粒粉じんは、長時間を経てもなかなか沈降せず、特に坑内作業において発生した粉じんは、作業中もその付近に長く浮遊し、一旦堆積した粉じんでも再び舞い上がって浮遊しやすいこと。

二  じん肺に関する法制度

甲A第八ないし第一〇号証、第三三号証、第一八三、一八四号証、第一八八号証、第二〇〇号証、第二四二号証、第三〇三号証の一ないし一四及び第三一三号証によれば、じん肺に関する法制度として、次の事実を認めることができる。

1 旧鉱業法(明治三八年法律第四五号)のうち、第四章の、鉱山の保安に関する「鉱業警察」の細目は、鉱業警察規則で定められていたが、昭和四年一二月一六日、商工省令第二一号をもって鉱業警察規則が改正され、初めて、次のとおりのじん肺防止に関する規定が設けられた。

ア 第六三条(坑内粉じんによる障害防止)

「著シク粉塵ヲ飛散スル坑内作業ヲ為ス場合ニ於テハ注水其ノ他粉塵防止ノ施設ヲ為スベシ但シ巳ムヲ得ザル場合ニ於テ適當ナル防塵具ヲ備ヘ鉱夫ヲシテ之ヲ使用セシムルトキハ此ノ限リニ在ラズ」

イ 第六六条一項(坑外粉じんによる障害防止)

「選鉱場、焼鉱場、製錬場其ノ他ノ坑外作業場ニシテ著シク粉塵ヲ発散スル場所ニ於テハ左ノ各号ノ規定ニ依ルベシ

1号 粉塵ノ飛散ヲ防止スル為撒水、粉塵ノ排出、機械又ハ装置ノ密閉其ノ他適當ナル方法ヲ講ズルコト

2号 飲料水ヲ備置キ且粉塵ノ混入ヲ防グ施設ヲ為スコト

3号 洗面所及食事所ヲ設クルコト但シ作業場所内ニ之ヲ設クル場合ニ於テハ粉塵防止ノ施設ヲ為スベシ」

2 昭和五年六月三日付内務省労働部長発労第一五四号通牒「鉱夫珪肺及眼球震盪症ノ扶助ニ関スル件」が出され、これにより、鉱夫のけい肺が、職業病(業務上の疾病)と認められ、けい肺患者に、鉱夫労役扶助規則が適用され、一定の補償がされることになった。

右通牒の内容は、次のとおりである。

ア 鉱夫同一鉱山又ハ同一鉱業権者ノ鉱山ニ引続キ三年以上就業シ珪肺(結核ヲ併セルモノヲ含ム)ニ罹リタル時ハ業務上ノ疾病ト推定スルコト、但シ当該鉱山ニ於ケル業務カ性質上珪肺ヲ発スヘキ原因ナキ時ハ此ノ限リニ在ラサルコト

イ 右ノ場合ニ於ケル珪肺ノ診断ハ一応臨床的症状ニ依リテ決シ、鉱業権者之ヲ否認セムトスルトキハ「レントゲン」診断ニヨリ然ラサルコトヲ証明スルヲ要スルコト

ウ 勤続三年未満ノ発病者ト雖モ当該鉱山ニ於ケル就業カ其ノ原因タルコト明瞭ナルモノニ付テハ同様業務上ノ疾病トスルコト

エ 珪肺カ治療ニヨリ症状安定シ以後治療ヲ加フルモ其ノ効果殆ンド無キトキハ鉱夫労役扶助規則ノ適用ニ於テ治癒シタルモノト解シ其ノ症状ニヨリ同則第二十条第一号乃至四号ノ障害扶助料ヲ支給スルコト

3 昭和二四年八月一二日、通産省令第三三号により、「金属鉱山等保安規則」(以下、「金則」という。)が制定され、粉じんの飛散防止、防じんマスクの備付け、粉じん防止対策についての規定が設けられた。

右昭和二四年施行時の金則のじん肺防止に関する規定は、次のとおりである。

ア 二一九条 衝撃式さく岩機によりせん孔するときは、粉じん防止装置を備えなければならない。ただし、防じんマスクを備えたときは、この限りでない。

イ 二二〇条 坑内作業場において、いちじるしく粉じんを飛散するときは、粉じんの飛散を防止するため、さん水する等適当な措置を講じなければならない。

ウ 二二四条 選鉱場、製錬場その他の坑外作業場で、いちじるしく粉じんを飛散するときは、粉じんの飛散を防止するため、さん水、粉じんの排出、機械または装置の密閉その他の適当な措置を講じなければならない。

金則は、その制定後、数度の改正により、規制内容が順次具体化、強化され、昭和五四年一二月一七日、通産省令第一一四号による改正では、粉じんに関する保安のための教育の実施、休憩設備の設置等、清掃の実施等及び粉じん濃度の測定をも規制内容に取り込み、総合的な粉じん防止対策が規定された。

4 昭和三〇年七月二九日、けい肺に罹った労働者の病勢の悪化の防止を図るとともに、けい肺に罹った労働者に対して療養給付、休業給付等を行うこと等を目的とする「けい肺及び外傷性せき髄障害に関する特別保護法」が制定された。

この法律においては、使用者の常時粉じん作業に従事させる労働者等に対するけい肺健康診断の義務、けい肺罹患者に対する作業転換措置や療養給付、休業給付等について規定された。

5 昭和三五年三月三一日、じん肺に関し、適正な予防及び健康管理等の措置を講ずることを目的とする旧じん肺法が制定された。

この法律においては、使用者の常時粉じん作業に従事させる労働者等に対するじん肺健康診断の義務、じん肺罹患者に対する作業転換措置や療養について規定されたほか、使用者及び労働者に対し、粉じんの発散の抑制、保護具の使用等を義務付け、また、使用者に対し、常時粉じん作業に従事させる労働者等に対するじん肺に関する予防及び健康管理のために必要な教育を義務付けた。

第七  被告らの責任

以下、被告らの責任を論じるに当たっては、専ら細倉鉱山を対象にするものとし、被告らというときは、戦前から昭和三九年一一月までは、被告三菱マテリアルを、昭和三九年一二月から昭和五一年六月までは、被告三菱マテリアル及び被告大手開発を、昭和五一年七月以降は、被告細倉鉱業及び被告大手開発を指すものとする。

一  債務不履行責任

1 安全配慮義務

(一) 使用者が、自己の支配下に使用する労働者に対し、労働者の生命・身体の安全と健康を保持し、その侵害を未然に防止すべき義務を負っていることについては、当事者間に争いがない。

(二) 安全配慮義務の具体的内容

使用者が負うべき安全配慮義務の具体的内容については、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等安全配慮義務が問題となる具体的状況によって判断されなければならない。

本件のように、粉じん作業に従事したことによりじん肺に罹患したとして、安全配慮義務違反に基づき損害賠償を求める事案においては、右安全配慮義務の具体的内容は、本件原告らが従事した粉じん作業の内容及び作業環境、じん肺についての社会的な知見、じん肺の病像等の諸事情が総合考慮されなければならない。

前認定のとおり、本件原告らの作業現場は、いずれも粉じんが多量に発生し、そこで作業を行う者は、その粉じんに曝露するおそれがあったものであること、戦前からの多数の文献や法令の成立により、じん肺が、粉じんを吸入することによって生じる疾病であり、したがってまた、それに対するどのような防止措置を講じることが適切かという社会的な知見が得られていたこと、更に、じん肺の基本的な病像として、不可逆性、進行性、全身性ということが指摘され、じん肺罹患による身体的、精神的被害が甚大であることが認められていたこと、ことに、甲A第三九号証及び弁論の全趣旨によれば、被告三菱マテリアルは、労働省が、昭和二三年から昭和二四年にかけて細倉鉱山を含む全国各地の金属鉱山で実施したけい肺一斉巡回検診において、細倉鉱山を含む被告三菱マテリアル経営の金属鉱山において多数のけい肺罹患者が発見された機会に、けい肺罹患の防止、けい肺疾患の対策の必要性を明確に認識したものと認めることができるから、被告ら使用者は、遅くとも昭和二三年頃からは、次のとおりの具体的安全配慮義務を負っていたというべきである。

(1)  作業環境管理義務

①  粉じん防止対策の前提として、当該作業環境における有害かつ吸入性の粉じんの有無及び濃度の定期的測定を行い、その測定結果に基づいて、じん肺罹患に関する安全性の観点からの当該作業環境の状態の評価を行うこと。

②  当該作業環境の状態が、じん肺罹患に関する安全性の点で問題がある場合には、粉じんの発生・飛散を抑制するために、次の措置を講ずること。

ア  さく孔の際は、湿式さく岩機を使用し、かつ、それが十分機能を発揮し得るように、十分な水を確保するとともに、湿式さく岩機本来の使用法を徹底すべく、労働者を監督、指導すること。

イ  粉じんの発生する作業場では、十分な散水及び噴霧を行うこと。

ウ  発生した粉じんの希釈、除去のため、適切な換気、通風の措置を講ずること。

(2)  作業条件管理義務

有害粉じんが、労働者の体内に侵入することを防止するため、

①  長時間労働しなければ最低賃金を確保できないようなことのないよう賃金水準を確保しつつ、労働時間を短縮して、休憩時間を確保し、粉じんから遮断された場所に休憩所を設けたり、労働者の体力回復・増進のため、休暇を保証し、福利厚生施設を充実させること。

②  有効かつ装着に適したマスク等の保護具やその交換部品を、随時支給すること。

(3)  健康等管理義務

①  労働者自身が、じん肺発生のメカニズム、有害性、危険性を認識し、じん肺の予防措置やじん肺に罹患した場合に適切な処置を自ら主体的に行う意識を高揚させるため、定期的・計画的な安全衛生教育を行うこと。

②  じん肺罹患者を早期に発見し、適切な治療を受けられるようにするため、労働者に対し、エックス線検査を含む健康診断を受けさせることはもとより、じん肺の専門医による特別な検査を労働者にもれなく受けさせること。

③  じん肺に罹患した場合には、その旨を直ちに本人に通知し、それ以上症状を悪化させないため、非粉じん作業場への配置転換をしたり、療養の機会を保証するよう事後策を講ずること。

2 安全配慮義務の不履行

(一) 作業環境管理義務

(1) 粉じんの有無・濃度の定期的測定、当該作業環境の状態の評価

① 坑内作業場について

甲A第四五号証、第二一八号証、甲D第一四、一五号証、第一七号証、証人鈴木三八郎、原告佐藤研(第一回)の各供述及び弁論の全趣旨によれば、被告らにおいては、坑内の粉じん量の測定について、昭和四三年以降に関する限り、総排気量中の粉じん量を把握していくという方針を採っており、坑内の各作業場毎に個別的に粉じん量の測定を行うということはしていなかった事実が認められる。

昭和四三年以前に関しては、粉じん量の測定を行った旨の、甲D第一号証の二、第五号証の三、第七号証の二、第九号証の二、第一一号証の二、第一二号証の二、乙第一三、一四号証及び証人鈴木三八郎の供述があるが、同証人の供述は、抽象的で、測定の態様についての具体性がなく、また、その結果が不明であり、右各書証についても、大部分が、粉じん量の測定を行ったという記載があるにとどまり、その結果が明らかでなく、これら各証拠からは、被告らが粉じん量の測定を行っていたことを認めることはできない。

右のとおり、被告らは、細倉鉱山の閉山に至るまで、粉じん量の測定を行っていなかったり、また、行っていたとしても、それが総排気量中の粉じん量の測定であったことから、各作業場の粉じん量の測定結果を得ておらず、したがって、粉じん量の測定を前提とする当該作業環境の状態の評価はしていなかったものといわなければならない。

被告らは、坑内作業場においては、連続性、基準性をもった、他と比較するに足りる測定値を得ることは著しく困難であり、測定値が信頼に値する測定機器の開発はされなかったとし、粉じん濃度の測定をしても無意味であって、粉じん濃度の測定を実施しなかったとしても、そのことが、安全配慮義務違反とはならない趣旨の主張をする。

しかしながら、右各証拠によれば、昭和二三年には、粉じん取締りの基準として、許容度に関する労働省通牒が出され、昭和二九年以降は、労働省珪肺対策審議会等において、遊離珪酸含有率との関連で粉じんをどの程度まで減らすべきかという粉じん許容度が決定されるとともに、計数法、重量法という粉じん濃度測定法が考案され、各種粉じん濃度測定器が開発・使用されていたこと、そして、粉じん濃度測定に当たっては、種々の誤差要因があって、決して簡単なものとはいえないものの、これらの誤差も、測定者の注意・工夫により、ある程度小さくすることが可能であったことが認められることからすれば、最善のじん肺防止措置を講じるため、できる限りのじん肺防止の資料を得、じん肺防止措置の効果を判定する必要のあった被告らとしては、右当時においても、粉じん濃度の測定をすべき注意義務があったものというべきである。

② 製錬作業場について

証人桑原正男の供述によれば、製錬作業場では、昭和五四年までは、粉じん量の測定は全く行われていなかったことが認められる。

同証人は、昭和五四年以降は、製錬作業場で粉じん量の測定を行っていた旨供述するが、その供述は、抽象的で、その結果が不明であり、これによって、被告らが右時期以降製錬作業場で粉じん量の測定を行っていたことを認めることはできない。

そうすると、被告らが、製錬作業場で、粉じん量の測定を前提とする当該作業環境の状態の評価をしていたということはできない。

(2) 粉じんの発生・飛散の抑制措置

甲A第四四号証、第一〇六、一〇七号証、第一三六号証の一四、甲D第一号証の二、第二号証、第六号証の二、第九号証の二、第一一号証の二、第一四、一五号証、第一七号証、第二六号証、乙第七号証、第一一号証の三、四、第一四号証、第二二号証、第二四号証、第四七号証の四、第四九号証、第五一、五二号証、証人和澤秀保、同鈴木三八郎、同桑原正男、原告佐藤研(第一回)、同佐藤京一(第一回)の各供述及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

① 湿式さく岩機の使用

被告らにおいて、水平さく孔用のさく岩機として、昭和三〇年代初め頃まではドリフターが、それ以降はレッグドリルが使用されていたが、それらは、本件原告らが細倉鉱山で働いていた時期において、いずれも既に湿式化されていた。また、上向きさく孔用のさく岩機としてはストーパーが使用されていたが、それは、昭和二五年頃から湿式化されていた。しかし、根掘り作業を行う際に使用するコールピックは、乾式であった。

右のように、被告らにおいては、本件原告らの大部分が細倉鉱山で働いていた時期に、さく岩機の湿式化を図ってはいたが、湿式さく岩機も、その使用に際しては、給水が十分でなかったり(例えば、昭和三四、五年頃まで、富士地区の「大熊ひ」、「早房ひ」では、水圧の関係で、乾式で使わざるを得なかった。)、湿式として使用することについての指導が徹底していなかったため(例えば、スラッシングを行うための準備作業として、滑車を掛ける孔を、レッグドリルによって繰る作業をするが、その際には、いちいち給水パイプをその場所に持っていくと作業時間がかかるため、乾式として使用していた。)、乾式で使用されることが多く、湿式さく岩機使用の効果を十分発揮できない状況があったが、被告らは、格別その状況を改善しようとはしなかった。

さく岩機が乾式で使用されることが多かったことは、被告三菱マテリアルの昭和四五年発行の「三菱金属ニュース」創立二〇周年記念号の表紙一面にさく岩機であるクローラードリルが乾式で使用されている写真が使用されていることに象徴されていた。

② 散水、噴霧

細倉鉱山の坑内においては、昭和二六、七年頃までに、一部の作業場を除いて、給水パイプが設置され、散水の方法としては、給水パイプのホースの先を指で絞り、水を噴霧状にしたり、また、水の圧力で、注水することが予定されていた。

ところが、実際には、さく孔前、発破前後、ローダーへの積込み、スラッシング、グランビー鉱車への積込み等の各作業において、時折り右の方法により散水することはあったものの、一般的には、散水は行われていなかった。

特に、シュリンケージ採掘法を施行する際に生じた破砕鉱、また、グランビー鉱車に積んだ破砕鉱に散水すると、それらが、漏斗や鉱車に付く、いわゆる居付きが生じ、作業効率が低下するため、散水を行わないことが常態であった。

坑内を巡視し、坑内作業について監督、指示する保安係員(職長等)は、散水について指示することがあった。しかし、被告らの散水についての重要性の意識の欠如から、作業員一般に、散水の必要性についての意識が浸透しておらず、右指示は十分な効果を発揮しなかった。

すなわち、三菱金属鉱業株式会社細倉鉱業所の保安規程には、その五三条、九六条に、散水に関する規定があるが、これについて、保安係員である職長でさえ、被告らから、特に指示されたということはなく、一般の作業従事者においても、特に関心をもっておらず、また、その付録である保安教育規程の五条には、新たに坑内に就業させる鉱山労働者についての教育項目として、さく岩作業の際の岩盤への散水が掲げられていたが、右規程施行後である昭和四九年に作成された三菱金属株式会社細倉鉱業所採鉱課の「作業手順」と題する冊子には、散水についての記載はなく、被告らは、実際には、散水についての教育を行っておらず、職長や一般作業員には、散水の必要性が浸透していなかった。

一般に、ホースによる散水よりも、スプレーによる散水の方が、抑じん効果が大きいとされている。被告らは、一時期、ウォータースプレーの実験的使用を試みたが、格別の効用が認められないとして、結局、ウォータースプレーは使用しなかった。また、被告らは、散水装置を設置したが、これは、主に、居付きを流し落とすためのものであり、粉じんの発生を抑制するためのものではなかった。

なお、製錬作業場においては、昭和四一年頃、焼結・溶鉱工程に、水を送る高圧ポンプを設置し、そこから各作業場に配管で水を送り、掃除の際に粉じんが舞い上がらないようにするための高圧水での散水が行われていた。

③ 換気、通風

Ⅰ 甲D第一号証の二、第三号証の二、第五号証の三、第八号証及び第一七号証によれば、被告らにおける坑内通気の実施状況は、次のとおりであると認められる。

ア 昭和三〇年

ⅰ 通気法の概要 自然通気

ⅱ 扇風機 主要扇風機・局部扇風機 なし

ⅲ 入排気量 不明

イ 昭和三四年

ⅰ 通気法の概要 自然通気

ⅱ 扇風機 主要扇風機 なし

局部扇風機 七機(但し、在庫二機、修理中一機を含む。)

エアーファン 三機

ⅲ 入排気量 富士立坑 八九五m3/分

ウ 昭和三五年

ⅰ 通気法の概要 自然通気

ⅱ 扇風機 主要扇風機 なし

プロペラファン 九機(但し、予備二機を含む。)

エアーファン 二機(但し、予備一機を含む。)

ⅲ 風量・風速

中央パイプ坑道 一八七m3/分、32.9m/分

上四半三2号坑 三二一m3/分、107.0m/分

通洞坑口 一二四六m3/分、132.0m/分

富士立坑 三八七m3/分、51.6m/分

通洞感天向立入 二一四m3/分、21.6m/分

通洞富士向立入 六五六m3/分、93.7m/分

通洞弐メ目向立入 四八六m3/分、96.0m/分

通洞半三南ひ押 16.5m3/分、7.9m/分

上三大熊ひ掘上り 14.7m3/分、5.6m/分

下二明通四八階段 46.1m3/分、8.9m/分

マイナス二〇〇M昭光W3号欠 32.2m3/分、9.4m/分

マイナス一一〇M東光立入 17.4m3/分、6.1m/分

エ 昭和三七年

ⅰ 通気法の概要 自然通気

ⅱ 扇風機 主要扇風機 なし

局部扇風機 一〇機

ⅲ 総風量 五一〇〇m3/分

オ 昭和五三年

ⅰ 通気の概要 自然通気

ⅱ 扇風機 主要扇風機 なし

局部扇風機 二〇機

右のとおり認められる。

Ⅱ 甲A第四三ないし第四五号証及び証人鈴木三八郎、原告佐藤研(第一回)、同佐藤京一(第一回)の各供述によれば、通気の方法には、坑内と坑外の温度差、坑口の高低差(気圧差)等によって生じる空気の流れに基づいて、全坑道にわたる系統的な通気を考える自然通気と、局部扇風機等の機械によって、強制的に空気を送る機械通気があり、被告らにおける通気方法は、自然通気を基本として、自然の通気が通り難い場所について、機械通気をするというものであったことが認められる。

Ⅲ 被告らは、細倉鉱山は、高低差の大きい山間にあり、多数坑口がつけられ、かつ、一日の温度差も大きく、また、坑道が広いため、自然通気のよい鉱山であって、しかも、局地的に、通気の悪い場所についても、機械通気が完備されており、坑内の浮遊粉じんの坑外への排出に功を奏していたと主張する。

しかし、甲D第三号証の二によれば、細倉鉱山の採掘法は、従来シュリンケージ採掘法が多かったため、旧坑からの漏気が多く、一貫した通気系統の確立が困難であって、被告三菱マテリアルは、昭和三四年時点での見通しとして、通気系統の改善を根本的に実施するためには、一貫した方針の下に、相当長年月にわたり、多量の工事を実施する必要があり、通気対策費としても、相当多額の予算措置を必要としていたことが認められるが、この事実に照らせば、細倉鉱山が、機械通気を不要とする程自然通気の良好な鉱山であったとはいい得ない。

また、甲A第四四号証によれば、自然通気では、局地的に通気の悪い場所が残り、しかも、自然通気は、それが、主として、坑内外の温度差によるものであるから、その差の少ない春秋には、通気力が減少して、ときには無風又は逆流状態になるなど通気が極めて不安定であるという欠点を持つことが認められ、このことからすれば、自然通気のみによるのでは、粉じんの希釈の方法としては不十分であったといわなければならない。前認定のとおり、被告らは、昭和三〇年の時点においてもなお、主要扇風機・局部扇風機を一機も設置していなかった状態であったのであるから、仮に、細倉鉱山において、ある程度自然通気が順調に行われていたとしても、鉱山全体の通気対策としては、不十分であったといわざるを得ない。

Ⅳ また、被告らにおいて実施していた機械通気も、次のとおり、不十分なものであった。

すなわち、甲A第四三号証、第四五号証及び第一三八号証の三、八によれば、通気の速度については、有害な粉じんを運び去るに十分でなければならないと同時に、堆積粉じんを浮揚させるほど速くてはならないとされ、0.8m/秒ないし1.2m/秒が適切な速度であり、1.5m/秒を超えないようにしなくてはならないとされていることが認められる。

細倉鉱山における、前認定の昭和三五年の坑内通気の速度を、秒速に換算すると、次のとおりとなる。

中央パイプ坑道0.55m/秒、上四半三2号坑1.78m/秒、通洞坑口2.20m/秒、富士立坑0.86m/秒、通洞感天向立入0.36m/秒、通洞富士向立入1.56m/秒、通洞弐メ目向立入1.60m/秒、通洞半三南ひ押0.13m/秒、上三大熊ひ掘上り0.09m/秒、下二明通四八階段0.15m/秒、マイナス二〇〇M昭光W3号欠0.16m/秒、マイナス一一〇M東光立入0.10m/秒、右のとおりである。

右によれば、前記基準を満たし、通気の速度として適切なのは、富士立坑のみであり、他は、浮遊粉じんを運び去るには、遅すぎるか、あるいは、堆積粉じんを浮揚させるほど速いことになる。このことからすると、昭和三五年の時点では、自然通気に加え、プロペラファンが九機、エアーファンが二機設置されているものの、十分な通気措置が採られていたとはいえない。

(二) 作業条件管理義務

(1) 労働時間の短縮、賃金水準の確保

甲A第一〇〇、一〇一号証、第一〇三号証の一、二、第一四八号証、甲D第一七号証、証人鈴木三八郎、原告佐藤研(第一回)、同佐藤京一(第一回)の各供述及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

① 労働時間の短縮

被告らにおける坑内作業の勤務体制は、二交代制であり、昭和五七年までは、一方が、午前八時から午後三時三〇分、二方が、午後二時三〇分から午後一〇時までという七時間半労働であり、昭和五七年からは、一方が、午前八時から午後四時、二方が、午後二時半から午後一〇時三〇分までという八時間労働であった。

右三〇分の労働時間の延長は、国際競争力を強化するという目的の下に行われたものであり、粉じん曝露の時間を短縮しようというじん肺防止の観点からすると、それに逆行するものであった。

なお、労基法上、坑内労働については、実働時間制ではなく、坑口に入った時刻から坑口を出た時刻までの時間を労働時間とする坑口時間制(拘束時間制)が採られており(労基法三八条二項)、坑口から作業現場までの往復の時間、作業準備の時間、休憩時間等を差し引くと、実働時間は、五、六時間であった。

被告らと、その従業員との間では、三六協定が結ばれて、残業が認められており、本件原告らはこの残業時間の限度まで残業することが多かった。

② 賃金水準の確保

被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業においては、給与支払形態が、請負制である職種と本番制である職種に分かれており、本番制とは、固定給のみであり、請負制とは、請負固定給と請負操作給からなるものである。請負操作給とは、作業区分に応じて単価が決められており、作業量によって給与が決定されるものである。また、被告大手開発においては、すべて請負制が採られていた。

このような請負操作給の給与形態は、作業をすればするほど給与が増えることになり、いきおい労働時間の長時間化を招き、粉じん曝露の時間を短縮してじん肺を防止するという観点からは問題があるところであった。

なお、製錬作業においては、すべて固定給であった。

(2) マスクの支給・管理

甲A第五九号証、第七三号証、第八四、八五号証、第八七、八八号証、第九二ないし第九六号証、第九八号証、第一〇二号証、第一〇七号証、第一二四号証、一二五号証の一ないし八、第一四一、一四二号証、第一四三号証の一、二、第一四四ないし第一四六号証、第二九六号証、第二九八号証、第三〇七号証の一ないし一〇、甲C第九号証、乙第五号証の三一、第六号証の四、第一三、一四号証、第五五号証、第六三号証、証人鈴木三八郎、同桑原正男、原告佐藤研(第一回)、同佐藤京一(第一回)、同渡辺新造(第一回)の各供述及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

① 坑内作業について

Ⅰ 被告らにおいて、防じんマスクが無償貸与されたのは、昭和二五年以降のことである。

被告らは、戦前から、防じんマスクを無償貸与していたと主張するが、細倉鉱山において右事実を認めるに足りる証拠はない。

昭和二五年七月三一日、前記太平鉱業株式会社と太平鉱業労働組合連合会との間で、後記けい肺の暫定措置に関する協定が締結された。

細倉鉱山では、右協定に基づいて、坑内作業者に対し、防じんマスクを無償貸与し、少なくとも、昭和三四年頃までには、大部分の作業者に対し、マスクの貸与を行った。

Ⅱ 貸与されたマスクは、昭和二五年から昭和三七年までは、主に、重松式TS一〇号であり、昭和三七年以降は、サカイ式一一七型、そして、昭和四八年以降は、それに、サカイ式一一七型の改良型であるサカイ式一一七G型が加わり、閉山する昭和六二年まで、主に、サカイ式一一七型とサカイ式一一七G型が貸与されていた。

戦後、防じんマスクの必要性の高まりの中で、昭和二五年に、防じんマスクの国家検定制度が施行され、昭和二八年にJISの制定があり、更に、昭和三〇年に改正JISが制定されて、昭和三〇年、改正JISを採用した新しい国家検定規則が制定された。昭和二五年の旧規格が、第一種マスクの粉じん捕集効率を九〇%以上、第二種を六〇%以上とするだけの簡単なものであったのに対し、昭和三〇年の改正規格においては、マスクを、高濃度粉じん用マスクと低濃度粉じん用マスクとに分け、それを更に、一種、二種、三種、四種に分け、それぞれ粉じん捕集効率と吸気抵抗を決めた。高濃度粉じん用、低濃度粉じん用ともに、右一種は、粉じん捕集効率が九五%以上、二種は、粉じん捕集効率が九〇%以上、三種は、粉じん捕集効率が七五%以上、四種は、粉じん捕集効率が六〇%以上のものであった。

重松式TS一〇号は、昭和三〇年一月二八日、国家検定に合格したものであり、その性能は、粉じん捕集効率91.9%、吸気抵抗11.7mm水柱、重量二〇四g(高濃度二種)であった。

サカイ式一一七型は、昭和三七年九月、国家検定に合格したものであって、その性能は、粉じん捕集効率86.6%、吸気抵抗4.2mm水柱、重量五二gであり、サカイ式一一七G型は、昭和四八年九月一四日、国家検定に合格したものであって、その性能は、粉じん捕集効率97.0%、吸気抵抗3.4mm水柱、重量六三gであった。

Ⅲ 重松式TS一〇号は、前認定のとおり、昭和三〇年に国家検定に合格したもので、当時の規格では、高濃度二種に該当するマスクであった。

重松式TS一〇号と同時期に国家検定に合格したサカイ式二号B型は、高濃度一種のものであった。しかし、被告らは、昭和三〇年から昭和三七年までの間、重松式TS一〇号のほか、サカイ式二号B型のマスクの貸与をしなかった。

昭和三七年から貸与されたサカイ式一一七型は、鉱山における作業用として開発されたものではなく、万能普及型として、一般作業向けに開発されたものであり、鉱山の坑内作業において発生する粉じんの吸入を防止するものとしては不十分であった。

更に、防じんマスクの国家検定の規格について、数度の改定がされ、昭和五八年一二月二八日労働省告示第八四号により、防じんマスクの規格は、それまでと一変し、粉じん捕集効率が、九五%以上であることが必要とされ、九五%未満のものは検定不合格とされることとなった。このような改定にもかかわらず、被告らは、昭和六二年の閉山までの間、サカイ式一一七型の貸与を継続した。

なお、昭和五九年八月に検定に合格したサカイ式一〇二一R型は、その性能が、粉じん捕集効率99.9%、吸気抵抗3.1mm水柱、重量168.8gという優れたものであったが、昭和六〇年頃から一部に貸与されたにすぎなかった。

Ⅳ 右のとおり防じんマスクは貸与されていたが、後記(三)(1)のとおり、被告らの、じん肺防止のための防じんマスク着用の必要性についての教育が十分でなかったこともあって、本件原告らは、さく岩、発破、ローディング等大量の粉じんの発生する作業においては、マスクを着用していたものの、それ以外の作業については、マスクを外して作業するのが常態であり、また、ズリの下積み等力のいる作業の場合にも、マスクをしていると息苦しくなるため、マスクを外して作業をするのが常態であった。

Ⅴ 被告三菱マテリアルの保安規程では、その坑内保安の章の八五条の四で、防じんマスクについて、「鉱務課長または坑長は保管担当者を定め、毎日所定の容器に保管せしめるとともに点検整備に当らせる。マスクの使用はその種類毎に所定の方法で行い、特に使用後は水洗を十分にして所定の容器に納めておくこと。もし、不良個所が生じたときは担当者に申出なければならない。」と定められていた。

しかし、実際には、右の保管担当者や点検整備の担当者は決められておらず、マスクの保管や点検整備は、作業員個々人に任せきりであり、また、マスクを収納するような容器は、備え付けられておらず、ただ単にマスクを掛けておくだけの棚があるのみであり、更に、マスクの手入れについても、時々水洗いするだけで、通常は、使用後、ただ乾燥させるにすぎなかった。

このように、マスクの保管、点検整備は、被告らの十分な指導・管理が行き届かなかったため、不十分であった。乙第一六号証、第一八号証及び第二〇ないし第二二号証によれば、各課でマスクの点検整備が実施されたことが認められるが、これは、いずれも、労働衛生週間において、単発的に実施されたもので、これにより、日常的にマスクの点検整備が実施されていたと認めることはできない。

② 製錬作業について

Ⅰ 製錬作業において、被告らにより無償貸与された防じんマスクは、昭和三七年には、サカイ式一一七型、そして、昭和四一年以降は、サカイ式一〇〇七型であり、その後、昭和五九年から、閉山する昭和六二年まで、漸次、サカイ式一〇二一R型へと移行していった。

サカイ式一一七型の性能は、前認定のとおりであり、サカイ式一〇〇七型は、昭和三七年一二月、国家検定に合格したものであり、その性能は、粉じん捕集効率99.0%、吸気抵抗2.2mm水柱、重量一六三gであり、サカイ式一〇二一R型の性能は、前認定のとおりであった。

Ⅱ サカイ式一一七型は、前認定のとおり、鉱山における作業用として開発されたものではなく、万能普及型として、一般作業向けに開発されたものであり、鉱山の作業において発生する粉じんの吸入を防止するものとしては不十分であった。

また、前認定のとおり、昭和二五年に、防じんマスクの国家検定制度が施行され、それ以降、国家検定に合格した防じんマスクの使用が義務付けられてきたが、昭和三七年に改定された規格では、防じんマスクが、粉じん捕集効率の点のみについていえば、特級(粉じん捕集効率九九%以上)、一級(粉じん捕集効率九五%以上)、二級(粉じん捕集効率八〇%以上)の三種に分類された。

右国家検定に合格したサカイ式一一七型は、マスクの等級が二級(粉じん捕集効率八〇%以上九五%未満のもの)のものであった。

昭和三七年の右規格改定に伴い、同年七月二四日付労働基準局長通達基発第七八一号「等級別防じんマスクの使用区分」が発せられ、それによれば、鉛、亜鉛等中毒を起こすおそれのある粉じん(ヒュームを含む。)を発散する場所における作業では、等級が特級(粉じん捕集効率九九%以上、吸気抵抗六超一〇mm水柱以下、重量一六〇超二〇〇g以下のもの)の防じんマスクを使用すべきとされた。製錬作業は、右の作業に該当するものであるから、被告らは、昭和三七年以降は、特級の防じんマスクを貸与すべきところ、昭和四一年まで、二級のサカイ式一一七型を貸与していたにすぎなかった。

更に、被告らは、昭和四一年に、サカイ式一〇〇七型を貸与した後、昭和五九年に、サカイ式一〇二一R型を貸与するまでの間、一貫して、サカイ式一〇七型を貸与し続けてきたのであるが、その間、昭和四一年一月二五日には、粉じん捕集効率99.6%のサカイ式一〇二一R型が、昭和四八年二月一四日には、粉じん捕集効率99.9%のサカイ式一〇二一S型が、いずれも国家検定に合格し、より粉じん捕集効率の高い防じんマスクが利用可能になった。

しかし、被告らは、約二〇年にわたり、従来のサカイ式一〇〇七型防じんマスクの貸与を続けた。

加えて、被告らが、昭和五九年から昭和六二年に閉山するまでの間、漸次、マスクをサカイ式一〇〇七型からサカイ式一〇二一R型へと代えていったことは前認定のとおりであるが、その間の昭和六〇年には、サカイ式一〇〇七型が、検定合格品から除外されたにもかかわらず、同年以降も、製造年月日により例外的に使用を許されたサカイ式一〇〇七型の防じんマスクを貸与したことがあった。

Ⅲ 原告番号四番渡辺新造は、溶鉱炉作業において、常時マスクを着用していたものの、同作業は、高熱の中での作業であったから、汗のためマスクの紐が延び、マスクの脇から粉じんを吸い込む状態であった。

Ⅳ 防じんマスクの管理状況については、保安規程における条項が二六九条の四に基づくものであるほかは、坑内作業について認定したところとほぼ同様であった。

(三) 健康等管理義務

(1) じん肺についての安全衛生教育

甲A第七九号証、第九九号証、第一〇七号証、第一三六号証の一、三、五、六、八、九、一二、一五ないし二〇、第一三八号証の四ないし六、第一四〇号証、第一四七号証、甲C第九号証、第一一、一二号証、乙第五号証の一、三、六、七、九、一一、一三、二〇、二三、二四、二七、第六号証の三、第一〇号証、第一一号証の五、第一五ないし第二二号証、第二四、二五号証、第三七ないし第四一号証、第五五号証、第五九、六〇号証、証人鈴木三八郎、同桑原正男、原告佐藤研(第一回)、同佐藤京一(第一回)、同渡辺新造(第一回)の各供述及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

① 被告らにおける安全衛生教育の体系は、保安管理者及び保安監督員が副保安管理者に対し教育をし、副保安管理者が保安係員に対し教育をし、一般の作業員に対しては、保安係員が教育をするというものであった。

被告らの教育は、直接一般の鉱員に対するものよりも、保安係員に対するものの方に重点があった。

しかし、被告らにおいては、保安管理者及び保安監督員が、副保安管理者に対し、じん肺の病理機序や症状、じん肺の予防や粉じん対策、じん肺罹患後の医療や補償制度、じん肺に関する法制度等というじん肺教育を必ずしも十分に行っておらず、したがって、そのような教育を十分に受けていない副保安管理者の保安係員に対する教育も、また同様、必ずしも十分ではなく、結局、保安係員による一般の鉱員に対する教育も、必ずしも十分でなかった。

② 毎年七月には、保安週間が、また一〇月には、衛生週間が全国的に設けられ、鉱山労働者に対する保安、衛生に関する啓蒙が図られた。しかし、被告らにおいては、保安週間にあっては、作業過程における事故等の災害の防止に関する啓蒙が主であって、じん肺に関する教育ということはほとんどなかった。また、衛生週間にあっては、マスクの着用を励行する等のじん肺防止に関する啓蒙、教育が行われたが、それも一週間にすぎなかったため、十分な教育効果を上げ得るものではなかった。

③ 被告らにおいては、職長である保安係員より上の管理者である課長代理が、番割りの前に五分間の教育を行う、いわゆる五分間教育が行われており、その中では、マスクの着用についての注意もされたが、そこでの中心は、作業過程における事故等災害の防止に関するものであって、じん肺防止については、重視されていなかった。

④ 被告らは、講師を招いてじん肺防止についての講習会を開いたり、また、広報に、じん肺防止についての記事を載せるなどして、じん肺に関する教育を行ったが、その講習会への参加者は、鉱員全員ではなかったし、また、広報は鉱員全員が必ず目を通すという性質のものではなかったため、それらによる教育効果は十全のものではなかった。

(2) 定期健康診断

甲B第二五号証、乙第五号証の二〇、二三、二四、証人鈴木三八郎、原告佐藤研(第一回)、同佐藤京一(第一回)、同渡辺新造(第一回)の各供述及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

① じん肺健康診断

被告らにおいては、昭和三〇年に、けい肺等特別保護法が制定され、直接撮影による胸部全域のエックス線写真による検査、胸部に関する臨床検査及び粉じん作業についての職歴の調査によって行うけい肺についての健康診断(二条三号)であるけい肺健康診断が義務付けられた後に、同法に定められた、常時粉じん作業に従事させる労働者に対する三年以内に一回等の右けい肺健康診断が実施された。

また、けい肺等特別保護法制定後、昭和三五年には、旧じん肺法が制定され、昭和五二年には、それが改正され、それぞれ、常時粉じん作業に従事させる労働者に対する三年以内に一回等のじん肺健康診断が義務付けられたが、被告らは、同法の定めに従って、じん肺健康診断を実施した。

右のとおり、被告らは、定期的なじん肺健康診断を実施していたが、それは年二回実施される一般定期健康診断と同じ時期に実施されたため、健康診断受診者には、それが特別なじん肺健康診断であるという認識が乏しかった。

② 診断結果の通知

被告らは、じん肺健康診断の後、労働基準局長からじん肺管理区分の決定があったときは、管理区部の別、合併症、健康管理上留意すべき事項を記載した文書を、各人に通知していたが、その通知に記載されている健康管理上留意すべき事項は、管理二の者については、「粉じんにさらされる程度を少なくすることが必要です。」、管理三イの者については、「粉じんにさらされる程度を少なくすることが必要です。場合によっては、粉じん作業から作業転換することが望まれます。」、管理三ロの者については、「粉じん作業から作業転換することが望まれます。」、管理四の者については、「療養が必要です。」という極めて簡単なものであって、それ以上に、医師からの個別の説明等、じん肺罹患者に必要な知識の提供は何らされなかった。

(3) 配置転換等

甲B第一号証、第三、四号証、第六、第九ないし第一二号証、第一八号証、第二〇号証、第二二、二三号証の各二、第二七号証、第五三号証、第五五号証、第五九、六〇号証、第六三号証、第六六、六七号証、第六九、七〇号証、第八九号証の一、乙第三八ないし第四一号証、原告佐藤研(第一回)、同佐藤京一(第一回)、同渡辺新造(第一回)の各供述及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

① 昭和三五年制定の旧じん肺法二一条は、その一項で、「都道府県労働基準局長は、健康管理の区分が管理三である労働者が現に常時粉じん作業に従事しているときは、使用者に対して、その者を粉じん作業以外の作業に常時従事させるべきことを勧告することができる。」と規定し、二項で、「使用者は、前項の勧告を受けたときは、当該労働者を粉じん作業以外の作業に常時従事させることとするように努めなければならない。」と規定した。

また、昭和五二年の改正により、右規定の一項は、「都道府県労働基準局長は、健康管理の区分が管理三イである労働者が現に常時粉じん作業に従事しているときは、事業者に対して、その者を粉じん作業以外の作業に常時従事させるべきことを勧奬することができる。」と改められ、二項は、「事業者は、前項の規定による勧奬を受けたとき、又はじん肺管理区分が管理三ロである労働者が現に常時粉じん作業に従事しているときは、当該労働者を粉じん作業以外の作業に常時従事させることとするように努めなければならない。」と改められた。更に、右改正に加えて、次の規定が加えられた。すなわち、二〇条の二には、「事業者は、じん肺健康診断の結果、労働者の健康を保持するため必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業上適切な措置を講ずるように努めるとともに、適切な健康指導を受けることができるための配慮をするように努めなければならない。」と規定され、二〇条の三には、「事業者は、じん肺管理区分が管理二又は管理三イである労働者について、粉じんにさらされる程度を低減させるため、就業場所の変更、粉じん作業に従事する作業時間の短縮その他の適切な措置を講ずるように努めなければならない。」と規定された。

右のとおり、旧じん肺法上は、改正じん肺法二〇条の二、三のような規定はなかったが、じん肺についての知見、じん肺の特質を考慮すると、その当時にあっても、被告らは、労働者の生命・身体の安全と健康を考慮して、労働基準局長の勧告がなくとも、自ら積極的に、右規定と同様の配慮をし、措置を講ずる義務があったものというべきである。

② 本件原告ら(被告らを退職した後に、管理二以上の決定を受けた者を除く。)に関する被告らの右義務の履行状況は、次のとおりである。

ア 原告番号一番佐藤研、原告番号三番菅原勝吉、原告番号四番渡辺新造、原告番号六番吉田清、原告番号七番渋谷哲三郎、原告番号九番草沢清春、原告番号一〇番佐藤忠男、原告番号一一番佐々木松一、原告番号一二番氏家卯市、原告番号一五番神田温悦、原告番号一八番鈴木政志、原告番号二〇番尾崎信及び原告番号二二番加藤晃は、いずれも被告三菱マテリアル又は被告細倉鉱業在職中、管理二又は管理三(三イ)の決定を受けたが、被告三菱マテリアル又は被告細倉鉱業は、右決定後、右原告らに対し、就業場所の変更や粉じん作業に従事する作業時間の短縮その他の適切な措置を講じなかった。

イ 原告番号二三番佐藤京一は、昭和五四年一月に、管理三イの決定を受け、昭和五七年六月に、管理三ロの決定を受けたが、被告大手開発は、右原告に対し、昭和五八年七月、坑内員から職長へ配置転換した。しかし、右原告は、坑内巡視の際に、坑内作業員とともに、浮石点検、除去の作業を行っており、改正じん肺法二一条二項にいう粉じん作業以外の作業に常時従事させることにはならなかった。

(四) 三菱マテリアル労働組合連合会のじん肺対策への取組み

乙第一九〇、一九一号証、第一九六号証、第二〇三号証及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

被告三菱マテリアルの組織変更前の会社である太平鉱業株式会社と、その労働組合である太平鉱業労働組合連合会は、昭和二五年七月三一日、けい肺の暫定措置に関し、要旨次のとおりの協定を締結した。

ア 太平鉱業株式会社は、珪肺患者の措置に関し、労働基準法、労働者災害補償保険法、珪肺措置要綱等関係法令・通牒を遵守し、罹病者及び珪肺発生に関連ある現場就業者に対する保護につき、誠意をもって最善の努力をする。

イ 太平鉱業株式会社は、鉱員を新たに珪肺発生のおそれのある職種に従事させるときには、労働基準法五二条の趣旨に従い、厳重な身体検査を行った上、適正に配置するよう努めるとともに、定時及び転退職時においては、必ず身体検査を励行する。

ウ 太平鉱業株式会社は、別に計画するところに従い、作業場の環境を速やかに整備し、爆破運搬その他作業時刻の制限按配を適正にするため、最善の努力をする。

エ マスク及びその部品は、無償支給とし、その支給方法その他細目は、双方協議の上、別に定める。

オ 太平鉱業労働組合連合会は、珪肺発生のおそれのある職種に従事する鉱員の生活改善及び個人衛生の向上につき、積極的に協力する。

カ 太平鉱業株式会社は、珪肺症者に対する休業補償費として、労働者災害補償保険法による給付と合わせて、休業一日につき、本人平均賃金の百分の百を支給する。

キ 太平鉱業株式会社は、別に計算するところに従い、療養を要する珪肺症者に対し、労働者災害補償保険法による療養の給付を受け得るよう療養施設の整備、当局との折衝等に最善の努力をする。

ク 太平鉱業株式会社は、珪肺の特殊性に鑑み、珪肺のため本人の希望により、医師の認定を経て、坑内より坑外へ職場転換した者に対しては、珪肺に関する特別法施行まで、転換時前職の平均賃金三か月分を一時金として支給する。

ケ 珪肺症者が療養のため休業中定年に到達したときは、労働基準法に定める療養打切りに至る日まで、定年制の適用を停止し、かつ定年を超え打切りに至るまでの期間は、これを勤続年数に通算する。

コ 労働基準法施行前発生の珪肺症者に対する弔慰金は、その最高限度額を、一五万円まで引き上げるものとする。

サ 太平鉱業株式会社は、医療施設不備な事業現場における医療施設の整備、医師の雇用等につき、最善の努力をする。

シ 労働者災害補償保険法による療養補償費及び休業補償費の支給が、手続その他の理由により遅延するおそれのある場合、太平鉱業株式会社は、それぞれの実情に応じ、代払いその他の方法により、珪肺症者の療養及び生活に不安のないよう努力する。

ス 各場所における珪肺総合判定、配置転換その他、珪肺措置に関する必要な事項については、それぞれ衛生委員会においてこれを措置するものとする。

以上は、太平鉱業株式会社と太平鉱業労働組合連合会との間で締結された、最初の協定であるが、その後右会社が組織変更され、被告三菱マテリアルになる経過の中においても、被告三菱マテリアルと三菱マテリアル労働組合連合会との間では、けい肺、じん肺に関する協定を締結し、被告らは、労働組合との協議の上、それら対策を講じてきた。

(五) まとめ

以上、認定・判断したところを総合すれば、被告らは、昭和二三年頃以降、本件原告らが細倉鉱山に勤務していたそれぞれの時期において、じん肺防止措置を講ずべき必要性を認識し、一応のじん肺防止措置を講じてきたとはいえるものの、その現実的な措置は、粉じん職場に勤務する本件原告らに対するものとしては不十分なものであって、本件原告らに対する安全配慮義務を十分に尽くしたとはいい難いといわなければならない。

すなわち、被告らには、本件原告らに対する安全配慮義務の不履行があったものといわなければならない。

なお、本件原告らは、被告らの右債務不履行は、被告らの故意によるものである旨主張する。しかしながら、被告らにおいて、本件原告らがじん肺に罹患することを容認するものでなかったことは、右に認定した被告らの講じたじん肺防止措置等に照らし明らかであって、本件原告らの右主張は採用するところではない。

他方、被告らは、じん肺法等じん肺関係の法規は、常時最高水準に到達していると評価されているから、その規定を遵守している限り、当然に違法性が阻却され、したがって、債務不履行責任を負わない旨主張するが、じん肺法、鉱山保安法等の行政法令の定める労働者の安全確保に関する使用者の義務は、使用者が労働者に対する関係で当然に負担すべき安全配慮義務のうち、労働災害の発生を防止する見地から、特に重要な部分で、かつ、最低限度の基準を、公権力をもって強制するために明文化したものというべきであるから、右行政法令の定める基準を遵守したからといって、信義則上認められる安全配慮義務を尽くしたことにはならないといわなければならない。

また、被告らは、被告らがじん肺防止措置を講じるに当たって、その都度、労働組合の承認を得てきたことをもって、被告らに右安全配慮義務の不履行がなかったことの根拠とする主張をする。しかしながら、右安全配慮義務の履行・不履行は、以上各別に検討してきた諸点を総合考慮して判断されることであって、被告らの講じてきたじん肺防止措置が労働組合の承認を得たものであったとしても、それにより、被告らの安全配慮義務がすべて尽くされたことにならないことは明らかというべきである。

3 被告らの責任

細倉鉱山の各作業現場が、多量の粉じんが発生・飛散している粉じん職場であったにもかかわらず、被告らが、発生粉じんの抑制や粉じんの吸入を阻止する等の措置において具体的な安全配慮義務を尽くすことを怠っていたことは、前認定のとおりである。

しかして、本件原告らが、いずれも細倉鉱山で就労し、かつ、じん肺に罹患した者であることも、前認定のとおりである。

以下、各原告について、個別に検討する。

(一) 原告番号一ないし五番、七、八番及び一〇番の各原告は、前認定のとおり、被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業の雇用下に、細倉鉱山のみで就労してきた者であるから、被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業の細倉鉱山における各債務不履行が、右原告らのじん肺罹患を惹起させたものと推認するのが相当である。

しかしながら、じん肺が、体内に吸入された粉じんの蓄積により発生し、しかも、粉じんの吸入を止めた後も進行を続けるという特徴を有することからすれば、原告番号一ないし五番、七、八番及び一〇番の各原告のじん肺の罹患が、被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業のいずれの債務不履行によるものであるかを確定することができない。

このような場合、不法行為による被害者の保護との均衡上、共同不法行為についての民法七一九条一項後段の規定が類推適用されると解するのが相当である。

そうすると、被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業は、民法七一九条一項後段の規定の類推適用により、各自、原告番号一ないし五番、七、八番及び一〇番の各原告がじん肺に罹患したことによって被った損害の全部の賠償をすべき義務がある。

(二) 原告番号一二ないし一七番の各原告は、前認定のとおり、被告三菱マテリアルの雇用下に、細倉鉱山のみで就労してきた者であるから、被告三菱マテリアルの細倉鉱山における債務不履行が、右原告らのじん肺罹患を惹起させたものと推認するのが相当である。

原告番号一二ないし一五番の各原告は、昭和二三年以前から細倉鉱山に就労してきた者であるが、それは短期間のことであって、昭和二三年以降の長期にわたる就労期間に照らせば、右推認を妨げるものではない。

そうすると、被告三菱マテリアルは、原告番号一二ないし一七番の各原告がじん肺に罹患したことによって被った損害の全部の賠償をすべき義務がある。

(三) 原告番号一八ないし二一番の各原告は、前認定のとおり、被告三菱マテリアル、被告細倉鉱業及び熊谷組の雇用下に、細倉鉱山のみで就労してきた者である。

細倉鉱山において、被告三菱マテリアル、被告細倉鉱業に安全配慮義務の不履行があったことは、前認定・判断のとおりである。

そうすると、被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業の債務不履行が、原告番号一八ないし二一番の各原告のじん肺罹患を惹起させた蓋然性が高いといえる。

しかしながら、じん肺が、体内に吸入された粉じんの蓄積により発生し、しかも、粉じんの吸入を止めた後も進行を続けるという特徴を有することからすれば、原告番号一八ないし二一番の各原告が、細倉鉱山に就労中のいずれの時期にじん肺に罹患したかを確定することができない。

このような場合、被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業の責任については、不法行為による被害者の保護との均衡上、共同不法行為についての民法七一九条一項後段の規定が類推適用されると解するのが相当である。

そうすると、被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業は、民法七一九条一項後段の規定の類推適用により、各自、原告番号一八ないし二一番の各原告がじん肺に罹患したことによって被った損害の全部の賠償をすべき義務がある。

(四) 原告番号六番及び一一番の各原告は、前認定のとおり、被告三菱マテリアルの雇用下に、鷲合森鉱山で就労した後、被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業の雇用下に、細倉鉱山で就労してきた者である。

弁論の全趣旨によれば、鷲合森鉱山は粉じん職場であることが認められるが、原告番号六番及び一一番の各原告が、鷲合森鉱山においてじん肺に罹患したかどうか、被告三菱マテリアルが右鉱山において右原告らに対し、安全配慮義務を尽くしたかどうか等の点についてはいずれとも確定するに足りる証拠はない。

細倉鉱山における、被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業の安全配慮義務に不履行があったことは前認定・判断のとおりである。そうすると、その不履行が、原告番号六番及び一一番の各原告のじん肺罹患を惹起させた蓋然性が高いとはいえるものの、じん肺が、体内に吸入された粉じんの蓄積により発生し、しかも、粉じんの吸入を止めた後も進行を続けるという特徴を有することからすれば、原告番号六番及び一一番の各原告が、鷲合森鉱山及び細倉鉱山に就労中のいずれの時期にじん肺に罹患したかを確定することができない。

このような場合、被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業の責任については、不法行為による被害者の保護との均衡上、共同不法行為についての民法七一九条一項後段の規定が類推適用されると解するのが相当である。

そうすると、被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業は、民法七一九条一項後段の規定の類推適用により、各自、原告番号六番及び一一番の各原告がじん肺に罹患したことによって被った損害の全部の賠償をすべき義務がある。

(五) 原告番号九番の原告は、前認定のとおり、被告三菱マテリアルの雇用下に、尾去沢鉱山で就労した後、被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業の雇用下に、細倉鉱山で就労してきた者である。

弁論の全趣旨によれば、尾去沢鉱山は粉じん職場であることが認められるが、原告番号九番の原告が、尾去沢鉱山においてじん肺に罹患したかどうか、被告三菱マテリアルが右鉱山において右原告に対し、安全配慮義務を尽くしたかどうか等の点についてはいずれとも確定するに足りる証拠はない。

細倉鉱山における、被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業の安全配慮義務に不履行があったことは前認定・判断のとおりである。そうすると、その不履行が、原告番号九番の原告のじん肺罹患を惹起させた蓋然性が高いとはいえるものの、じん肺が、体内に吸入された粉じんの蓄積により発生し、しかも、粉じんの吸入を止めた後も進行を続けるという特徴を有することからすれば、原告番号九番の原告が、尾去沢鉱山及び細倉鉱山に就労中のいずれの時期にじん肺に罹患したかを確定することができない

このような場合、被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業の責任については、不法行為による被害者の保護との均衡上、共同不法行為についての民法七一九条一項後段の規定が類推適用されると解するのが相当である。

そうすると、被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業は、民法七一九条一項後段の規定の類推適用により、各自、原告番号九番の原告がじん肺に罹患したことによって被った損害の全部の賠償をすべき義務がある。

(六) 原告番号二二番の原告は、前認定のとおり、熊谷組の雇用下に、福舟鉱山及び細倉鉱山で就労し、被告大手開発の雇用下に、佐渡鉱山で就労した後、昭和四九年九月から被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業の雇用下に、細倉鉱山で就労してきた者である。

弁論の全趣旨によれば、福舟鉱山及び佐渡鉱山は粉じん職場であることが認められるが、原告番号二二番の原告が、福舟鉱山又は佐渡鉱山においてじん肺に罹患したかどうか、熊谷組及び被告大手開発がそれぞれの鉱山において右原告に対し、安全配慮義務を尽くしたかどうか等の点についてはいずれとも確定するに足りる証拠はない。

細倉鉱山における、被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業の昭和四九年九月以降の安全配慮義務に不履行があったことは前認定・判断のとおりである。そうすると、その不履行が、原告番号二二番の原告のじん肺罹患を惹起させた蓋然性が高いとはいえるものの、じん肺が、体内に吸入された粉じんの蓄積により発生し、しかも、粉じんの吸入を止めた後も進行を続けるという特徴を有することからすれば、原告番号二二番の原告が、福舟鉱山、佐渡鉱山及び細倉鉱山に就労中のいずれの時期にじん肺に罹患したかを確定することができない。

このような場合、被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業の昭和四九年九月以降の安全配慮義務の不履行に基づく責任については、不法行為による被害者の保護との均衡上、共同不法行為についての民法七一九条一項後段の規定が類推適用されると解するのが相当である。

そうすると、被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業は、民法七一九条一項後段の規定の類推適用により、各自、原告番号二二番の原告がじん肺に罹患したことによって被った損害の全部の賠償をすべき義務がある。

なお、被告大手開発については、原告番号二二番の原告が、佐渡鉱山に就労中の具体的な安全配慮義務の内容が明らかでないばかりでなく、右原告が、佐渡鉱山に就労中の事由によりじん肺に罹患したと認めるに足りる証拠はないから、被告大手開発が独自に右原告に対しじん肺に罹患したことによる損害賠償義務を負うことはないというべきである。

(七) 原告番号二三番の原告は、前認定のとおり、熊谷組の雇用下に、細倉鉱山、福富鉱山、福舟鉱山及び細倉鉱山で就労した後、昭和五三年一〇月から被告大手開発の雇用下に、細倉鉱山で就労してきた者である。

弁論の全趣旨によれば、福富鉱山及び福舟鉱山は粉じん職場であることが認められるが、原告番号二三番の原告が、福富鉱山又は福舟鉱山においてじん肺に罹患したかどうか、熊谷組が右各鉱山において右原告に対し、安全配慮義務を尽くしたかどうか等の点についてはいずれとも確定するに足りる証拠はない。

細倉鉱山における、被告大手開発の昭和五三年一〇月以降の安全配慮義務に不履行があったことは前認定・判断のとおりである。そうすると、その不履行が、原告番号二三番の原告のじん肺罹患を惹起させた蓋然性が高いとはいえるものの、じん肺が、体内に吸入された粉じんの蓄積により発生し、しかも、粉じんの吸入を止めた後も進行を続けるという特徴を有することからすれば、原告番号二三番の原告が、福富鉱山、福舟鉱山及び細倉鉱山に就労中のいずれの時期にじん肺に罹患したかを確定することができない。

このような場合、被告大手開発の昭和五三年一〇月以降の安全配慮義務の不履行に基づく責任については、不法行為による被害者の保護との均衡上、共同不法行為についての民法七一九条一項後段の規定が類推適用されると解するのが相当である。

そうすると、被告大手開発は、民法七一九条一項後段の規定の類推適用により、原告番号二三番の原告がじん肺に罹患したことによって被った損害の全部の賠償をすべき義務がある。

なお、弁論の全趣旨によれば、被告大手開発は、昭和三九年一二月、被告三菱マテリアルの経営する鉱山の坑道掘進などを行うために設立された会社であり、昭和五一年六月までは被告三菱マテリアルから、同年七月からは被告細倉鉱業から細倉鉱山の坑道掘進等の坑内作業を請け負っており、昭和五三年一〇月以降は、鉱山保安の義務者である被告細倉鉱業並びに被告細倉鉱業及び被告大手開発の親会社である被告三菱マテリアルの指揮命令に基づいて、原告番号二三番の原告を細倉鉱山の坑内作業に従事させていたこと、右原告は、細倉鉱山においては、専ら被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業の指揮命令に基づいて就労していたことが認められる。

そうすると、被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業と原告番号二三番の原告との間には、細倉鉱山における労働については雇用契約に類似する関係があり、被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業は、被告大手開発に雇用されていた右原告に対しても、直接安全配慮義務を負っていたものと解するのが相当である。

そうすると、右に述べた被告大手開発の原告番号二三番の原告に対する責任は、そのまま被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業に妥当し、右被告らは、民法七一九条一項後段の規定の類推適用により、各自、右原告がじん肺に罹患したことによって被った損害の全部の賠償をすべき義務があるというべきである。

(八) 以上を要するに、原告番号一ないし一一番及び一八ないし二二番の各原告については、被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業が、各自、右原告らに発生した全損害について責任を負い、原告番号一二ないし一七番の各原告については、被告三菱マテリアルが、右原告らに発生した全損害について責任を負い、原告番号二三番の原告については、被告三菱マテリアル、被告細倉鉱業及び被告大手開発が、各自、右原告に発生した全損害について責任を負うというべきである。

二  不法行為責任

前認定によれば、本件原告らが、細倉鉱山で作業に従事していた当時、被告らは、細倉鉱山において、じん肺が発生することを予見することができ、かつ、前記安全配慮義務を尽くすことによってその発生を防止し得たのであるから、被告らがそれぞれ右安全配慮義務を負う本件原告らに対し、その義務の履行を怠ったことは、被告らの過失というべきである。

そして、債務不履行責任について論じたところに照らせば、原告番号一ないし一一番及び一八ないし二二番の各原告については、被告三菱マテリアル及び被告細倉鉱業が、民法七〇九条、七一〇条、七一九条一項後段に基づき、各自、右原告らに発生した全損害について、原告番号一二ないし一七番の各原告については、被告三菱マテリアルが、民法七〇九条、七一〇条に基づき、右原告らに発生した全損害について、原告番号二三番の原告については、被告三菱マテリアル、被告細倉鉱業及び被告大手開発が、民法七〇九条、七一〇条、七一九条一項後段に基づき、各自、右原告に発生した全損害について、それぞれ不法行為責任を負うものというべきである。

第八  損害

一  本件原告らは、本訴において、そのじん肺管理区分の如何を問わず、原告一人当り、三〇〇〇万円の慰謝料とその一割相当の弁護士費用を請求しているものである。

そして、その内容は、本件原告らが受けた肉体的、経済的、生活的、家族的、社会的等の全損害に対する慰謝料の請求であって、弁論の全趣旨によれば、本件原告らは、本訴で請求するもののほかに、別途被告らに対し、その名目の如何を問わず、じん肺に罹患したことを理由とする損害賠償請求をすることはないものと認められる。

本件原告らの右包括一律請求については、包括請求部分につき、慰謝料の中に、実質的に、逸失利益的な損害も含まれることになるから、その反面として、慰謝料減額事由として、本来ならば財産的損害についての減額事由というべき、本件原告らに給付された労災補償給付の額等が考慮されることになり、一律請求部分については、慰謝料の性質上、各原告の個別事情が反映・考慮されることにならざるを得ないといわなければならない。

二  以下、本件原告らの慰謝料算定事由につき検討する。

1 本件原告らの健康被害の程度

(一) 本件原告らの健康被害の程度は、じん肺の具体的症状とともに、じん肺法上のじん肺健康管理区分が一つの重要な目安とされるべきものと解される。

じん肺については、じん肺法により、行政上の管理区分決定制度が設けられ、医師によるじん肺診断の結果に基づく決定申請並びにじん肺審査医の診断を経て、じん肺有所見者と認められた者については、じん肺法上のじん肺管理区分が決定され、右管理区分に応じた健康管理の措置が採られ、合わせて、労災補償法による公的給付がされている。

このようにじん肺管理区分は、行政上の健康管理のための区分という性格を有するが、それとともに、じん肺患者の健康被害の程度をも示すものであり、公定の診断方法に基づいて、専門医が診断したところにより、行政機関が決定したものであるから、信頼性が高いと判断される。

被告らは、管理区分の決定に当たって行われる肺機能検査の基準値は、高齢化による生理的な肺機能の低下を十分加味しておらず、高めに設定されているため、同年齢の健常人ですらも著しい肺機能障害があるとされてしまう問題点を含んでおり、このような肺機能検査に基づく管理区分決定の信頼性は薄い旨の主張をする。

しかしながら、甲A第二二号証、第一一八号証、第一二〇、一二一号証、第三五六号証、第三六〇ないし第三六二号証及び証人斉藤健一の供述によれば、被告ら主張の問題点を指摘する研究者がいることが認められるものの、日本胸部疾患学会肺生理専門委員会が、平成五年に発表した臨床肺機能検査指標基準値は、全国の、七〇歳以上の高齢者が多数含まれていた、多数の医療施設で調査された肺機能検査成績を基に発表されたものであるところ、その数値は、ほぼ改正じん肺法上の肺機能検査の基準値と一致することが認められることからすれば、被告ら主張のように、改正じん肺法上の肺機能検査の基準値が高めに設定され、信頼性が薄いということはできない。

なお、じん肺が、進行性の疾患であり、粉じんの発生する職場から離れた後も、悪化し続けるものであり、一定時点のある管理区分に相当する病状が、将来更に進行する可能性があることに鑑みると、口頭弁論終結時のじん肺管理区分を固定的に捉えることは必ずしも相当でない。

(二) 次に、本件原告らの個別のじん肺による健康被害の状況について判断する。

甲B第一ないし第二三号証(以上、枝番を含む。)、第二六、二七号証、第三〇ないし第五二号証の各二、第五三ないし第八二号証、第八四ないし第八八号証、第八九号証の一、二、第九〇号証、第九二ないし第九四号証、第一〇〇号証の一ないし九、第一〇一、一〇二号証、原告佐藤研(第一回、第二回)、同井上仁市、同菅原勝吉、同渡辺新造(第一回、第二回)、同佐藤聖、同吉田清、同渋谷哲三郎、同千葉哲郎、同草沢清春、同佐藤忠男、同佐々木松一、同氏家卯市、同安倍七五郎、同佐藤守志、同神田温悦、同氏家三郎、同小澤幸太郎(第一回、第二回)、同鈴木政志、同氏家正志、同尾崎信、同小野寺昭吉、同加藤晃及び同佐藤京一(第一回、第二回)の各供述によれば、次の事実を認めることができる。

(1) 原告佐藤研

原告番号一番佐藤研(昭和五年七月二日生)は、昭和五七年九月、管理二の認定を受け、その後、昭和六二年四月、管理二、続発性気管支炎の認定を受けた。

平成六年現在、鎮咳剤、去痰剤の内服薬を常用し、月二、三回外来通院し、療養している。また、今後は、引き続き内服薬を常用し、随時抗生剤を併用しながら加療、静養を要するとされている。

胸部に関する臨床検査における自覚症状として、咳や痰が認められ、呼吸困難度がⅢとされているが、心悸亢進は認められない。また、同検査における他覚所見として、チアノーゼ、ばち状指、副雑音は、いずれも認められない。

肺機能検査の結果は、一秒率84.2%、パーセント肺活量72.0%、V25を身長で除した値(以下「V25」という。)0.47、肺胞気・動脈血酸素分圧較差(以下、「較差」という。)15.4であり、肺機能障害があると判定されている。

(2) 原告井上仁市

原告番号二番井上仁市(昭和一三年二月一九日生)は、昭和六二年一一月、管理二、続発性気管支炎の認定を受けた。

平成六年現在、鎮咳剤、去痰剤、気管支拡張剤の内服薬を常用し、月二、三回外来通院し、療養している。そして、気道感染増悪時には、随時抗生剤の投与を受けている。また、今後は、引き続き内服薬を常用し、加療、静養を要するとされている。

胸部に関する臨床検査における自覚症状として、咳や痰、心悸亢進が認められ、呼吸困難度がⅢとされている。また、同検査における他覚所見として、チアノーゼ、ばち状指、副雑音は、いずれも認められない。

肺機能検査の結果は、一秒率76.5%、パーセント肺活量97.9%、V250.54、較差14.0であり、肺機能障害はないと判定されている。

(3) 原告菅原勝吉

原告番号三番菅原勝吉(昭和三年八月一〇日生)は、昭和五七年八月、昭和五八年八月、いずれも管理二の認定を受け、その後、平成元年九月、管理二、続発性気管支炎の認定を受けた。

平成六年現在、鎮咳剤、去痰剤、気管支拡張剤の内服薬を常用し、月二、三回外来通院し、療養している。そして、気道感染増悪時には、随時抗生剤の投与を受けている。また、今後は、引き続き内服薬を常用し、随時抗生剤を併用しながら加療、静養を要するとされている。

胸部に関する臨床検査における自覚症状として、咳や痰、心悸亢進が認められ、呼吸困難度がⅢとされている。また、同検査における他覚所見として、チアノーゼ、ばち状指、副雑音は、いずれも認められない。

肺機能検査の結果は、一秒率80.5%、パーセント肺活量105.5%、V250.53、較差32.05であり、肺機能障害があると判定されている。

(4) 原告渡辺新造

原告番号四番渡辺新造(昭和七年九月二六日生)は、昭和五七年九月、昭和五九年一月、昭和六一年二月、同年一一月、昭和六二年一月、いずれも管理二の認定を受け、その後、昭和六三年四月、管理二、続発性気管支炎の認定を受けた。

平成六年現在、鎮咳剤、去痰剤、気管支拡張剤の内服薬を常用し、月二、三回外来通院し、療養している。そして、気道感染増悪時には、随時抗生剤の投与を受けている。また、今後は、引き続き内服薬を常用し、随時抗生剤を併用し、排痰訓練等を励行しながら加療、静養を要するとされている。

胸部に関する臨床検査における自覚症状として、咳や痰が認められ、呼吸困難度がⅢとされているが、心悸亢進は認められない。また、同検査における他覚所見として、チアノーゼ、ばち状指は認められないが、下肺に副雑音が認められる。

肺機能検査の結果は、一秒率83.3%、パーセント肺活量73.1%、V250.42、較差29.15であり、肺機能障害があると判定されている。

(5) 原告佐藤聖

原告番号五番佐藤聖(昭和四年一月一五日生)は、昭和六三年一一月、管理二、続発性気管支炎の認定を受けた。

平成六年現在、鎮咳剤、去痰剤、気管支拡張剤の内服薬を常用し、月二、三回外来通院し、療養している。そして、気道感染増悪時には、随時抗生剤の投与を受けている。また、今後は、引き続き内服薬を常用し、随時抗生剤を併用しながら加療、静養を要するとされている。

胸部に関する臨床検査における自覚症状として、咳や痰が認められ、呼吸困難度がⅢとされているが、心悸亢進は認められない。また、同検査における他覚所見として、チアノーゼ、ばち状指、副雑音は、いずれも認められない。

肺機能検査の結果は、一秒率88.4%、パーセント肺活量96.1%、V250.74、較差18.9であり、肺機能障害はないと判定されている。

(6) 原告吉田清

原告番号六番吉田清(昭和八年一月一日生)は、昭和五七年、昭和五八年、昭和五九年、昭和六〇年、昭和六一年一一月、いずれも管理二の認定を受け、その後、平成元年七月、管理二、続発性気管支炎の認定を受けた。平成六年一一月一四日には、肺癌のため手術を受けた。

平成六年現在、鎮咳剤、去痰剤、気管支拡張剤の内服薬を常用し、月二、三回外来通院し、療養している。そして、気道感染増悪時には、随時抗生剤の投与を受けている。また、今後は、引き続き内服薬を常用し、随時抗生剤を併用しながら加療、静養を要するとされている。

胸部に関する臨床検査における自覚症状として、咳や痰、心悸亢進が認められ、呼吸困難度がⅢとされている。また、同検査における他覚所見として、チアノーゼ、ばち状指、副雑音は、いずれも認められない。

肺機能検査の結果は、一秒率71.6%、パーセント肺活量81.2%、V250.37、較差34.56であり、肺機能障害があると判定されている。

(7) 原告渋谷哲三郎

原告番号七番渋谷哲三郎(大正一一年三月三一日生)は、昭和五一年一二月、管理二の認定を受け、その後、昭和六三年二月、管理三イ、続発性気管支炎の認定を受けた。

平成六年現在、鎮咳剤、去痰剤、気管支拡張剤の内服薬を常用し、月二、三回外来通院し、療養している。そして、気道感染増悪時には、随時抗生剤の投与を受けている。また、今後は、引き続き内服薬を常用し、随時抗生剤を併用しながら加療、静養を要するとされている。

胸部に関する臨床検査における自覚症状として、咳や痰が認められ、呼吸困難度がⅢとされているが、心悸亢進は認められない。また、同検査における他覚所見として、チアノーゼ、ばち状指、副雑音は、いずれも認められない。

肺機能検査の結果は、一秒率68.7%、パーセント肺活量89.8%、V250.40、較差1.05であり、肺機能障害はないと判定されている。

(8) 原告千葉哲郎

原告番号八番千葉哲郎(昭和一五年七月八日生)は、平成元年五月、管理二、続発性気管支炎の認定を受けた。

平成六年現在、鎮咳剤、去痰剤、気管支拡張剤の内服薬を常用し、療養している。また、今後は、引き続き内服薬を常用し、うがい、去痰、排痰訓練の励行を要するとされている。

胸部に関する臨床検査における自覚症状として、咳や痰が認められ、呼吸困難度がⅢとされているが、心悸亢進は認められない。また、同検査における他覚所見として、チアノーゼ、ばち状指、副雑音は、いずれも認められない。

肺機能検査の結果は、一秒率89.5%、パーセント肺活量107.1%、V250.98、較差6.25であり、肺機能障害はないと判定されている。

(9) 原告草沢清春

原告番号九番草沢清春(昭和一七年九月一〇日生)は、昭和五四年一二月、昭和五六年二月、昭和五七年二月、昭和五八年二月、昭和五九年一月、昭和六一年一一月、昭和六二年一月、いずれも管理二の認定を受け、その後、平成元年二月、管理二、続発性気管支炎の認定を受けた。

平成六年現在、鎮咳剤、去痰剤、気管支拡張剤の内服薬を常用し、月二、三回外来通院し、療養している。そして、気道感染増悪時には、随時抗生剤の投与を受けている。また、今後は、引き続き内服薬を常用し、随時抗生剤を併用しながら加療、静養を要するとされている。

胸部に関する臨床検査における自覚症状として、咳や痰が認められ、呼吸困難度がⅢとされているが、心悸亢進は認められない。また、同検査における他覚所見として、チアノーゼ、ばち状指、副雑音は、いずれも認められない。

肺機能検査の結果は、一秒率84.2%、パーセント肺活量90.9%、V250.86、較差0.5であり、肺機能障害はないと判定されている。

(10) 原告佐藤忠男

原告番号一〇番佐藤忠男(昭和八年一月六日生)は、昭和五四年一二月、昭和五六年二月、昭和五七年二月、昭和五八年二月、昭和五九年一月、昭和六〇年一〇月、昭和六二年一月、いずれも管理二の認定を受け、その後、昭和六三年四月、管理二、続発性気管支炎の認定を受けた。

平成六年現在、鎮咳剤、去痰剤、気管支拡張剤の内服薬を常用し、月二、三回外来通院し、療養している。そして、気道感染増悪時には、随時抗生剤の投与を受けている。また、今後は、引き続き内服薬を常用し、随時抗生剤を併用しながら加療、静養を要するとされている。

胸部に関する臨床検査における自覚症状として、咳や痰、心悸亢進、胸痛が認められ、呼吸困難度がⅢとされている。また、同検査における他覚所見として、ばち状指が認められるが、チアノーゼ、副雑音は、いずれも認められない。

肺機能検査の結果は、一秒率85.3%、パーセント肺活量85.6%、V250.74、較差7.62であり、肺機能障害があると判定されている。

(11) 原告佐々木松一

原告番号一一番佐々木松一(昭和五年六月二二日生)は、昭和五九年五月、昭和六〇年一〇月、いずれも管理二の認定を受け、その後、平成元年一〇月、管理三イ、続発性気管支炎の認定を受けた。

平成六年現在、鎮咳剤、去痰剤、気管支拡張剤の内服薬を常用し、月二、三回外来通院し、療養している。そして、気道感染増悪時には、随時抗生剤の投与を受けている。また、今後は、引き続き内服薬を常用し、随時抗生剤を併用しながら加療、静養を要するとされている。

胸部に関する臨床検査における自覚症状として、咳や痰が認められ、呼吸困難度がⅢとされているが、心悸亢進は認められない。また、同検査における他覚所見として、チアノーゼ、ばち状指、副雑音は、いずれも認められない。

肺機能検査の結果は、一秒率26.0%、パーセント肺活量83.3%、V250.18、較差35.73であり、肺機能障害があると判定されている。

(12) 原告氏家卯市

原告番号一二番氏家卯市(大正四年二月一八日生)は、昭和四三年、管理三の認定を受け、その後、昭和六一年七月、管理四の認定を受けた。

平成六年現在、鎮咳剤、去痰剤、気管支拡張剤の内服薬を常用し、療養している。そして、気道感染増悪時には、随時抗生剤の投与を受けている。また、今後は、引き続き内服薬を常用し、随時抗生剤を併用しながら加療、静養を要するとされている。

胸部に関する臨床検査における自覚症状として、咳や痰が認められ、呼吸困難度がⅢとされているが、心悸亢進は認められない。また、同検査における他覚所見として、チアノーゼ、ばち状指、副雑音は、いずれも認められない。

肺機能検査の結果は、一秒率74.0%、パーセント肺活量66.3%、V250.36、較差16.5であり、肺機能障害があると判定されている。

(13) 原告安倍七五郎

原告番号一三番安倍七五郎(大正一三年九月一一日生)は、平成元年三月、管理二、続発性気管支炎の認定を受けた。

平成六年現在、鎮咳剤、去痰剤、気管支拡張剤の内服薬を常用し、月二、三回外来通院し、療養している。そして、気道感染増悪時には、随時抗生剤の投与を受けている。また、今後は、引き続き内服薬を常用し、随時抗生剤を併用しながら加療、静養を要するとされている。

胸部に関する臨床検査における自覚症状として、咳や痰、心悸亢進が認められ、呼吸困難度がⅢとされている。また、同検査における他覚所見として、チアノーゼ、ばち状指、副雑音は、いずれも認められない。

肺機能検査の結果は、一秒率67.7%、パーセント肺活量77.5%、V250.21、較差22.01であり、肺機能障害はないと判定されている。

(14) 原告佐藤守志

原告番号一四番佐藤守志(大正九年五月一〇日生)は、昭和四九年、管理二の認定を受け、その後、平成元年二月、管理二、続発性気管支炎の認定を受けた。

平成六年現在、鎮咳剤、去痰剤、気管支拡張剤の内服薬を常用し、月二、三回外来通院し、療養している。そして、気道感染増悪時には、随時抗生剤の投与を受けている。また、今後は、引き続き内服薬を常用し、随時抗生剤を併用しながら加療、静養を要するとされている。

胸部に関する臨床検査における自覚症状として、咳や痰、胸苦が認められ、呼吸困難度がⅢとされているが、心悸亢進は認められない。また、同検査における他覚所見として、チアノーゼ、ばち状指、副雑音は、いずれも認められない。

肺機能検査の結果は、一秒率68.9%、パーセント肺活量78.5%、V250.38、較差38.1であり、肺機能障害はないと判定されている。

(15) 原告神田温悦

原告番号一五番神田温悦(大正一〇年三月五日生)は、昭和六一年一二月、管理三イの認定を受け、その後、昭和六二年一二月、管理三イ、続発性気管支炎の認定を受けた。

平成六年現在、鎮咳剤、去痰剤、気管支拡張剤の内服薬を常用し、月二、三回外来通院し、療養している。そして、気道感染増悪時には、随時抗生剤の投与を受けている。また、今後は、引き続き内服薬を常用し、随時抗生剤を併用しながら加療、静養を要するとされている。

胸部に関する臨床検査における自覚症状として、咳や痰、心悸亢進が認められ、呼吸困難度がⅢとされている。また、同検査における他覚所見として、チアノーゼ、ばち状指、副雑音は、いずれも認められない。

肺機能検査の結果は、一秒率81.0%、パーセント肺活量65.0%、V250.40、較差12.8であり、著しい肺機能障害があると判定されている。

(16) 原告氏家三郎

原告番号一六番氏家三郎(大正八年一二月一日生)は、昭和六三年四月、管理三イ、続発性気管支拡張症の認定を受けた。

平成六年現在、鎮咳剤、去痰剤、気管支拡張剤の内服薬を常用し、月二、三回外来通院し、療養している。そして、気道感染増悪時には、随時抗生剤の投与を受けている。また、今後は、引き続き内服薬を常用し、随時抗生剤を併用しながら加療、静養を要するとされている。

胸部に関する臨床検査における自覚症状として、咳や痰、心悸亢進が認められ、呼吸困難度がⅢとされている。また、同検査における他覚所見として、チアノーゼ、ばち状指、副雑音は、いずれも認められない。

肺機能検査の結果は、一秒率60.0%、パーセント肺活量75.2%、V250.15、較差36.2であり、肺機能障害があると判定されている。

(17) 原告小澤幸太郎

原告番号一七番小澤幸太郎(大正九年三月二五日生)は、昭和六三年二月、管理二、続発性気管支炎の認定を受けた。

平成六年現在、鎮咳剤、去痰剤の内服薬を常用し、月三、四回外来通院し、療養している。また、今後は、引き続き内服薬の常用等を要するとされている。

胸部に関する臨床検査における自覚症状として、咳や痰、心悸亢進、胸部重苦感が認められ、呼吸困難度がⅣとされている。また、同検査における他覚所見としてチアノーゼ、ばち状指、副雑音は、いずれも認められない。

肺機能検査の結果は、一秒率62.2%、パーセント肺活量63.6%、V250.19、較差30.2であり、肺機能障害があると判定されている。

(18) 原告鈴木政志

原告番号一八番鈴木政志(昭和六年八月一三日生)は、昭和五四年一二月、昭和五六年二月、昭和五七年二月、昭和五八年二月、昭和五九年一月、昭和六〇年二月、いずれも管理二の認定を受け、また、同年一〇月、昭和六一年八月、いずれも管理三イの認定を受け、その後、昭和六三年九月、管理三イ、続発性気管支炎の認定を受けた。

平成六年現在、鎮咳剤、去痰剤、気管支拡張剤の内服薬を常用し、療養している。そして、気道感染増悪時には、随時抗生剤の投与を受けている。また、今後は、引き続き内服薬を常用し、随時抗生剤を併用しながら加療、静養を要するとされている。

胸部に関する臨床検査における自覚症状として、咳や痰が認められ、呼吸困難度がⅢとされているが、心悸亢進は認められない。また、同検査における他覚所見として、チアノーゼ、ばち状指、副雑音は、いずれも認められない。

肺機能検査の結果は、一秒率74.7%、パーセント肺活量112.7%、V250.59、較差10.18であり、肺機能障害はないと判定されている。

(19) 原告氏家正志

原告番号一九番氏家正志(昭和五年七月八日生)は、昭和五四年一二月、管理二の認定を受け、その後、昭和六二年七月、管理二、続発性気管支炎の認定を受けた。

平成六年現在、去痰剤、気管支拡張剤、テオフィリン剤の内服薬を常用し、療養している。そして、気道感染増悪時には、随時抗生剤の投与を受けている。また、今後は、引き続き内服薬を常用し、排痰ドレナージ等により、症状の軽減に努めることを要するとされている。

胸部に関する臨床検査における自覚症状として、咳や痰、心悸亢進、胸部重苦感が認められ、呼吸困難度がⅢとされている。また、同検査における他覚所見として、チアノーゼ、ばち状指、副雑音は、いずれも認められない。

肺機能検査の結果は、一秒率68.9%、パーセント肺活量118.9%、V250.56、較差17.9であり、肺機能障害があると判定されている。

(20) 原告尾崎信

原告番号二〇番尾崎信(昭和一二年四月五日生)は、昭和五七年八月、昭和五九年一月、昭和六〇年一〇月、昭和六二年二月、いずれも管理二の認定を受け、その後、昭和六三年四月、管理二、続発性気管支炎の認定を受けた。

平成六年現在、鎮咳剤、去痰剤、気管支拡張剤の内服薬を常用し、療養している。そして、気道感染増悪時には、随時抗生剤の投与を受けている。また、今後は、引き続き内服薬を常用し、随時抗生剤を併用しながら加療、静養を要するとされている。

胸部に関する臨床検査における自覚症状として、咳や痰、心悸亢進、胸痛が認められ、呼吸困難度がⅢとされている。また、同検査における他覚所見として、チアノーゼ、ばち状指、副雑音は、いずれも認められない。

肺機能検査の結果は、一秒率83.1%、パーセント肺活量106.7%、V250.80、較差12.1であり、肺機能障害はないと判定されている。

(21) 原告小野寺昭吉

原告番号二一番小野寺昭吉(昭和四年八月一日生)は、昭和六三年四月、管理三イ、続発性気管支炎の認定を受けた。

平成六年現在、鎮咳剤、去痰剤、気管支拡張剤の内服薬を常用し、月二、三回外来通院し、療養している。そして、気道感染増悪時には、随時抗生剤の投与を受けている。また、今後は、引き続き内服薬を常用し、随時抗生剤を併用しながら加療、療養を要するとされている。

胸部に関する臨床検査における自覚症状として、咳や痰、心悸亢進が認められ、呼吸困難度がⅢとされている。また、同検査における他覚所見として、チアノーゼ、ばち状指、副雑音は、いずれも認められない。

肺機能検査の結果は、一秒率73.4%、パーセント肺活量106.3%、V250.79、較差33.7であり、肺機能障害はないと判定されている。

(22) 原告加藤晃

原告番号二二番加藤晃(昭和二二年三月二九日生)は、昭和五七年八月、昭和五九年一月、昭和六〇年二月、いずれも管理二の認定を受け、また、同年一〇月、管理三イの認定を受け、その後、昭和六三年九月、管理三イ、続発性気管支炎の認定を受けた。

平成六年現在、鎮咳剤、去痰剤、気管支拡張剤の内服薬を常用し、月二、三回外来通院し、療養している。そして、気道感染増悪時には、随時抗生剤の投与を受けている。また、今後は、引き続き内服薬を常用し、随時抗生剤を併用しながら加療、静養を要するとされている。

胸部に関する臨床検査における自覚症状として、咳や痰が認められ、呼吸困難度がⅢとされているが、心悸亢進は認められない。また、同検査における他覚所見として、チアノーゼ、ばち状指、副雑音は、いずれも認められない。

肺機能検査の結果は、一秒率76.2%、パーセント肺活量94.4%、V250.54、較差マイナス2.8であり、肺機能障害はないと判定されている。

(23) 原告佐藤京一

原告番号二三番佐藤京一(昭和九年一二月二二日生)は、昭和五二年一二月、管理二の認定を受け、また、昭和五四年一月、昭和五五年三月、昭和五六年八月、いずれも管理三イの認定を受け、更に、昭和五七年六月、昭和五八年五月、昭和五九年五月、昭和六〇年五月、昭和六一年一一月、昭和六二年二月、いずれも管理三ロの認定を受け、その後、同年一二月、管理三ロ、続発性気管支炎の認定を受けた。

平成六年現在、鎮咳剤、去痰剤、気管支拡張剤の内服薬を常用し、月二、三回外来通院し、療養している。そして、気道感染増悪時には、随時抗生剤の投与を受けている。また、今後は、引き続き内服薬を常用し、随時抗生剤を併用しながら加療を要するとされている。

胸部に関する臨床検査における自覚症状として、咳や痰が認められ、呼吸困難度がⅢとされているが、心悸亢進は認められない。また、同検査における他覚所見として、チアノーゼ、ばち状指、副雑音は、いずれも認められない。

肺機能検査の結果は、一秒率52.7%、パーセント肺活量64.9%、V250.18、較差27.9であり、肺機能障害があると判定されている。

(三) 本件原告らの健康被害の状況は、右のとおりであるが、被告らは、本件原告らの中には、損害が発生する程の健康被害がない者がいる旨主張するので、この点について判断する。

(1) 被告らは、別紙五「原告ら健康被害一覧表」略記のとおり、同表記載の原告らは、じん肺の合併症に罹患していないと主張する。

そして、乙第二号証及び証人斉藤健一の供述には、被告らの右主張を裏付けるような部分が存在する。すなわち、右各証拠によれば、右原告らの罹患している合併症である続発性気管支炎、続発性気管支拡張症のような感染性気道炎症は、たとえば膿性痰の症状が改善されて膿性を失い治療を要しなくなるまでに要する期間は、特別な症例を除いて、三週間から四週間が限度であるとされているから、合併症に罹患したと診断された後数年を経過している右原告らは、既に治癒しているはずであるというものである。

右に述べられた見解は、ひとつの見解として、それなりに首肯できないものではない。しかし、前認定のとおり、右原告らは、現在においても、気道感染増悪時には、随時抗生剤の投与を受け、また、今後も、随時抗生剤を併用しながら加療を要するとされていることからすれば、右見解をもって、直ちに、右原告らがじん肺の合併症に罹患していないとまで言い切ることはできない。

(2) 被告らは、別紙五「原告ら健康被害一覧表」略記のとおり、同表記載の原告らは、長期間、エックス線写真像に進展が見られないと主張する。そして、甲B第一号証の二、第五、六号証の各二、第八ないし第一〇号証の各二、第一四号証の二、第一六、一七号証の各二、第一九、二〇号証の各二、第二三号証の二、第三〇号証の二、第三四、三五号証の各二、第三七ないし第三九号証の各二、第四三号証の二、第四五、四六号証の各二、第四八、四九号証の各二及び第五二号証の二によれば、被告らの主張する右事実が認められる。

しかし、じん肺が進行性の疾患であり、粉じん作業から離脱した後も、進行を続ける可能性があることは前認定のとおりであり、右原告らにあっても、今後の進行の可能性を否定し去ることはできない。

したがって、現在までエックス線写真像に進展が見られないことをもって、これまで健康被害がない、あるいはこれからも健康被害がないということはできない。

(3) 被告らは、別紙五「原告ら健康被害一覧表」略記のとおり、同表記載の原告らは、肺機能障害が認められないと主張する。そして、右原告らの中には、肺機能障害がないと判定されている者がいることは、前認定のとおりである。

しかし、じん肺罹患者に肺機能障害がないことの一事をもって、健康被害が全くないということはできない。

もっとも、じん肺の病理変化に鑑みれば、じん肺罹患者の内、肺機能障害がない者は、同一管理区分の認定がされていても、肺機能障害がある者に比較して、じん肺罹患による健康被害がより軽度であるということができる。

(4) 被告らは、別紙五「原告ら健康被害一覧表」記載のとおり、同表記載の原告らの呼吸困難度は、いずれもⅢよりも軽度であって、健康人と同様の日常生活を送ることができる程度であると主張する。

前認定のとおり、呼吸困難度Ⅲとは、「平地でも健康者なみに歩くことができないが、自己のペースでなら一km以上歩ける者」を指すものであり、右原告らは呼吸困難度がⅢないしそれよりも重症のⅣとされている者であるところ、本件全証拠に照らしても、右原告らの呼吸困難度がⅢより軽度であること、すなわち、平地を健康者なみに歩くことができると認定することはできない。

なお、乙第一一九ないし第一二一号証及び第一四六ないし第一四八号証(以上、枝番を含む。)によれば、右原告らの中には、ゲートボールをしたり、街頭で、本件訴訟等の宣伝活動をしている者のいることが認められるが、このような一面を捉えて、右原告らが、健康者と同様の日常生活を送っているということができないことはもちろんである。

2 本件原告らに対する公的給付等

甲B第三〇ないし第五二号証(以上、枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によれば、本件原告らは、いずれも、労災補償法に基づき、法定の療養・休業補償給付等の支給を受けていること、更に、本件原告らの中には、退職時に、被告らより、じん肺見舞金の支給を受けている者がいることが認められる(いずれも、その具体的な額を確定するに足りる証拠はない。)。

弁論の全趣旨によれば、本件原告らは、今後も労災補償法に基づき、法定の療養・休業補償給付等の支給を受けるであろうことが認められる。

三  損害額

1 慰謝料額

以上検討した、じん肺の特質、本件原告らの健康被害の程度、被告らの安全配慮義務の不履行の程度等のほか、被告らに関係した本件原告らの粉じん職場での就労が、原告番号一七番小澤幸太郎を除く二二名の原告らについては二〇年を超える長期にわたっているものであること、内九名の原告らについては三〇年以上の粉じん職場での就労であること等本件に顕れたすべての事情を総合すると、本件原告らに対する慰謝料額は、

(一) 管理四の原告番号一二番氏家卯市については二三〇〇万円、

(二) 管理三ロで、合併症に罹患し肺機能障害の認められる原告番号二三番佐藤京一については一九〇〇万円、

(三) 管理三イで、合併症に罹患し肺機能障害の認められる原告番号一一番佐々木松一、原告番号一五番神田温悦及び原告番号一六番氏家三郎については各一七〇〇万円、

(四) 管理三イで、合併症に罹患し肺機能障害の認められない原告番号七番渋谷哲三郎、原告番号一八番鈴木政志、原告番号二一番小野寺昭吉及び原告番号二二番加藤晃については各一六〇〇万円、

(五) 管理二で、合併症に罹患し肺機能障害の認められる原告番号一番佐藤研、原告番号三番菅原勝吉、原告番号四番渡辺新造、原告番号六番吉田清、原告番号一〇番佐藤忠男、原告番号一七番小澤幸太郎及び原告番号一九番氏家正志については各一五〇〇万円、

(六) 管理二で、合併症に罹患し肺機能障害の認められない原告番号二番井上仁市、原告番号五番佐藤聖、原告番号八番千葉哲郎、原告番号九番草沢清春、原告番号一三番安倍七五郎、原告番号一四番佐藤守志及び原告番号二〇番尾崎信については各一四〇〇万円、

とするのが相当である。

2 弁護士費用

本件原告らが、その訴訟代理人らに本件訴訟の遂行を委任したことは本件記録上明らかであるところ、本件訴訟の難易度、審理の経過、認容額及び被告らの応訴態度等諸般の事情を考慮すると、本件原告らがその訴訟代理人らに支払うべき弁護士費用のうち、右に認容した慰謝料額の一割に相当する金額が、被告らの債務不履行ないしは不法行為と相当因果関係にある損害であると認めるのが相当である。

第九  抗弁

一  過失相殺

1 被告らは、労働者は、使用者の提供する設備・機械器具等を適正に使用して、自らも安全に作業を行うべき自己保健義務を負うものであり、本件原告らは、右自己保健義務を怠った過失があるとして、過失相殺を主張する。

被告らは、別紙六「抗弁一覧表」の「過失相殺」欄略記のとおり、同欄に記載の原告らには、マスクの不着用、マスクの着用及び管理の不適切、散水の不実施、さく岩機の乾式使用、製錬作業における防じんフード開放作業、発破直後の切羽侵入等の過失相殺すべき事由があった旨主張する。

右原告らに、マスクを着用せずに作業を行っていたこと等、被告らの主張する事由のあったことは、前記第七の一2に認定したところ並びに甲A第一二四号証、甲B第五九号証、第六三号証、第六九号証、乙第一〇号証、第九一号証、第一〇八号証、第一四〇号証、第一四二号証ないし第一四五号証、原告佐藤研(第一回)、同吉田清、同千葉哲郎、同草沢清春、同佐藤忠男、同佐藤守志、同鈴木政志、同尾崎信、同小野寺昭吉、同加藤晃、同佐藤京一(第一回)の各供述及び弁論の全趣旨を総合し、認めることができる。

しかしながら、右のいずれの点も、右原告らの自己の健康に対する責に帰すべき不注意によるというものではなく、被告らの右原告らに対するじん肺の病理やじん肺罹患防止についての教育の不十分さに起因するものと判断されるから、それを被告らの損害賠償額の減額事由としての過失相殺事由とすることは、当事者間の公平上相当でない。

2 また、被告らは、別紙六「抗弁一覧表」の「過失相殺」欄略記のとおり、同欄に記載の原告らには、じん肺罹患予防及びじん肺増悪防止に悪影響を及ぼす喫煙をして、自己保健義務を怠った過失があるとして、過失相殺を主張する。

甲B第七五、七六号証、第七九号証、第八二号証、第八五号証、第八七号証、第九〇号証、第九二ないし第九四号証、乙第九五号証、第一〇三号証、第一七七号証、証人小澤としね、原告鈴木政志、同佐藤京一(第二回)の各供述及び弁論の全趣旨によれば、右原告らが、細倉鉱山での就労期間中に、あるいは、じん肺罹患後に、喫煙をしていた事実を認めることができる。

甲A第三四〇ないし第三四二号証によれば、医療関係者の間で、喫煙がじん肺療養者の肺癌発生に与える影響に関し、喫煙が粉じんと一緒に作用して、肺末梢領域の粉じん除去機能を低下させ、これに粉じんが持つ癌原性、あるいは肺線維増殖性という作用が相乗的に働いて、肺癌発生への母地作りに関与しているという推測があるものの、それは実証されているものではないことが認められ、一般に、喫煙が、じん肺の罹患や増悪に対し、よい影響を与えないであろうことは経験則上推認することはできるが、それが具体的にいかなる悪影響を与えるものかについては、これを認めるべき確たる資料がない。

加えて、前記第七の一2で認定したとおり、右原告らは、その就労中、被告らから、十分なじん肺に関する教育を受けることがなかったため、じん肺の病理や危険性を十分認識することができなかったものであること、また、右当時の社会における喫煙に対する嗜好傾向等を考慮すれば、右原告らに対し、その日常生活において、じん肺に対する喫煙の悪影響を認識し、禁煙すべきことまでを注意義務として要求することは酷というべきであるから、右原告らの喫煙の事実をもって過失相殺事由とすることはできない。

また、右原告らの中には、じん肺罹患後も、医師からの禁煙の指導にもかかわらず、喫煙している者のいることが認められ、それが、じん肺の治療によい影響を及ぼさないであろうことは推認することはできるものの、その悪影響については、確たる資料がなく、また、本件において、右喫煙が右原告らのじん肺増悪に影響を与えたという証拠も存在しないから、これを、過失相殺事由とすることもできない。

二  損益相殺

1 被告らは、本件原告らが受領した労災補償給付あるいはじん肺見舞金は、じん肺に罹患したという、本訴での請求原因と同一の原因・理由により給付を受けたものであるから、本件損害と同一の原因によって生じた利得として、損益相殺の法理により、請求額からそれぞれ控除すべきであると主張する。

2 通常、労災補償法に基づく保険給付の原因となる事故が惹起され、使用者がそれによって生じた損害につき賠償責任を負う場合に、政府が被害者に対し、労災補償法に基づく保険給付をしたときは、被害者が使用者に対して取得した損害賠償請求権は、右保険給付と同一の事由については損害の填補がされたものとして、その給付の価額の限度において減縮するものと解されるところ、労災補償法に基づく休業補償給付、傷病補償年金により填補されるのは、被害者の受けた財産的損害のうちの消極損害(逸失利益)のみであり、精神的損害(慰謝料)は填補されないと解されるから、右各給付を受領したとしても、その額を慰謝料から控除することは許されないとされている。

また、甲A第一三三号証及び第三三四、三三五号証によれば、被告らの主張するじん肺見舞金は、労使間の労働協約に基づき支給されるじん肺特別餞別金であると認められるところ、その法的性質は、労災補償法に基づく給付の相対的な低水準に対してそれを補い、被害労働者の所得を補償する機能を有する労災補償給付の上積協定であると解され、したがって、通常、右休業補償給付等と同様、被告らの主張するじん肺見舞金によっては、精神的損害(慰謝料)は填補されず、その額を慰謝料から控除することは許されないものと解される。

3 本件原告らの本訴請求が、精神的損害と財産的損害を区分しない包括請求であって、慰謝料のみの請求ではあるが、そこに財産的損害の賠償請求の趣旨をも含んでいることは前記第八の一記載のとおりである。

したがって、右慰謝料額の算定に当たって、本件原告らが、じん肺に罹患したことによって受けた労災補償給付あるいはじん肺見舞金等の額をも考慮に入れるべきことも前記第八の一及び二2記載のとおりである。

そして、当裁判所が、前記第八の三で算定した本件原告らの損害としての慰謝料額は、右給付額をも考慮に入れたものである。

そうすると、右給付額を、改めて認定された慰謝料額から損益相殺することはできないものといわなければならない。

三  消滅時効

1 退職日説について

契約上の基本的な債務の不履行に基づく損害賠償債務は、本来の債務と同一性を有するから、その消滅時効は、本来の債務の履行を請求し得る時から進行すると解される(最高裁昭和三五年一一月一日第三小法廷判決・民集一四巻一三号二七八一頁参照)が、安全配慮義務は、特定の法律関係の付随義務として一方が相手方に対して負う信義則上の義務であって、この付随義務の不履行による損害賠償請求権は、付随義務を履行しなかったことにより積極的に生じた損害の賠償請求権であり、付随義務履行請求権の変形物ないし代替物であるとはいえないから、安全配慮義務違反に基づく損害賠償債務は、安全配慮義務と同一性を有するものではない(最高裁平成六年二月二二日第三小法廷判決・民集四八巻二号四四一頁参照)。

被告らは、雇用契約上の付随義務としての安全配慮義務の不履行に基づく損害賠償義務が、安全配慮義務と同一性を有することを前提として、右損害賠償請求権の消滅時効は、安全配慮義務の履行を請求し得た最終時点である原告ら退職時から進行すると主張するが、この主張は、右のとおりその前提を欠き、失当である。

2 本件における時効の起算点

雇用契約上の付随義務としての安全配慮義務の不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間は、民法一六七条一項により一〇年と解され(最高裁昭和五〇年二月二五日第三小法廷判決・民集二九巻二号一四三頁参照)、右一〇年の消滅時効は、同法一六六条一項により、右損害賠償請求権を行使し得る時から進行するものと解される。

そして、一般に、安全配慮義務違反による損害賠償請求権は、その損害が発生した時に成立し、同時にその権利を行使することが法律上可能となるというべきところ、じん肺に罹患した事実は、その旨の行政上の決定がなければ通常認め難いから、本件においては、じん肺の所見がある旨の最初の行政上の決定を受けた時に少なくとも損害の一端が発生したものということができる。

しかし、このことから、じん肺に罹患した患者の病状が進行し、より重い行政上の決定を受けた場合においても、重い決定に相当する病状に基づく損害を含む全損害が、最初の行政上の決定を受けた時点で発生していたものとみることはできない。

すなわち、前認定によれば、じん肺は、肺内に粉じんが存在する限り進行するが、それは肺内の粉じんの量に対応する進行であるという特異な進行性の疾患であって、しかも、その病状が管理二又は管理三に相当する病状にとどまっているようにみえる者もあれば、最も重い管理四に相当する症状まで進行した者もあり、また、進行する場合であっても、じん肺の所見がある旨の最初の行政上の決定を受けてからより重い決定を受けるまでに二〇年近く経過した者もあるなど、その進行の有無、程度、速度も、患者によって多様であることが明らかである。そうすると、例えば、管理二、管理三、管理四と順次行政上の決定を受けた場合には、事後的にみると一個の損害賠償請求権の範囲が量的に拡大したにすぎないようにみえるものの、このような過程の中の特定の時点の病状をとらえるならば、その病状が今後どの程度まで進行するのかはもとより、進行しているのか、固定しているのかすらも、現在の医学では確定することができないのであって、管理二の行政上の決定を受けた時点で、管理三又は管理四に相当する病状に基づく各損害の賠償を求めることはもとより不可能である。以上のようなじん肺の病変の特質にかんがみると、管理二、管理三、管理四の各行政上の決定に相当する病状に基づく各損害には、質的に異なるものがあるといわざるを得ず、したがって、重い決定に相当する病状に基づく損害は、その決定を受けた時に発生し、その時点からその損害賠償請求権を行使することが法律上可能となるものというべきであり、最初の軽い行政上の決定を受けた時点で、その後の重い決定に相当する病状に基づく損害を含む全損害が発生していたとみることは、じん肺という疾病の実態に反するものとして是認し得ない(最高裁平成六年二月二二日第三小法廷判決・民集四八巻二号四四一頁参照)。

更に、管理二又は管理三の者であって、肺結核等の合併症に罹患していると認められる者については、療養の対象とされ、労災補償給付が支給されることとされていることからも明らかなとおり、同じく管理二又は管理三の者であっても、合併症に罹患している者は、合併症に罹患していない者より、その健康被害の程度が大きいことが認められ、その間にも、質的に異なるものがあるということができる。そして、合併症に罹患した事実も、その旨の行政上の認定がなければ通常認め難いから、合併症の病状に基づく損害は、合併症の認定を受けた時に発生し、その時点からその損害賠償請求権を行使することが法律上可能となるものというべきであり、管理二又は管理三の行政上の決定を受けた時点で、合併症を含む病状に基づく損害の全損害が発生していたとみることはできない。

以上を要するに、雇用者の安全配慮義務違反によりじん肺に罹患したことを理由とする損害賠償請求権の消滅時効は、最初に最も重い行政上の決定を受けた時、あるいは合併症に罹患した場合は、その旨の最初の認定を受けた時から進行するものと解するのが相当である。

なお、被告らは、管理二、管理三及び管理四の各行政決定に相当する病状に基づく各損害が質的に異なるのであれば、時効の進行についても、それぞれの管理区分の行政上の決定を受けた日の翌日等からそれぞれの管理区分に相当する損害の消滅時効が進行する、たとえば、管理二の決定を受け、更に、管理三の決定を受けた者の場合、管理三の病状に基づく損害(管理三の病状に基づく損害と管理二の病状に基づく損害の差額)については、消滅時効が成立しないとしても、管理二の病状に基づく損害については、消滅時効が成立する余地がある旨の主張をする。

しかしながら、じん肺の慢性進行性の病状の特質に鑑みると、たとえば、管理三のじん肺罹患者は、同時に管理二のじん肺罹患者ともいえるのであるから、管理三の決定を受けた者の管理三の病状に基づく損害は、管理二の病状に基づく損害を内包しているのであって、管理二の病状から切り離された管理三独自の病状に基づく損害というものはあり得ないといわなければならない。

右じん肺の病状の特質に鑑みると、被告らの主張するような、管理三の病状と管理二の病状との損害の差額なるものを観念することは相当でなく、被告らの右主張は理由がない。

3 右の見地から、本件原告らにつき消滅時効の成否を検討すると、原告番号一二番氏家卯市が最初に最も重い行政上の決定を受けた時期及びその余の原告らが最も重い行政上の決定とともに最初に合併症の認定を受けた時期は、別紙三「原告ら元従業員作業等一覧表その二」の「最終行政決定日・管理区分・合併症」欄記載のとおりであり、いずれも、本件原告らが、本件訴えを提起した平成四年五月一九日までに一〇年が経過していないことは明らかである。

右のとおりであって、被告らの消滅時効の主張は理由がない。

第十  結論

以上のとおりであって、本件原告らの本訴各慰謝料及び弁護士費用請求は、別紙一「認容金額一覧表」の「原告」欄記載の各原告が、同表の「被告」欄記載の被告ら各自に対し、同表の「認容金額合計」欄記載の各金員の支払いを求める限度で理由がある。

遅延損害金の起算日について検討する。

本件における被告らの損害賠償債務は、安全配慮義務違反に基づく債務不履行責任である。通常、右損害賠償債務は、期限の定めのない債務であるから、本件原告らから請求のあった日の翌日、本件では、被告らに対し、本訴状の送達された日の翌日であることが記録上明らかな平成四年六月一〇日に遅滞に陥る。

しかしながら、前認定・判断のとおり、被告らの右安全配慮義務違反は、本件原告らに対する不法行為をも構成するものである。そうすると、右損害賠償債務は、本件原告らの損害発生の日である、本件原告らが最初に最も重い行政上の決定を受けた日ないしは最も重い行政上の決定とともに最初に合併症の認定を受けた日である、別紙三「原告ら元従業員作業等一覧表その二」の「最終行政決定日・管理区分・合併症」欄記載の各日に遅滞に陥ると考えることができ、右損害発生の日から、本訴提起の日であることが記録上明らかな平成四年五月一九日までに三年を経過していない、原告番号三番菅原勝吉、原告番号六番吉田清及び原告番号一一番佐々木松一に対する各債務については、被告らは、右「最終行政決定日・管理区分・合併症」欄記載の各日に遅滞に陥ると解するのが相当である。

なお、その余の原告らについては、右「最終行政決定日・管理区分・合併症」欄記載の各日から本訴提起までに既に三年以上を経過しているから、遅延損害金について、右と同様の不法行為的構成を採るのは相当でなく、前記のとおり、本訴状の送達された日の翌日である平成四年六月一〇日に遅滞に陥るというべきである。

そうすると、本件原告らの本訴各遅延損害金請求は、別紙一「認容金額一覧表」の「認容金額合計」欄記載の各金員に対する同表の「遅延損害金起算日」欄記載の各日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。

本件原告らのその余の請求は、いずれも理由がない。

なお、仮執行宣言は、同表の「仮執行認容額」欄記載の限度で付するのが相当である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官坂本慶一 裁判官大野勝則 裁判官佐藤重憲)

別紙

一 認容金額一覧表

原 告

被 告

認容金額

遅延損害金

起算日

仮執行

認容額

慰謝料

弁護士費用

合 計

佐藤研

原告番号

一番

三菱マテリアル

細倉鉱業

一五〇〇万円

一五〇万円

一六五〇万円

平成四年

六月一〇日

一三二〇万円

井上仁市

原告番号

二番

三菱マテリアル

細倉鉱業

一四〇〇万円

一四〇万円

一五四〇万円

平成四年

六月一〇日

一二三二万円

菅原勝吉

原告番号

三番

三菱マテリアル

細倉鉱業

一五〇〇万円

一五〇万円

一六五〇万円

平成元年

九月一九日

一三二〇万円

渡辺新造

原告番号

四番

三菱マテリアル

細倉鉱業

一五〇〇万円

一五〇万円

一六五〇万円

平成四年

六月一〇日

一三二〇万円

佐藤聖

原告番号

五番

三菱マテリアル

細倉鉱業

一四〇〇円

一四〇万円

一五四〇万円

平成四年

六月一〇日

一二三〇万円

吉田清

原告番号

六番

三菱マテリアル

細倉鉱業

一五〇〇万円

一五〇万円

一六五〇万円

平成元年

七月二四日

一三二〇万円

渋谷哲三郎

原告番号

七番

三菱マテリアル

細倉鉱業

一六〇〇万円

一六〇万円

一七六〇万円

平成四年

六月一〇日

一四〇八万円

干葉哲郎

原告番号

八番

三菱マテリアル

細倉鉱業

一四〇〇万円

一四〇万円

一五四〇万円

平成四年

六月一〇日

一二三二万円

草沢清春

原告番号

九番

三菱マテリアル

細倉鉱業

一四〇〇万円

一四〇万円

一五四〇万円

平成四年

六月一〇日

一二三二万円

佐藤忠雄

原告番号

一〇番

三菱マテリアル

細倉鉱業

一五〇〇万円

一五〇万円

一六五〇万円

平成四年

六月一〇日

一三二〇万円

佐々木松一

原告番号

一一番

三菱マテリアル

細倉鉱業

一七〇〇万円

一七〇万円

一八七〇万円

平成元年

一〇月二七日

一四九六万円

氏家卯市

原告番号

一二番

三菱マテリアル

二三〇〇万円

二三〇万円

二五三〇万円

平成四年

六月一〇日

二〇二四万円

安倍七五郎

原告番号

一三番

三菱マテリアル

一四〇〇万円

一四〇万円

一五四〇万円

平成四年

六月一〇日

一二三二万円

佐藤守志

原告番号

一四番

三菱マテリアル

一四〇〇万円

一四〇万円

一五四〇万円

平成四年

六月一〇日

一二三二万円

神田温悦

原告番号

一五番

三菱マテリアル

一七〇〇万円

一七〇万円

一八七〇万円

平成四年

六月一〇日

一四九六万円

氏家三郎

原告番号

一六番

三菱マテリアル

一七〇〇万円

一七〇万円

一八七〇万円

平成四年

六月一〇日

一四九六万円

小澤幸太郎

原告番号

一七番

三菱マテリアル

一五〇〇万円

一五〇万円

一六五〇万円

平成四年

六月一〇日

一三二〇万円

鈴木政志

原告番号

一八番

三菱マテリアル

細倉鉱業

一六〇〇万円

一六〇万円

一七六〇万円

平成四年

六月一〇日

一四〇八万円

氏家正志

原告番号

一九番

三菱マテリアル

細倉鉱業

一五〇〇万円

一五〇万円

一六五〇万円

平成四年

六月一〇日

一三二〇万円

尾崎信

原告番号

二〇番

三菱マテリアル

細倉鉱業

一四〇〇万円

一四〇万円

一五四〇万円

平成四年

六月一〇日

一二三二万円

小野寺昭吉

原告番号

二一番

三菱マテリアル

細倉鉱業

一六〇〇万円

一六〇万円

一七六〇万円

平成四年

六月一〇日

一四〇八万円

加藤晃

原告番号

二二番

三菱マテリアル

細倉鉱業

一六〇〇万円

一六〇万円

一七六〇万円

平成四年

六月一〇日

一四〇八万円

佐藤京一

原告番号

二三番

三菱マテリアル

細倉鉱業

大手開発

一九〇〇万円

一九〇万円

二〇九〇万円

平成四年

六月一〇日

一六七二万円

別紙

二 原告ら元従業員作業等一覧表 その一

原 告

雇用者

就労鉱山

職 種

就労期間(昭和年月)

最終行政決定日

管理区分

合 併 症

始 期

終 期

佐藤研

原告番号

一番

三菱マテリアル

細倉

整備員

二四・一〇

三二・八

昭和六二年四月三〇日

管理二

続発性気管支炎

細倉

支柱員

三二・九

四六・五

細倉

採鉱員

四六・六

四八・三

細倉

職長

四八・四

五一・六

細倉鉱業

細倉

職長

五一・七

六〇・七

井上仁市

原告番号

二番

三菱マテリアル

細倉

運搬員

三八・一

三八・三

昭和六二年一一月五日

管理二

続発性気管支炎

細倉

支柱員

三八・四

四六・五

細倉

採鉱員

四六・六

五一・六

細倉鉱業

細倉

採鉱員

五一・七

六二・二

菅原勝吉

原告番号

三番

三菱マテリアル

細倉

運搬員

二三・八

四六・五

平成元年九月一九日

管理二

続発性気管支炎

細倉

採鉱員

四六・六

五一・六

細倉鉱業

細倉

採鉱員

五一・七

五八・八

渡辺新造

原告番号

四番

三菱マテリアル

細倉

鉛製錬

溶鉱員

三四・四

五一・六

昭和六三年四月一五日

管理二

続発性気管支炎

細倉鉱業

細倉

鉛製錬

溶鉱員

五一・七

六二・二

佐藤聖

原告番号

五番

三菱マテリアル

細倉

運搬員

二六・四

二八・某

昭和六三年一一月一一日

管理二

続発性気管支炎

細倉

坑内工作員

二八・某

四六・五

細倉

整備員

四六・六

五一・六

細倉鉱業

細倉

整備員

五一・七

五九・一

吉田清

原告番号

六番

三菱マテリアル

鷲合森

運搬員

二六・一一

三五・一

平成元年七月二四日

管理二

続発性気管支炎

鷲合森

支柱員

三五・二

四七・三

細倉

採鉱員

四七・四

五一・六

細倉鉱業

細倉

採鉱員

五一・七

六二・二

渋谷哲三郎

原告番号

七番

三菱マテリアル

細倉

運搬員

二二・四

四六・五

昭和六三年二月一〇日

管理三イ

続発性気管支炎

細倉

採鉱員

四六・六

五一・六

細倉鉱業

細倉

採鉱員

五一・七

五二・三

千葉哲郎

原告番号

八番

三菱マテリアル

細倉

坑内工作員

四一・一〇

四五・一〇

平成元年五月八日

管理二

続発性気管支炎

細倉

運搬員

四五・一〇

四六・六

細倉

採鉱員

四六・六

五一・六

細倉鉱業

細倉

採鉱員

五一・七

六二・三

草沢清春

原告番号

九番

三菱マテリアル

尾去沢

運搬員

三六・一一

三七・六

平成元年二月二二日

管理二

続発性気管支炎

尾去沢

さく岩員

三七・七

四二・九

細倉

運搬員

四二・一〇

四五・七

細倉

さく岩員

四五・八

四六・五

細倉

採鉱員

四六・六

五一・六

細倉鉱業

細倉

採鉱員

五一・七

六二・三

佐藤忠男

原告番号

一〇番

三菱マテリアル

細倉

支柱員

三九・一一

四六・五

昭和六三年四月一五日

管理二

続発性気管支炎

細倉

採鉱員

四六・六

五一・六

細倉鉱業

細倉

採鉱員

五一・七

六二・三

佐々木松一

原告番号

一一番

三菱マテリアル

鷲合森

運搬員

二六・七

二八・三

平成元年一〇月二七日

管理三イ

続発性気管支炎

鷲合森

支柱員

二八・四

四七・三

細倉

採鉱員

四七・四

五一・六

細倉鉱業

細倉

採鉱員

五一・七

六〇・六

氏家卯市

原告番号

一二番

三菱マテリアル

細倉

運搬員

一二・一二

一三・一一

昭和六一年七月一日

管理四

細倉

支柱員

一三・一二

一六・九

細倉

支柱員

二〇・一

四四・一二

安倍七五郎

原告番号

一三番

三菱マテリアル

細倉

運搬員

二一・五

四二・一一

平成元年三月八日

管理二

続発性気管支炎

佐藤守志

原告番号

一四番

三菱マテリアル

細倉

支柱員

二二・一二

四六・五

平成元年二月一日

管理二

続発性気管支炎

細倉

採鉱員

四六・六

四七・一一

神田温悦

原告番号

一五番

三菱マテリアル

細倉

支柱員

二一・一〇

四六・五

昭和六二年一二月一〇日

管理三イ

続発性気管支炎

細倉

採鉱員

四六・六

五一・三

氏家三郎

原告番号

一六番

三菱マテリアル

細倉

運搬員

二三・二

四六・五

昭和六三年四月一五日

管理三イ

続発性気管支拡張症

細倉

採鉱員

四六・六

四七・一一

小澤幸太郎

原告番号

一七番

三菱マテリアル

細倉

運搬員

三六・四

四六・五

昭和六三年二月一〇日

管理三イ

続発性気管支炎

細倉

採鉱員

四六・六

四七・一一

鈴木政志

原告番号

一八番

熊谷組

細倉

支柱員

三一・三

三四・九

昭和六三年九月一二日

管理三イ

続発性気管支炎

三菱マテリアル

細倉

運搬員

三四・一〇

三六・五

細倉

支柱員

三六・六

四六・五

細倉

採鉱員

四六・六

五一・六

細倉鉱業

細倉

採鉱員

五一・七

六一・八

氏家正志

原告番号

一九番

熊谷組

細倉

さく岩員

三二・四

三九・一一

昭和六二年七月一三日

管理二

続発性気管支炎

三菱マテリアル

細倉

クルー員

三九・一二

四六・五

細倉

採鉱員

四六・六

五一・六

細倉鉱業

細倉

採鉱員

五一・七

五七・六

細倉

職長

五七・七

六〇・七

尾崎信

原告番号

二〇番

熊谷組

細倉

運搬員

三二・一〇

三四・二

昭和六三年四一五日

管理二

続発性気管支炎

細倉

さく岩員

三九・二

三九・一一

三菱マテリアル

細倉

クルー員

三九・一二

四六・五

細倉

採鉱員

四六・六

五一・六

細倉鉱業

細倉

採鉱員

五一・七

六二・二

小野寺昭吉

原告番号

二一番

熊谷組

細倉

さく岩員

二七・八

三九・一一

昭和六三年四月一五日

管理三イ

続発性気管支炎

三菱マテリアル

細倉

クルー員

三九・一二

四六・五

細倉

採鉱員

四六・六

五一・六

細倉鉱業

細倉

採鉱員

五一・七

五九・七

加藤晃

原告番号

二二番

熊谷組

福舟

運搬員

三九・四

四一・三

昭和六三年九月二六日

管理三イ

続発性気管支炎

細倉

さく岩員

四一・三

四三・三

大手開発

佐渡

さく岩員

四三・四

四五・一〇

佐渡

さく岩員

四六・一一

四七・六

三菱マテリアル

細倉

採鉱員

四九・九

五一・六

細倉鉱業

細倉

採鉱員

五一・七

六一・五

佐藤京一

原告番号

二三番

熊谷組

細倉

さく岩員

二七・一一

三一・一

昭和六二年一二月二日

管理三ロ

続発性気管支炎

福富

さく岩員

三一・二

三二・八

福舟

さく岩員

三二・九

三三・四

細倉

さく岩員

三七・五

五三・九

大手開発

細倉

坑内員

五三・一〇

五八・六

細倉

職長

五八・七

六二・二

細倉

残務整理

六二・三

六二・一二

別紙三

原告ら元従業員作業等一覧表 その二

原 告

雇用者

就労鉱山

職 種

就労期間(昭和年月)

最終行政決定日

管理区分

合 併 症

始 期

終 期

佐藤研

原告番号

一番

三菱マテリアル

細倉

整備員

二四・一〇

二七・九

昭和六二年四月三〇日

管理二

続発性気管支炎

細倉

軌道員

二七・一〇

三二・八

細倉

支柱員

三二・九

四六・五

細倉

採鉱員

四六・六

四八・三

細倉

職長

四八・四

五一・六

細倉鉱業

細倉

職長

五一・七

六〇・七

井上仁市

原告番号

二番

三菱マテリアル

細倉

運搬員

三八・一

三八・三

昭和六二年一一月五日

管理二

続発性気管支炎

細倉

支柱員

三八・四

四六・五

細倉

採鉱員

四六・六

五一・六

細倉鉱業

細倉

採鉱員

五一・七

六二・二

菅原勝吉

原告番号

三番

三菱マテリアル

細倉

運搬員

二三・八

四六・五

平成元年九月一九日

管理二

続発性気管支炎

細倉

採鉱員

四六・六

五一・六

細倉鉱業

細倉

採鉱員

五一・七

五八・八

渡辺新造

原告番号

四番

三菱マテリアル

細倉

鉛製錬

補助員

三四・四

三五・三

昭和六三年四月一五日

管理二

続発性気管支炎

細倉

鉛製錬

調合員

三五・四

三六・三

細倉

鉛製錬

溶鉱員

三六・四

五一・六

細倉鉱業

細倉

鉛製錬

溶鉱員

五一・七

六二・二

佐藤聖

原告番号

五番

三菱マテリアル

細倉

鉄管員

二六・四

四一・二

昭和六三年一一月一一日

管理二

続発性気管支炎

細倉

坑内工作員

四一・三

四六・五

細倉

整備員

四六・六

五一・六

細倉鉱業

細倉

整備員

五一・七

五九・一

吉田清

原告番号

六番

三菱マテリアル

鷲合森

運搬員

二六・一一

三五・一

平成元年七月二四日

管理二

続発性気管支炎

鷲合森

支柱員

三五・二

四七・三

細倉

採鉱員

四七・四

五一・六

細倉鉱業

細倉

採鉱員

五一・七

六二・二

渋谷哲三郎

原告番号

七番

三菱マテリアル

細倉

運搬員

二二・四

四六・五

昭和六三年二月一〇日

管理三イ

続発性気管支炎

細倉

採鉱員

四六・六

五一・六

細倉鉱業

細倉

採鉱員

五一・七

五二・三

千葉哲郎

原告番号

八番

三菱マテリアル

細倉

坑内工作員

四一・一〇

四五・六

平成元年五月八日

管理二

続発性気管支炎

細倉

運搬員

四五・七

四六・六

細倉

採鉱員

四六・六

五一・六

細倉鉱業

細倉

採鉱員

五一・七

六二・三

草沢清春

原告番号

九番

三菱マテリアル

尾去沢

運搬員

三六・一一

三七・六

平成元年二月二二日

管理二

続発性気管支炎

尾去沢

細倉

さく岩員

三七・七

四二・九

細倉

運搬員

四二・一〇

四五・七

細倉

さく岩員

四五・八

四六・五

細倉

採鉱員

四六・六

五一・六

細倉鉱業

細倉

採鉱員

五一・七

六二・三

佐藤忠男

原告番号

一〇番

三菱マテリアル

細倉

支柱員

三九・一一

四六・五

昭和六三年四月一五日

管理二

続発性気管支炎

細倉

採鉱員

四六・六

五一・六

細倉鉱業

細倉

採鉱員

五一・七

六二・三

佐々木松一

原告番号

一一番

三菱マテリアル

鷲合森

運搬員

二六・七

二八・三

平成元年一〇月二七日

管理三イ

続発性気管支炎

鷲合森

支柱員

二八・四

四七・三

細倉

採鉱員

四七・四

五一・六

細倉鉱業

細倉

採鉱員

五一・七

六〇・六

氏家卯市

原告番号

一二番

三菱マテリアル

細倉

運搬員

一二・一二

一三・一一

昭和六一年七月一日

管理四

細倉

支柱員

一三・一二

一六・九

細倉

支柱員

二〇・一

四四・一二

安倍七五郎

原告番号

一三番

三菱マテリアル

細倉

運搬員

二一・五

四二・一一

平成元年三月八日

管理二

続発性気管支炎

佐藤守志

原告番号

一四番

三菱マテリアル

細倉

支柱員

二二・一二

四六・五

平成元年二月一日

管理二

続発性気管支炎

細倉

採鉱員

四六・六

四七・一一

神田温悦

原告番

号一五番

三菱マテリアル

細倉

支柱員

二一・一〇

四六・五

昭和六二年一二月一〇日

管理三イ

続発性気管支炎

細倉

採鉱員

四六・六

五一・三

氏家三郎

原告番号

一六番

三菱マテリアル

細倉

運搬員

二三・二

四六・五

昭和六三年四月一五日

管理三イ

続発性気管支拡張症

細倉

採鉱補員

四六・六

四七・一一

小澤幸太郎

原告番号

一七番

三菱マテリアル

細倉

運搬員

三六・四

四六・五

昭和六三年二月一〇日

管理二

続発性気管支炎

細倉

採鉱員

四六・六

四七・一一

鈴木政志

原告番号

一八番

熊谷組

細倉

支柱員

三一・三

三四・九

昭和六三年九月一二日

管理三イ

続発性気管支炎

三菱マテリアル

細倉

運搬員

三四・一〇

三六・五

細倉

支柱員

三六・六

四六・五

細倉

採鉱員

四六・六

五一・六

細倉鉱業

細倉

採鉱員

五一・七

六一・八

氏家正志

原告番号

一九番

熊谷組

細倉

さく岩員

三二・四

三九・一一

昭和六二年七月一三日

管理二

続発性気管支炎

三菱マテリアル

細倉

クルー員

三九・一二

四二・一〇

細倉

さく岩員

四二・一一

四六・五

細倉

採鉱員

四六・六

五一・六

細倉鉱業

細倉

採鉱員

五一・七

五七・六

細倉

職長

五七・七

六〇・七

尾崎信

原告番号

二〇番

熊谷組

細倉

運搬員

三二・一〇

三四・二

昭和六三年四月一五日

管理二

続発性気管支炎

細倉

さく岩員

三九・二

三九・一一

細倉

クルー員

三九・一二

四六・五

三菱マテリアル

細倉

採鉱員

四六・六

五一・六

細倉鉱業

細倉

採鉱員

五一・七

六二・二

小野寺昭吉

原告番号

二一番

熊谷組

細倉

さく岩員

二七・八

三九・一一

昭和六三年四月一五日

管理三イ

続発性気管支炎

三菱マテリアル

細倉

クルー員

三九・一二

四六・五

細倉

採鉱員

四六・六

五一・六

細倉鉱業

細倉

採鉱員

五一・七

五九・七

加藤晃

原告番号

二二番

熊谷組

福舟

運搬員

三九・四

四一・三

昭和六三年九月二六日

管理三イ

続発性気管支炎

細倉

さく岩員

四一・三

四三・三

大手開発

佐渡

さく岩員

四三・四

四五・一〇

佐渡

さく岩員

四六・一一

四七・六

三菱マテリアル

細倉

採鉱員

四九・九

五一・六

細倉鉱業

細倉

採鉱員

五一・七

六一・五

佐藤京一

原告番号

二三番

熊谷組

細倉

さく岩員

二七・一一

三一・一

昭和六二年一二月二日

管理三ロ

続発性気管支炎

福富

さく岩員

三一・二

三二・八

福舟

さく岩員

三二・九

三三・四

細倉

さく岩員

三七・五

五三・九

大手開発

細倉

坑内員

五三・一〇

五八・六

細倉

職長

五八・七

六二・二

細倉

残務整理

六二・三

六二・一二

別紙四 <省略>

別紙

五 原告ら健康被害一覧表

原 告

結節像の進展

肺機能

障害

合併症

呼吸困難度

佐藤研

原告番号 一番

昭和五八年以降進展なし

なし

なし

呼吸困難度Ⅲより軽度

井上仁市

原告番号 二番

昭和六二年以降進展なし

なし

なし

呼吸困難度Ⅲより軽度

菅原勝吉

原告番号 三番

なし

呼吸困難度Ⅲより軽度

渡辺新造

原告番号 四番

なし

なし

呼吸困難度Ⅲより軽度

佐藤聖

原告番号 五番

昭和六三年以降進展なし

なし

なし

呼吸困難度Ⅲより軽度

吉田清

原告番号 六番

平成元年以降進展なし

なし

なし

呼吸困難度Ⅲより軽度

渋谷哲三郎

原告番号 七番

なし

なし

呼吸困難度Ⅲより軽度

千葉哲郎

原告番号 八番

平成元年以降進展なし

なし

なし

呼吸困難度Ⅲより軽度

草沢清春

原告番号 九番

平成元年以降進展なし

なし

なし

呼吸困難度Ⅲより軽度

佐藤忠男

原告番号一〇番

昭和六三年以降進展なし

なし

なし

呼吸困難度Ⅲより軽度

佐々木松一

原告番号一一番

なし

氏家卯市

原告番号一二番

安倍七五郎

原告番号一三番

なし

なし

呼吸困難度Ⅲより軽度

佐藤守志

原告番号一四番

昭和六三年以降進展なし

なし

なし

呼吸困難度Ⅲより軽度

神田温悦

原告番号一五番

なし

呼吸困難度Ⅲより軽度

氏家三郎

原告番号一六番

昭和六二年以降進展なし

なし

なし

呼吸困難度Ⅲより軽度

小澤幸太郎

原告番号一七番

昭和六二年以降進展なし

なし

なし

呼吸困難度Ⅲより軽度

鈴木政志

原告番号一八番

なし

なし

呼吸困難度Ⅲより軽度

氏家正志

原告番号一九番

昭和五八年以降進展なし

なし

なし

呼吸困難度Ⅲより軽度

尾崎信

原告番号二〇番

昭和五七年以降進展なし

なし

なし

呼吸困難度Ⅲより軽度

小野寺昭吉

原告番号二一番

なし

なし

呼吸困難度Ⅲより軽度

加藤晃

原告番号二二番

なし

なし

呼吸困難度Ⅲより軽度

佐藤京一

原告番号二三番

昭和六二年以降進展なし

なし

なし

呼吸困難度Ⅲより軽度

別紙

六 抗弁一覧表

原 告

過 失 相 殺

損 益 相 殺

消 滅 時 効

労災補償給付

じん肺見舞金

佐藤研

原告番号

一番

マスク不着用・散水不実施・

喫煙

二八〇〇万円

一〇万円

昭和五八年三月二八日

管理二決定

昭和六〇年七月

退職

井上仁市

原告番号

二番

喫煙

三二〇〇万円

昭和六二年二月

退職

菅原勝吉

原告番号

三番

喫煙

二一〇〇万円

一〇万円

昭和五八年三月二八日

管理二決定

昭和五八年八月

退職

渡辺新造

原告番号

四番

マスク着用及び管理不適切・

防じんフード開放作業・喫煙

一九〇〇万円

一五万円

昭和五八年三月二八日

管理二決定

昭和六二年二月

退職

佐藤聖

原告番号

五番

二〇〇〇万円

昭和五九年一月

退職

吉田清

原告番号

六番

マスク不着用・散水不実施・

発破直後切羽侵入・喫煙

一九〇〇万円

一五万円

昭和五八年三月二八日

管理二決定

昭和六二年二月

退職

渋谷哲三郎

原告番号

七番

喫煙

一七〇〇万円

八万円

昭和四八年三月六日

管理二決定

昭和五二年三月三一日

退職

昭和六三年二月一〇日

管理三イ決定

千葉哲郎

原告番号

八番

マスク不着用・散水不実施・

喫煙

二三〇〇万円

昭和六二年三月

退職

草沢清春

原告番号

九番

マスク不着用

二四〇〇万円

一五万円

昭和五四年一二月五日

管理二決定

昭和六二年三月

退職

佐藤忠男

原告番号

一〇番

マスク不着用・散水不実施・

喫煙

二八〇〇万円

一五万円

昭和五四年一二月五日

管理二決定

昭和六二年三月

退職

佐々木松一

原告番号

一一番

二一〇〇万円

一〇万円

昭和五八年三月二八日

管理二決定

昭和六〇年六月

退職

氏家卯市

原告番号

一二番

喫煙

三〇〇〇万円

三万円

昭和四四年三月一一日

管理三決定

昭和四五年二月一八日

退職

昭和六一年七月一日

管理四決定

安倍七五郎

原告番号

一三番

二五〇〇万円

昭和四二年一一月一七日

退職

佐藤守志

原告番号

一四番

マスク不着用・散水不実施・

喫煙

二六〇〇万円

昭和四七年一一月一〇日

退職

昭和四九年七月

管理二有所見診断

神田温悦

原告番号

一五番

一七〇〇万円

五八万九千円

昭和五一年三月五日

退職

昭和五一年八月二日

管理三決定

氏家三郎

原告番号

一六番

喫煙

二二〇〇万円

昭和四七年一一月二九日

退職

小澤幸太郎

原告番号

一七番

マスク不着用・散水不実施・

喫煙

二一〇〇万円

昭和四七年一一月三〇日

退職

鈴木政志

原告番号

一八番

マスク不着用・

さく岩機乾式使用・散水不実施・喫煙

二三〇〇万円

七〇万円

昭和五四年一二月五日

管理二決定

昭和六〇年一〇月二二日

管理三イ決定

昭和六一年八月

退職

氏家正志

原告番号

一九番

喫煙

二五〇〇万円

一〇万円

昭和五三年一二月二六日

管理二決定

昭和六〇年七月

退職

尾崎信

原告番号

二〇番

マスク着用不適切・喫煙

三〇〇〇万円

一五万円

昭和五八年三月二八日

管理二決定

昭和六二年二月

退職

小野寺昭吉

原告番号

二一番

マスク不着用

二五〇〇万円

昭和五九年七月

退職

加藤晃

原告番号

二二番

マスク不着用・散水不実施・

喫煙

二一〇〇万円

昭和五八年三月二八日

管理二決定

昭和六〇年一〇月二二日

管理三イ決定

昭和六一年五月

退職

佐藤京一

原告番号

二三番

マスク不着用・散水不実施・

喫煙

一二〇〇万円

昭和五二年一二月

管理二決定

昭和五四年一月

管理三イ決定

昭和五七年三月一八日

管理三ロ有所見診断

昭和六二年二月

退職

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